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第3章:死にゆく領地の解剖図 ( 11 )




領主館前の大広場には、一年前とは比較にならないほどの群衆が詰めかけていた。


各村に一年前と同じように、アルスが演説をすると知らせを出したからだ。



前よりも大勢の村人が村から出て、アルスの話を聞きに来ていた。



しかし、そこにある空気は、あの日の怒号と不信ではない。張り詰めた緊張と、それ以上の熱烈な期待だ。




演壇に立つアルスの背後には、縄で繋がれたロレンツ商会の幹部たちと、旧体制の徴税官たちが並んでいる。



彼らは先日、北の第一村を襲撃しようとして、ジャック率いる「特別監査室」――かつてアルスが汚物処理から再教育した元山賊たち――によって現行犯逮捕された者たちだ。




「……一年前、私はこの場所で泥を投げられた。君たちは私の言葉を『呪文』と呼び、私の理想を『簒奪』と呼んだ」




アルスの声は、魔術の拡声なしでも広場の隅々まで通った。



「だが、時は流れた。……北の第一村の者たち、前へ」



群衆が割れ、北の村の農夫たちが歩み出た。



彼らの手には、黄金色に輝く最高品質の麦の束がある。


そして、一人の若い女が、大切そうに赤子を抱きかかえていた。 




「この一年、北の村では『三圃式』と『新型犂』、そして私が『ゴミ』と蔑まれながら作った堆肥によって、例年の三倍の収穫を上げた。そして――」



赤子の産声が、静まり返った広場に響き渡る。



「……三年ぶりに、新しい命がこの領地に刻まれた。これが私の計算の『答え』だ」



広場から地鳴りのような歓声が上がる。



続いてアルスは、西の村の村長、ゴードンを指し示した。




「西の村はどうだ。半年前、君たちは私に跪き、契約を求めた。今、君たちの田畑はかつてない地力を取り戻し、薬草に殺される日々は終わった。君たちの腹は、白いパンで満たされているはずだ」




西の村人たちが力強く拳を突き上げ、喜びの叫びを空に向かって一斉に弾けさせた。




一方で、広場の一角で青ざめた顔をして立ち尽くす集団がいた。



バルトロ派の役人が幅を利かせ、アルスの改革を「伝統の破壊」として拒絶し続けていた、南と東の村々だ。



彼らの身なりは一年前と変わらず、痩せこけ、目は虚ろだ。

村長と補佐など一部の裕福な層を除いて。



隣村が黄金の麦と新しい命に沸く中で、彼らだけが「情報の檻」の中に留まり、旧来の搾取に喘ぎ続けていた。


その格差は、どんな言葉よりも残酷に「アルスの正しさ」を証明していた。



「南と東の村長たちよ。君たちが守ろうとした『伝統』の正体が、後ろに並ぶこの男たちだ」



アルスは冷徹な眼差しでロレンツを振り返った。



「彼らは先日、北の村の麦と牛を強奪しようとした。なぜか? 君たちが飢えている間に、自分たちだけが肥え太るための『隠し財産』が尽きかけたからだ。彼らは君たちを救わない。君たちを『使い捨ての部品』としか数えていないからだ」



南と東の村人は憎悪の眼差しを村長や補佐、ロレンツらに向けた。



アルスは、ジャックたちが押収した裏帳簿を高く掲げた。



「この裁判は、単なる断罪ではない。情報の檻という名の『過去』を焼き捨てる儀式だ。……ロレンツ、および加担した役人たちを、国家反逆罪および領民への収奪罪で処刑に処す。」



ロレンツや徴税官は顔を青白くした。


そして、アルスはその様子を目の端に留めながら、言葉を続けた。




「彼らが溜め込んだ不正な財産、金貨五百枚は、すべて南と東の村の再生資金として『投資』する」



「な……!」



絶望に暮れていた南と東の人々が、驚愕に目を見開いた。


自分たちを裏切り、泥を投げた者たちにさえ、アルスは「次なる計算」の中に居場所を用意していたのだ。



「もちろん投資なので、数年後から税を課すが、あとで話せばよいだろう。ただ、明日から北の村へ行って、肥料の作り方を学んでこい。……これからは、誰に情報を隠されることもない。君たちの汗は、正しく君たちのパンになる。これが、アルス・ヴァン・レオンハルトの統治だ。」



地響きのような、一年前とは真逆の歓喜が領都を包んだ。



南と東の村人たちは、泣き崩れながらアルスの名を呼び、その「透明な支配」に自ら檻を壊して飛び込んでいった。



「……セバス。計算通りだ。これで領地全域の『最適化』が完了した」



「……お見事です、アルス様。泥を投げられたあの日から一年、あなたは世界を数式で書き換えられましたな」



燃え盛る旧台帳の煙の向こうで、アルスは次の、さらに広大な「国家規模」の計算を開始していた。



-第一部 完-

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