第十話
「顔色が悪いぞ?大丈夫か?」
挨拶もそこそこにロウェルは、昨日よりも早く駐在所に出勤していたエリオットの顔を見た。
どことなく色が悪い上、表情も出勤初日の昨日より硬くなっている。
「いえ……大丈夫です。」
当の本人であるエリオットは、控えめに答えた。
その心中は、いつまたあの魔族が話しかけてくるかで頭がいっぱいだ。
(昨日電話から戻った後から、具合が悪そうだったが……風邪でも引いたか?)
予備休暇もあったが、中央からここまでの距離を考えれば、まともに休めた時間はあまりなかったはずだ。
しかも、秋に入ってこの辺りは急な温度変化もある。
慣れていない者が体調を崩すのは時間の問題だろう。
「エリオット」
ロウェルは、彼が気にしないようになるべくいつも通りに呼びかける。
「今日はもう帰れ。自分じゃ気づいてないのかもしれないが、お前今日相当顔色悪いぞ?」
それを聞いたエリオットは、ロウェルを凝視した。
「え?!いや、大丈夫ですから!」
大慌てで、それを否定するエリオットの肩にロウェルは手を置いた。
「……いいや、駄目だ。昨日も言っただろ?今の時期、基本業務は魔物が境界から出ていないか見回りをする事だと。」
ロウェルは、はっきりとエリオットの顔を真顔で見つめた。
肩を掴んだ手の力が少しだけ強くなる。
それに気づいたエリオットは、思わず息を呑んだ。
「こんな状況のお前を、俺は業務に出せない。お前が安全に活動できるとは思えないからだ。……今の魔物は仕える魔族が居ない分、行動が野生動物のそれに近い。つまりどういうことかわかるか?」
エリオットは口を微かに開くが、首を横に振る。
「……食べ物が無くて気が立ってる。油断していると襲われる。だから、お前には出来るだけ万全な状態で任務に臨んで欲しい。」
そう言ってロウェルは、表情を和らげて肩から手を離した。
「……引っ越しの疲れが取れてないんだろ?とりあえず今日、お前は休み。引き続き明日も具合が悪ければ連絡しろ、これは隊長命令だからな?」
有無を言わさないという勢いでエリオットに言い放つ。
申し訳なさで、エリオットは視線を下げると、弱々しい声で「すいません」と口ごもった声で言った。
ロウェルは、それに一笑すると、エリオットの左肩をぽんと軽く叩く。
「ま、今日は大人しく休め。目に隈もできてるし、帰ったらとっとと寝るんだぞ?」
その言葉にエリオットは、朝から冷え切っていた心が少しだけ解れた気がした。
(……心配してくれる人がいるのは、有難いな。)
ここにいることを認められている気がして、エリオットは心が熱くなった。
エリオットは深く息を吸い込んでから、そっと吐き出した。
相変わらず申し訳なさそうな顔をしていたが、すこしだけ口元が緩んだ。
これ以上迷惑はかけられない。けれど少し安心した事も事実だった。
「……ご心配ありがとうございます。お言葉に甘えて今日は休ませていただきます。」
そう言うと、彼はまっすぐにお辞儀をして隊長の部屋を後にした。
扉を開けたところで、ロウェルが「しっかり休めよ!」と軽く一声かけると、エリオットは振り返り、ぺこりと軽く頭を下げたのだった。




