第十五話
『それは?』
鞄から丁寧な手付きで取り出された小さな花束。
それをエリオットは魔石――フギンの前に静かに置いた。
「フィオナから。フギンさんにってね。」
『……人間はそうやって弔うんだったな、そういえば。』
エリオットは一瞬首を傾げるが、納得したように「あぁ」と声を漏らした。
「フィオナのお母さんか。」
『そこから毎年……あれは墓、だったか?そこに一緒に行っている。正直最初は何をしているか、さっぱりだったが、あの時フィオナは母親を想ってたんだな。』
「そうだね。」
そうエリオットが短く応えると、しばらく声が聞こえなくなった。
エリオットが立ち上がって、周りを眺めれば、空は夕暮れに向かって濃い青を映していた。
その光が、紫がかった魔石に反射する光景は美しかった。
だが、そろそろ下山しなければ帰る途中で完全に身体の主導権がフェンリルに移るだろう。
(山慣れはしているだろうけど、まだ人の身体は慣れていないだろうな。)
少しだけ冷えてきた風に吹かれながら、エリオットは脇に置いていた鞄のベルトを肩に掛け、フェンリルに呼びかける。
「フェンリル、そろそろ暗くなるから――「……エリオット」」
急に口から飛び出した低い自分の声に、エリオットは思わず口を押えるが、フェンリルの言葉だと気付いて、すぐに離した。
「びっくりした。急に何?」
エリオットの驚く姿に、フェンリルはクスクス笑う。
「あぁ、悪いな。話す間が合っちまった……そろそろ時間、だろ?」
「そうだけど……どうかした?」
エリオットは首を傾げてフェンリルに問いかける。
他人からすれば一人芝居だが、周りには誰もいない。エリオットは気にしないことにした。
「……いや、なんだ。」
フェンリルはそう言いながら、魔石の前に歩みを進めた。
「またここに来れば、俺はこいつにいつでも会える。……だがな、エリオット。生きていてこそだ。」
腰を下ろして、フィオナから預かった花束を指先でなぞる様に触れる。
花弁が揺れた。
同じ時間を刻めることに、少しの羨望を抱きながらフェンリルは口を開く。
「フィオナは……良い女だ。お前も知っているだろう?一緒に居たいんだったら――手を離すなよ。」
エリオットの喉が唾を飲み、顔の温度が上がるのを感じる。
フェンリルは笑いながら、ため息を吐くと口の端を曲げた。
「……あんまり焦らしてると俺が要らない茶々を入れるかもなぁ?」
冗談めかして嘯くと、エリオットはスクッと立ち上がり歩き出す。
フェンリルの目論見通り、帰りの道は少しだけ賑やかなものになったのだった。




