第十一話
「なんだ、それは……。」
そう呟くフェンリルの力が抜ける。
ロウェルは、フェンリルの手を襟から引きはがした。
困惑の色を浮かべたフェンリルを一瞥して、大きくため息を吐く。
「……仕方ねぇな、本来は部外秘だが、エリオットの為にお前も協力したからな。今回の礼として、その座標を書いた地図を置きにまた立ち寄る。――お前のその疑問は、自分の足で確かめてくるんだな。」
服を直しながら立ち上がり、ロウェルは「また来る。」と一言言うと、そのまま部屋から出ていった。
バタン、と閉められた扉の残響が、フェンリルの耳にやけに残った。
何かを言おうと口を開くも言葉は出ず。指に掛かるシーツに皺ができた。
「ん~~~~。」
気の抜けた声が静かな部屋に響く。
『ようやく起きたか、寝坊助が。』
エリオットの身体は大きく伸びをして、布団に体を突っ伏した。
大きな欠伸を一回すると、涙が出た目をこすりながら、ゆっくりと状態を上げる。
「あぁ……おはようフェンリル。それで、どうなったの?」
『術式の改訂に成功した。それからアイツ、隊長殿もいらっしゃったぞ。』
フェンリルは、ハッと皮肉げに言う。
その報告に、エリオットは勢いよく顔を上げる。
「どうして起こしてくれなかったの?!」
必死なその訴えに、フェンリルは吠える様に唸った。
『はぁ?何度も起こしたわ!!……安心しろよ、やけに体のあちこちを視られたが、お前の首と胴体はこの通り繋がってるぜ。良かったな。』
そう言いながら、それを証明するように、エリオットの右手で首に軽く触れた。
エリオットは、その動きに一瞬身体が震えるが、ふと違和感を覚えて眉を顰める。
「……フェンリル、術式の改定で、君と僕の仕切りの魔力が君の物になったんだよね?」
エリオットは首に掛かった右手を左手で剥がして、じっと見つめた。
右手は身体の主の意思に反して、手を開いたり閉じたりしている。
「それの影響で、こう……動かされやすくなっていない?僕の身体。」
『そうじゃなきゃ、隊長様の相手はできないだろうな。』
はぁ、と息を吐き、再びエリオットは布団に体を伏せる。
「そう、だよね……。いつも朝方は全身はないし、動かされる前に一瞬止まる感じだったけれど、今は自然な動きだったから。」
エリオットは、目を細めて、自分の両手を見つめた。
『まぁ、安心しろよ。お前の意思に添える様に努力するって前言ったろ。動きが軽くなろうが、それは何も変わらねぇよ。』
「……そうだね、うん。」
エリオットは、そう言いながら右手を握った。
一拍置いて、右手は左手の方向に手首が回ると、左手を握った。その手は微かに震えている。
それに気づいたエリオットの口が「どうしたの」と尋ねる前に、その唇は一度結ばれると、はっきりとした声色で言葉を紡いだ。
「エリオット。話と……頼みがある。」




