助っ人参戦
「待てやギリアム!!」
去り行くギリアムの背中を追うべく一歩目を踏み出した直後、すぐさまレイヴンゼロスたちが立ちはだかる。
「待つのはお前のほうだよ」
「バカが。ヘッドのとこへ行かすわけねーだろ」
有象無象の中にいた見知らぬ二人。おそらく最近入ったメンバー。新参者なのだろうとJJは自分の中で勝手に解釈した。そうでなければ納得出来ない。何より許せない。
あの陰気で残忍な男をヘッドなど呼ぶなどと。
頭の中でごちゃごちゃ湧き上がる、うざったい思考を吹き飛ばそうとしたJJの身体は無意識に動いていた。
「がはっ!?」
右拳に伝わる衝撃で、初めて自分が手を出したことに気付く。おかげで頭の中で渦巻いていた暗雲は晴れており、今自分がやるべきことが明確に理解出来るほど思考はクリアになっていた。
「てめぇ! やりやがったな!」
JJに殴られ吹っ飛ばされた仲間を見て、もう一人がナイフを手にして襲いかかってきた。
「引っ込んでやがれ三下。お前らにゃ用はねぇんだよ」
向かってくるナイフを避ける素振りも見せず、JJは相手の顔面にハイキックを叩き込む。モロに入った見事な一発にナイフ男は脳震盪を起こし、顔から地面へ倒れてしまった。
「レイヴンゼロスに言葉はいらねぇ。言いてぇことがあんなら喧嘩で語りやがれ!」
JJの啖呵を皮切りに残りのメンバーたちが次々と襲い来る。しかし、JJは決して怯まない。先程倒した二人を見て確信した。ここに集っている輩の大半は見知らぬ連中。つまり、新顔ばかりなのだ。であるなら、当然ルーカスがまとめ上げていた時代の——本来のチームのことを理解している者は少ない。
武闘派で名を馳せ、愚連隊として隆盛を誇っていた真のレイヴンゼロスの強さ、恐ろしさを知る者は数えられるほどしかいないだろう。そうと分かれば例え頭数は多くともJJにとっては烏合の衆。喧嘩慣れしてない素人が束になったところで経験値や潜ってきた修羅場の数に差があり過ぎる。
魔法すら使わず、己の五体のみで次々と敵を倒していくJJ。気づけば有象無象たちの数は当初の半数以下にまで少なくなっていた。
「やっ、やばいっすよゼファーさん! このままじゃたった一人に俺ら全滅させられちまいま——」
慌てて進言を求めてきた部下に対し、返答代わりの強烈な拳の一撃を顔面へと見舞うゼファー。
「情けねぇ。そのたった一人相手になんてザマだ。もういい、テメェら下がってろ。邪魔だ」
部下に打ち込んだ拳に付着した血を白いハンカチで拭いながらゼファーは残存するメンバーを一旦下がらせ自らJJの前に対峙。すぐさまゼファーは血を拭いたハンカチを風魔法でJJの目の前へ向けて飛ばしてきた。
向かってきたハンカチを手で払おうとしたJJだったが、寸前でゼファーの思惑に気付き、伸ばしかけていた手を引っ込め後退。それと同時に目の前に迫っていた血の付着したハンカチが真っ二つに裂けたのだ。
「一旦フェイントを仕掛け、その隙を突いて間合いを詰めて一気に斬りかかる。肝っ玉の小せえお前らしい戦法だったなぁ、ゼファー!」
「ちっ、これだから知り合いはやりづらい。だが早とちりしてんじゃねぇぞ。俺はお前が後ろに下がることも既に計算に入れてたんだよ」
「んなっ、てめぇら!?」
すぐさま反撃に前へ出ようとしたその直後、JJはゼファーの言葉の意味を知ることになる。
「へへっ、言われた通りコイツの足は俺たちが死んでも離しません」
「今のうちにブッタ斬ってください!」
先程倒した烏合の衆。彼らはうつ伏せたまま無数の腕をJJの足を掴み、拘束していたのだ。
「お前の考えなんざ最初から御見通しなんだよ。喧嘩はもっと頭を使わねぇとなァ」
「ちぃっ、疾風連弾!!」
「だから無駄なんだよ、バカが!」
JJが至近距離で放った無数のウィンドショットをゼファーは難なく全て斬り払ってみせた。これはゼファーの剣の腕前が成せる神技というわけではない。刃全体に風魔法を纏わせ、相手の魔法を吸い寄せているのだ。その結果、風に吸い寄せられた魔弾は勝手に刃へ向かって軌道を変え、自ら斬られに来ているだけに過ぎない。分かってしまえば至極単純なトリックである。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
ここまでの連戦により、JJも決して無傷ではない。軽度の負傷やダメージを受けている。加えて、何十人も相手したことにより疲労もピークに達し、ウィンドショットさえも通じない。もはやJJは立っているのがやっとの状態だった。
「常に先を読み、頭を使って行動する。いつまでもルーカスみたいな負け犬の亡霊に固執するお前じゃ俺には勝てねーんだよ。あの世で負け犬同士仲良くやってな」
振り上げたノースメタル製の剣。その刃が月光を受けて冷たく煌めいた。
(……すんません、ルーカスさん。ここまでみたいです)
振り下ろされた刃に目を伏せたJJだったが、いくら待てども斬撃は来ない。恐る恐る目を開けると、真っ先に視界が捉えたのは風に靡く長く美しい黒髪。
「逆に問いますが、彼の助っ人が駆けつけることは計算されてなかったのですか?」
JJに襲いかかる凶刃を真剣白刃取りのように両掌で挟んで止めている女人がゼファーに問う。
「ロザリア! なんでここに?」
意外な人物の登場に驚くJJ。その問いに対する答えは目の前のロザリアからではなく、背後から返ってきた。
「僕が彼女に応援を要請したんだ。君がこんな時間に寮を飛び出したって聞いてね」
振り返ると、そこにいたのは長身で眼鏡を掛けた男子生徒。ギリアムの代理として現ノース寮の寮長を務め、生徒会で副会長としてシリウスを支える懐刀サミュエル・クロフォード。
そして——
「はぁ、はぁ、遅くなりました! お二人とも走るの速すぎますわ!」
サミュエルの後から遅れてやって来たのはイースト寮の聖女、セーラ・マーガレットであった。




