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黄泉行き。未練前停留所

作者: 雨月 日日兎

「おや、雨が降ってきましたね」

 古びたバス停に備え付けられた、これまた古びた椅子に腰かけた、壮年の男性が雨音に顔を上げた。つられて視線を向けた鈍色の空はどんよりと厚い雲に覆われている。

「通り雨ならいいんですが」

「いや、これは……本降りになりそうですね」

「ほう分かりますか」

「えぇ、まぁ」

「そうか、それは困ったね。傘は持ってないんだ」

「大丈夫ですよ、みんなそう言うんで」

「みんな?」

「えぇ、みんな」

「……なるほど。じゃあそのみんなは、どうしていましたか」

「まぁバスに乗っちゃえばもう濡れないですからね、そう困ってはいませんでしたよ」

「ほぉ。なら良かったよ。でも、そう言うってことは、君はそれをずっと見ていたのかい。来たバスに乗りもせずに」

「あー……待ち合わせしてるんですよ」

「あぁなるほど。待ち人来ず、ですか」

「ちゃんと約束した訳じゃないんで、別にいいんですけどね」

「それでもずっと、待っているんでしょう」

「約束なんで、一応」

「忘れられてるんじゃないかい?」

「それならそれでいいんですけどね」

「もしかしたら、別の人と来るかもしれないよ」

「そっちの方が安心します」

「君は変わっているね」

「よく言われますよ」

「みんなに?」

「えぇ、みんなに」

「ならこれも聞き飽きた質問かもしれないんだけどね」

「待ちきれずに、先に行こうとは思わないのかってことですか?」

「そう、まさにそれを聞こうと思っていました」

「じゃあ答えは思わない、ですね」

「でも待ちくたびれるでしょう」

「時々は。でもこうやって誰かが相手をしてくれるので、そこまで退屈はしていませんよ」

「はっは。それなら話しかけて良かった。おや、本当にどしゃ降りになってきたね。せっかくの日だっていうのに」

「むしろこっちの方がいい天気なんじゃないですかね」

「そのこころは、」

「遣らずの雨ってご存知です?」

「やらずの雨、ですか。……うーん、あまり聞き覚えはないですね」

「いや、私も人から聞いた知識なんですけどね。帰り際の人を引き留めるような雨のことを、そう言うらしいんですよ」

「あぁなるほど。それは、いい天気だ」

「えぇ本当に。あぁ、バスが来たみたいですね」

「本当だ。やっぱり、君は乗らないのですか?」

「そうですね、また次のバスを待ちます」

「それは残念だ。早く待ち人が来てくれることを願っているよ」

「ありがとうございます。あなたの旅も良いものとなりますように」

「ありがとう。それでは、ごきげんよう」

「えぇさようなら。良い旅を」 

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