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 薬の服用により、ギリアムの髪にまた別の色が加わっていく。薬液と同じオレンジ色。虹彩にも僅かにその色が混ざっているのが視認出来た。まるで交雑した熱帯魚のよう。


 どんな薬を摂取したのかは現状では分からないが、一つだけ言える確かなことはギリアムは今、持ち前の風と先の水属性に加えて更に別の属性の魔力を付与したということ。つまり〝三重属性トリプルエレメント〟になったことを意味する。そして問題は、なんの属性が加わったのかということ。


 そんなロザリアの抱いた疑問はすぐに解明されることとなる。


疾風火球イグニスゲイル


 風魔法の疾風連弾ウィンドショットの加速、連射力を加えた紅蓮火球ファイヤーボール。火と風の属性は互いに相性が良いとされており、この魔法は本来なら風と火の魔法使い二名で放つ合体魔法にカテゴライズされており、非常に強力な魔法である。ギリアムはそれを単身で発動させたのだ。威力も速度も単体のそれらとは比べ物にならない。


 魔力の矛先はロザリアに向けられているため、ロザリアのユニークスキルが発動。イグニスゲイルより先にギリアムはカウンターの黒炎を受ける。だが、今のギリアムは火属性も併せ持っている為、同属耐性アップにより火魔法のダメージが軽減。また、依然と発動させているアクアヴェールよる水と火の相対耐性により更に威力をダウンさせている。これによりギリアムは黒炎のカウンターを大幅に弱体化させていたのだ。


 速過ぎるギリアムのイグニスゲイルをロザリアは避けることが出来ず、全弾をその身に喰らってしまった。


 火属性の魔法ならギリアム同様、ロザリアも同属耐性を持つ為そこまでダメージは通らないのだが風属性が付与されている為、最大値では無いにしてもかなりのダメージを受ける。それを防御しているとはいえ何発も受け続けていることにより、ここに来て初めてロザリアは地面に片膝を突いてしまった。


水流風刃タイダルブレイド


 標的であるロザリアの動きが止まった隙を見逃さなかったギリアムはイグニスゲイルに加えて風属性と水属性の合体魔法、タイダルブレイドを放つ。水と風で生み出した刃を飛ばして斬り裂く魔法であり、火属性の魔法ではこの属性の組み合わせを防ぐ術は皆無に等しい。


 ロザリアはといえば、出来る限り致命傷を受けぬよう蹲るように防御の姿勢のままギリアムの猛攻に耐えるしか出来なかった。


 ロザリアの柔肌は切り傷や火傷を多数負っており、衣服や髪の毛さえもボロボロ。満身創痍。普通の決闘であれば勝負アリ。しかし、ギリアムは追撃を止める気配を見せない。


 また、ロザリア自身も続行を望んでいた。

 だから倒れない。だから目も死んでいない。何故ならギリアム自身も僅かではあるが、着実にダメージを負っているからだ。


 火と水による耐性でロザリアのユニークスキルである黒炎のカウンターを防いではいるが、実際は完全ではない。


 何故ならロザリアもまた、火属性だけではなく闇属性が付与されているからである。つまり、闇属性の魔力成分は阻害されずに受け続けている。肉体へのダメージではなく、精神や魂といった内面的な部分を少しずつではあるが確かに蝕み続けていた。ギリアム本人さえ気づかない程度にゆっくりと。だが確実に。


 それとは別の理由で顔には出していないが、ギリアムは内心焦っていた。


 ギリアムの作り出した薬は、生まれ持たない他属性の魔力を強制的に付与させるという効果がある。それは例えるなら患者の血液型とは違う血液を輸血するようなものであり、加えてまだ臨床実験データの少ない試作品である。安全性の保証がどこにもないのだ。


 そんな危険極まる薬の使用と闇魔力の影響により、既にギリアムの思考、精神、魂。そのどれもが麻痺しつつあった。薬の副作用で人によっては拒否反応で吐き気や眩暈、呼吸困難に陥り昏睡に至ることさえ珍しく無い。


 それがプラスで二種類ともなれば、とんでもない負担を心身に課しているも同義であり、実際にギリアムのカラフルな瞳は視点が定まっておらず瞳孔は開きっぱなし。また、上がったら口角からは血が伝っていた。心拍数は三百を超えおり、いつぶっ倒れてもおかしくはない状態。 


