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第4章:我がレオンハルトは銀の道にあり ( 11 )


北の特区――そこはアルスが「理想の国家」をシミュレーションするために作った、レオンハルト領最北の開拓村だった。



石造りの頑丈な校舎、計画的に配置された共同貯蔵庫、そして銀の道の終着点。



そこには今、未曾有の危機が迫っていた。



「……来たか」



エレナ・ヴァン・レオンハルトは、特区の入り口にそびえる見張り塔から、白銀の地平線を見つめていた。



雪を跳ね上げ、地平線を黒く塗りつぶす軍勢。カスティア王国の山岳重装歩兵だ。



彼らは冬の山脈を越えたとは思えないほど、整然とした隊列を組んでいた。



「隊長、敵の先遣隊だけでおよそ二千。……対して、こちらは我ら百人と、村の自警団のみやです」



副官の声が震える。無理もない。常識的に考えれば、これは戦いではなく「虐殺」の場になるはずだった。



エレナは背後の「銀の道」を振り返った。


三日前、エレナは副官と数人の部下と共に村に着いた。


テラの作った高速移動が可能な馬車のおかげで敵が陣営を整える前に村に着き、村長と防衛について詰めることができた。


村の広場には、先ほど部下たちと物資を送り届けた高速馬車が、湯気を立てて停車している。馬は泡を吹き、車輪の軸は摩擦熱で赤く焼けていた。



その馬車からは、今も次々と「物資」が運び出されている。



「副官、怯えるな。アルスの計算によれば、我々がここで一日耐えるごとに、後ろから百人の増援と一週間分の食糧が届く」



エレナは、アルスから渡された「戦時配給食」を口に放り込んだ。高カロリーに調整された干し肉と、魔法で温まるスープ。



「敵は山を越えて腹を空かせている。だが、私たちは最高の道を通って届いた、温かい食事を摂っている。……これだけで、兵一人あたりの戦闘力は三倍になる」



エレナは校舎の屋上に、アルスの紋章旗を掲げさせた。



「カイルから聞いた。この村の校舎は、アルスが『有事の際には要塞として機能するように』と、わざわざ分厚い石材で建てさせたってね」



エレナは後ろにいた北の村の村長ボルスに言った。


「はい。我々北の村はアルス様が特区に設定していただいたおかげで、教育にも力を入れることができました。村民のほとんどが工兵としての基礎的な教育を受けております。」



村の広場には、すでにテラが送り込んだ「簡易防壁」が、村の工兵隊の手によってパズルのように組み立てられていた。



ただの農村が、三日で「機能的な小要塞」へと変貌していく。



「アルス、あんたの言う通りよ。……物流が繋がっている限り、ここは孤立無援の絶望の地じゃない。王国の心臓と直結した、最も熱い戦場だわ」



エレナが剣を抜き、空に向かって掲げる。



「全員、配置につけ! 私たちが一分守れば、アルスが勝利を十メートル手繰り寄せる! 鋼の道の意地を見せてやりなさい!」




突撃の喇叭らっぱが響き渡った。


冬の嵐を切り裂いて、カスティア軍の猛攻が始まる。



だが、彼らはまだ知らない。



自分たちが戦っているのは、目の前の百人の兵士だけではないということを。


その背後にある、一本の「銀の道」と、それを操る一人の青年の「冷徹な演算」と戦っているのだということを。



物語は、平時の開拓から、血と鉄の「戦時統計学」へと、その幕を上げた。


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