【短短短編作品】現夢
私は、『夢』を見ていた。
汗が頬を伝い、喉が渇くほど熱く、確かなぬくもり感じる。
他者が私を必要とし、私もまた他者を求め、共に歩み、寸暇を惜しんで世界のために何かを成し遂げていく。そこには、私がとうに失った『現実』のすべてがあった。
しかし、私の意思に反して『夢』は唐突に終わるのである。
瞼を開き、まどろみに映るのは、『現実』である。
夢の中の喧騒とは裏腹に、部屋は静まり返り、埃の舞う微かな空気の振動が、時が流れていることを私に教える。遠くで聞こえる防災無線に耳を傾けると、まもなく世界は終幕を迎えるらしい。
蛇口をひねれば水が流れ、部屋にある時計の針は正確な時を刻み、冷蔵庫は静かに音を立てている。
電気や水道といったライフラインは、まだ生きているようだ。
悟られぬようカーテンの隙間から、窓の外を覗き込むと、騒々しい往来があるはずの世界は、静まり返っていた。信号機は規則正しく色を変え、駐車場の車はきちんと整列している。
何一つ、乱れた様子はない。
理由は分からないが、世界から人々がいなくなっていた、ただそれだけのことである。
瞳に映るこの世界が『夢』か『現実』か、区別はつかないが、今の私には関係ないのだ。
ただ、私は再び瞼を閉じ、まどろみに潜り、ゆっくりと溶けてゆく。
目が覚めぬ、私が存在しうる『夢』の中の『現実』を探して。