翼をなくした僕が、空に還るその日まで
はじめまして、夢咲のぞみです!
かつて僕は、空を翔けるドラゴンでした。
でも、いまは翼をなくして、人間の姿で生きています。
そんな僕が出会ったのが――「配信」という新しい空。
声でつながる場所。言葉で笑いあえる場所。
もしかしたら、そこには“本当の空”よりも大切なものがあるのかもしれないって、そう思うようになりました。
この物語は、そんな僕の小さな冒険であり、みんなへの“ありがとう”の気持ちでもあります。
少しだけでも、君の心があたたかくなったら嬉しいです。
それじゃあ――始めようか。
僕は、かつて――ドラゴンだった。
遥か遠い、果てしない空の向こう。
雲海を越え、星々の下、僕たちの国は存在していた。
ドラゴンたちは高貴で孤独だった。
僕もその一人だった。
だけど、僕の心には小さな“ほころび”があった。
――「この空の下にある、別の世界を見てみたい」
その願いは、ある日、僕の翼を奪った。
王は言った。
「人間たちの世界で“本当に大切なもの”を見つけるまで、お前はドラゴンには戻れぬ」と。
こうして僕は、人間の姿になり、翼も炎も失い――この世界に降り立った。
***
すべてが初めてだった。
ざわめく街の音。
まばゆいネオンの光。
行き交う人間たちの笑顔と怒りと涙。
僕は「夢咲のぞみ」として、メイド服を身にまとい、人間の社会に溶け込もうとした。
けれど、心の奥はいつも空っぽだった。
翼を失った喪失感。
本当の自分を隠し続ける孤独。
そんな僕が出会ったのは――配信という、もう一つの「空」だった。
***
最初は、何もかも怖かった。
「配信開始」のボタンを押す指が震えた。
声を出すたび、心臓が高鳴った。
だけど――
画面の向こうから届いた、たった一つの「コメント」が、僕を変えた。
「初配信おめでとう!なんだか、声が優しいね!」
僕は――微笑んでいた。
そこからすべてが始まった。
ゲームをプレイする僕を、「すごい!」「初心者なのにうまい!」とリスナーは笑ってくれた。
「元ドラゴンだからね」なんて冗談を言いながら、僕も笑った。
勝っても負けても、温かい言葉が届いた。
「のぞみちゃん、楽しかった!」
「元気をもらったよ!」
配信を重ねるたび、僕の心は少しずつ満たされていった。
気づけば――
空を飛んでいた頃よりも、今の僕は、生きていた。
***
でも、夜になると、不安が顔を出す。
「僕は、このままでいいのかな」
「ドラゴンに戻りたいのに、戻れない」
「でも――君たちと出会えて、僕は――」
ある夜、配信の最後に、ひとりのリスナーが言った。
「のぞみちゃん、僕ね――本当に救われたんだ。ありがとう」
その瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
「ありがとう」――それは、ドラゴンの国にはなかった言葉。
心が温かくなって、涙がこぼれた。
「誰かの心を救えること」
「誰かの笑顔の理由になれること」
それが、僕が探していた“本当に大切なもの”なのかもしれない。
***
僕は誓う。
たとえ今、翼がなくても。
たとえまだドラゴンに戻れなくても。
この「空」は、僕のものだ。
君たちの笑顔こそが、僕の翼になる。
いつか――
この声、この想い、この配信を通じて――
「君たちを、僕と一緒に空へ連れていく」
そう決めた。
だから僕は、今日もマイクの前に立つ。
夢咲のぞみ――
ドラゴンに戻れるその日まで。
***
空は、きっとつながっている。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます。
夢咲のぞみです。
翼をなくしても、こうして誰かとつながっていられることが、今の僕にとってすごく大切なことです。
配信も、この物語も、みんなの笑顔があるから続けられる。
いつか本当に空に還れる日まで――これからも一緒に歩いてくれたら嬉しいです。
また、どこかで会いましょうね。