 もはや、ロザリアとギリアムの勝負はどちらが先に倒れるかの根比べとなっていた。


 魔力の質、高さ。魔法の使い方であればギリアムの圧勝だろう。


 しかしギリアムは禁断の力を手にしたいと願うあまりに自らの一番の武器を手放した。それは他者よりも圧倒的に秀でた頭脳と冷静さ。そんな冷酷なまでに冷静沈着なギリアムだったが今は半狂乱状態。


 加えて、根気比べならロザリア——もとい麻倉の方が圧倒的に上である。このまま数分耐えれば、ギリアムの方が限界を迎えて倒れるだろう。


「……それはあまりカッコ良くはありませんわね」


 独り言を呟いたロザリアは防御の姿勢を解いてゆっくり立ち上がった。


「ロ、ロザリアさん!? なにを!」


 背後でセーラが叫ぶ声が聞こえた。しかし、ロザリアは振り向かずただ目の前の生徒だけを見ていた。不健全な研究に取り憑かれ、道を踏み外した悲しき若人を。


「ギリアムさん。あなたの研究へ向ける情熱は大したものです。その姿勢はある意味、尊敬すら覚えますわ。ですが、その情熱が他者を……そしてご自身すらも顧みず傷付けるのはとても看過出来るものではありません」


 立ち上がったロザリアの長い髪が風に靡き、その横を水と風の刃が斬り裂いていく。短くなってしまった自身の髪を気にせず、ロザリアは掌に爪が食い込み、血が滴るほど拳を固く握りギリアムに向かってこう言い放った。


「今のあなたにこの想いを伝えるには言葉では軽過ぎる。わたくしのこの拳で想いを全身全霊で受け止めてくださいまし」


 体力的にも精神的にも互いに限界間近。

 ロザリアを近づけまいと、ギリアムは残りの魔力を全て使い、今の彼が扱える最大の魔法を繰り出した。


迅竜嵐舞ドラゴンテンペスト!!」


 周囲の森林さえも吹き飛ばさん程の強大な嵐が巻き起こる。岩や大木が飛来し、落雷まで発生させるまさに天災と呼ぶべき風属性最大級の魔法である。しかも、それに加えて風は火と水の二種類の魔力が合わさっているため炎を纏いて火炎の竜巻となり、天からは痛みを伴うくらいの局所的豪雨が降り注ぎ視界さえも遮る。


 その光景は、まさしくこの世の終わりを彷彿させるものであった。


「うぉぉぉりゃあああ!!!!」


 しかしロザリアは怯まない。

 それでも決して足を止めたりはしない。

 強い信念でただ強大な魔力の発生源であるギリアムの気配だけを頼りに突き進む。


「ロザリア、そのまま真っ直ぐだ!」


「微力ながら僕らもサポートするよ!」


 同じ風魔法使いのサミュエル副会長とJJが風魔法でロザリアへ向かってくる飛来物を全て跳ね除けていく。


「私も手伝いますっ!」


 セーラはロザリアに向けて回復魔法をかける。しかし、その反動はセーラも受けておりギリアムと同じく黒い炎がその身を焼いていた。


「飛べぇぇぇ! ロザリアぁぁぁ!」


 JJもロザリアに向けてジャンプ力強化の風魔法をかける。彼もセーラ同様、黒炎のカウンターをその身に受けているも決して魔力を絶やさず苦痛に耐えながら懸命にロザリアのサポートに徹してくれたのだ。


「わたくしの想い、みんなの想い。しかと受け取ってくださいまし」


 高く跳躍し、落下する勢いもそのまま拳に乗せたロザリアの右拳がギリアム左頬を打ち抜いた。


 天災はピタリと止み、土煙が舞う。

 穏やかな風が雨雲を流していく。


 差し込む月明かりに照らされ、最後まで立っていたのはすっかり髪が短くなってしまったロザリア。ギリアムは先程の一撃で気を失い、地面に倒れていた。


 チームプレーがもたらした奇跡のタッチダウン。


 四大公爵家が一人、ギリアム・アロウズとの戦いはロザリアの勝利で幕を閉じたのだった。

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