第二話
しかし、次の瞬間エリオットの下げていた頭は勢いよく落ちていった。
ガン!!と食堂のテーブルに、痛そうな音が響く。
一瞬の静寂。
「~~~~~~っ!!」
額を抑えて、エリオットの体は縮こまった。
「だ、大丈夫?!……えっと、モフモフ、かな?」
窓に映る夕焼けや、痛みに耐える彼の表情を見て、フィオナは慌てながらも確かめる。
涙目ながらフィオナを見つめて、モフモフは小さく頷いた。
「なにか冷やすもの、持ってくる!」
フィオナは椅子から立ち上がると、足早に厨房に向かった。
(くっそ……今、このタイミングで切り替わるのかよ。)
恨みがましく体の中に意識を向ければ、エリオットの意識はいつもの様に眠り始めていた。
「痛かったね……。」
氷のうで額を冷やすモフモフの頭をフィオナが優しく撫でる。
久しぶりに撫でられた喜びは、痛みと熱で飛んでいってしまった。
モフモフは、じんじん痛む額に当たる冷たい感触に、安心したように目を細める。
ちらりと窓に目を向ければ夕闇が深まり、意識が切り替わる定刻になっていることに気づいた。
「フィオナ、もう食堂開く時間だろ?俺はエリオットの部屋に行くよ。」
氷のうを支えるフィオナの手に触れた。
彼女は心配そうな眼差しでモフモフを見る。
それに対してモフモフは首を傾け、困ったように笑う。
「……心配しすぎだ。この袋をこいつの額に当てて安静にしてるから。安心しろよ。」
そう言って安心させるように、フィオナの髪を撫でた。
「私は……君たちがどういう風になっているか、分からないけれど。反応を見る限り痛かったのは、モフモフ……、君だよね?」
視線を下げて、遠慮しがちに言うフィオナの言葉に、モフモフは目を開く。
弄っていたフィオナの髪がするりと指から落ちていった。
「君が、エリオットの体に入ってからずっと――……君が一歩引いて、私たちと接しているように感じるんだ。見えない線があるみたいに。」
そう言うとフィオナは、静かに一呼吸した。
「モフモフ……大丈夫だから、ね?エリオットの体を大事にしてくれているのは分かってる。けど怪我をしたら痛いのはみんな一緒だよ。……痛かったでしょう?」
氷のうの中の氷がカランと動いた音がした。
モフモフは氷のうを持ち上げるように、フィオナの手から取って立ち上がった。
「……そうだな、痛かった。あっちの姿じゃ、軽い傷は魔力で治るんだ。――人間はこんなちっぽけな傷で、こんなに痛いんだな。」
モフモフは、いつものようにフィオナに向かって優しく笑う。
「ありがとう、フィオナ。」
一言そう言って、彼は階段に足を向ける。
その背中を見送りながら、フィオナは彼が子狼の時よりも、少しだけ距離を置いている事を感じたのだった。




