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境界の灯  作者: えるま
第三章

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第一話

「……あれ、今日は新人さん?」


 空が茜色に染まりかけた頃、北の駐在所の裏口に配達員の老人が新聞を片手に訪れた。

 中央の国から馬車で半日かかる北の国は、その日の新聞が届くのは夕方ごろだと決まっている。

 今日は、いつも休憩の合間に新聞を受け取るロウェルではなく、新人のエリオットが取りに来たことに老人は首を傾げた。

「こんにちは、今日も配達ありがとうございます。寒かったですよね、よろしければ中で飲物でも飲んでいってください。」

「おっ、じゃあお言葉に甘えて。」

 老人は嬉しそうに白い息を漏らすと、雪を払いながら、エリオットが開けた扉の中へ入っていく。


 老人の靴がきゅっきゅと水気の混じる足音を廊下に響かせる。

 窓から覗く外の様子はすっかり雪景色だった。


「ところで、ロウェルさんはどうしたんだい?」

 エリオットに新聞を渡しながら、老人は尋ねる。

 新聞を受け取り、お礼を言いながらエリオットは用意していた代金を手渡した。

「私は今年ここに入ったので、知らなかったのですが今の時期は忙しいようで。」

 その言葉を聞きながら老人は代金を懐にしまう。

 ふと何かを思い出した顔をした。

「あぁ! もうそんな季節か。なるほど……つまりタバコ休憩もいけないくらい、嫌いな事務作業の山、って訳だ。」

 老人はヒヒヒと笑う。


 老人の愉快そうな表情にエリオットは困ったように笑った。

「まぁ、そんなところです。――どうぞ、お好きなものをお飲みください。」

 そう言って、駐在所内の休憩所に案内をする。

 エリオットは、飲物を選ぶ老人を見届けると窓口の職員に引き継いでもらおうと足を一歩踏み出した。


 老人はそれに気づくと、エリオットを引き留めた。

「一杯貰ったらすぐ帰るからさ、良かったら新人さん話し相手になってくれよ。」

 そう言って老人は、「ほい」とコーヒーを注いだカップを差し出した。

「はぁ。」

 エリオットは少しだけ戸惑うが、温かい湯気の出るカップを受け取った。

 老人は頬を赤くして、コーヒーを一口飲む。

「ふぅ」と安心した吐息。

 エリオットをちらりと見ると、口を開いた。

「……それに新聞を取りに来れるっていう事は、あんたの仕事は少し余裕があるんだろ?」

「!」

 まさにその通りだったエリオットは驚きで目が丸くなる。

 その顔を見て老人は目尻に皺を作って笑った。

「ちょっと前までここで働いていたんだ。引退して今は新聞配達をしている。新人さん、今年からなんだろう?何かわかんない事なかったかい?」

 ずずず……とコーヒーを再び飲んで、老人は言った。


「先輩の方だったのですね!失礼しました。」

「いやいや、先輩だなんて。まぁ、あんたは優秀そうだから心配いらないかなぁ。」

 片手を振りながら、そう言う老人を前にエリオットは自分の手に持った新聞を見て一つの疑問が浮かんだ。



「……仕事の話ではないんですが良いですか?」

「もちろん。」

 老人は眉を上げて快諾する。


「以前隊長が医薬品は中央に注文してから、こちらに到着するまでに三日掛かると言っていたのですが……新聞は半日しか掛からないんだなと、ふと思いまして。」

「なるほど、確かにここに来たら分からないか。えぇっとね、最近魔石具が巷で流行っているだろう?」

「そうですね、ここの設備にも魔石具はありますし、最近中央の方は魔石具の販売が増えていることは知っています。」


 魔石具とは、魔石をはめ込み魔法が使えない人間でも扱える道具だ。

 光を灯したり、水を浄化したりと生活の基盤となる道具が主で、北の駐在所の灯りや水を温める道具も全て魔石具だ。


「流通の数が増えた分、どうやら粗悪品も回り始めたみたいでね。魔石具を含めた色んな商品の検品が厳しくなったんだ。新聞は即日の物だから除外されたんだけれども。」

 エリオットは「なるほど」と相槌を打ち、コーヒーを飲んだ。


「まぁ、それだけじゃなくて魔石には……ホラ、魔力が込められるじゃないか。それをする魔術師で未登録・未許可で魔力を込める店を構えているのもいる様でね。ちゃんとした魔術師と比べて込められる魔力の量が大分違うらしくて、国直属の魔術師が大分怒っているみたいだ。――新人さんも安すぎるものには、気を付けてね。」

 そう言って老人は最後の一口を飲むと、エリオットに礼を言って帰って行った。


第三章の副題は現在思いつかないので、ひらめいたら追加しようと思います。

おそらく今までの中で一番長くなるかと思いますが、お付き合いいただければと思います。

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