ロザリアの苦難
(学園? 寮生活? なにそれ。聞いてないのだが……)
このままこの屋敷で過ごしつつ、現世に戻れるか試みようと考えていた矢先に蒼天の霹靂。慌ててアネモネに真偽を尋ねる。
「……今お父様が仰ったことはどこまで本当ですの?」
「どこまでも何も、徹頭徹尾全て真実です。お嬢様は三ヶ月後にセントラル王国にあるルミナス学園へ入学される予定となっております」
「三ヶ月後に入学って、試験もあるのでしょう? わたくしこの世界の学問を全く知らないのだけれど……」
「それなら心配には及びません。お嬢様は元々おバカ……いえ、勉学が不得手でいらっしゃったので旦那様が既に学園側に手を回しております」
その言葉が麻倉の心に種火を灯した。
「お父様、わたくしの入学試験について少々お聞きしたいことが」
「おお、そのことか! 万事心配ない。既に学園側に支払う金銭は用意してある。お前はなんの苦労もなく由緒正しきルミナス学園へ——」
「それ、やめていただけませんか?」
ロザリアは父の目を真っ直ぐ見つめ。否、睨み付けるようにそう告げた。
「なっ、何故だロザリア!? 私はお前の為を思って……」
「娘の為を思うのならば、なにゆえその娘を信じないのですか。裏口入学なんて卑怯な手を使うなんて、きちんと勉強して試験に望む者たちに失礼です。わたくしはそんな汚いエリート街道など歩みたくありません」
「そ、それは困る! 我がマルグス家は代々闇属性の魔法を扱う貴族。その才能はこの世界で唯一魔法学を教えているルミナス学園でしか伸ばすことは出来ん。私も、お前のお祖父様も代々そうしてきて今の地位を守って来たのだ。それにお前の婿となる男もルミナス学園に通う貴族からと決めているのだ」
「そうよロザリア! 考え直してちょうだい!」
両親の必死ぶりからよほど学園に通うことが重要なことだとわかる。しかし、呑気に学園生活を謳歌する気は毛頭ない。この二人には申し訳ないが、入学の話はこれで有耶無耶にして部屋を出て行こうと思い立ったその時、アネモネが口を開いた。
「旦那様、奥様。ご心配なさらないで下さい。お嬢様は裏口入学を拒んでいるだけでございます。つまり、他の者たちと同じく正規のルートで筆記試験と魔術試験を受けて合格を目指すと申しているのです」
(なっ、なにぃぃぃいいい!?)
まさかの伏兵。
こちらの事情を全て腹を割って話し、陰ながら支えてくれていた味方と思っていたアネモネが放った予想外の一言。麻倉は預けていた背中を仲間にナイフで刺されたかのような錯覚に陥った。
必死に否定の声を振り絞ろうとするも、肺に酸素が入っていかず今度はロザリア自身が鯉のように口をぱくぱくさせている。
「そっ、それは確かに立派な心掛けだがロザリアの学力では……」
不安で顔が青ざめている父親。
それに対し、アネモネは自身たっぷりに答えた。
「幸いなことに本番までまだ三ヶ月もございます。これから毎日私がお嬢様のチューターとしてみっちり試験勉強を行ないます。そうと決まれば早速お部屋で試験勉強ですお嬢様。それでは旦那様、奥様。私たちはこれで」
ポカンとしている両親を大広間に残し、同じ顔をしているロザリアの手を引いたアネモネはロザリアの部屋へと向かったのだった。




