特攻(ぶっこみ)のJJ
真夜中、JJは魔導エンジン式のバイクに似た乗り物に跨り暗い夜道を風のように走る。
目指すはサウス領の奥にある旧部室棟。
本来はロザリアと共に乗り込む予定であったが、やはり落とし前は自分の手で着けるべきだと判断したJJは単身でレイヴンゼロスに喧嘩を仕掛けることを選んだのだ。
生き急いでいる。
(上等だコラ)
浅薄愚劣。
(何とでも言いやがれ)
側から見れば自殺しに行くようなものである。もちろん、JJはそんなことは百も承知。なら何故、ロザリアの協力を待たずに単騎で乗り込もうとしているのか。
(ヤツが出てきた今がチャンス! 明日を待ってるヒマはねぇ!)
内通しているルーカス派のメンバーから先程連絡が入ったのだ。
今まさにレイヴンゼロスの集会が行われていること。こちらの情報が筒抜けであること。そして、何故かギリアム本人が隠れ家から自ら出て来たということ。
普段は引き篭もりっぱなしのギリアムに近づくのは容易ではない。彼を警護しているレイヴンゼロスの大群を相手にしなければならないからだ。普通なら数の暴力で返り討ちに遭うのが関の山。しかし今は違う。親玉自ら表舞台に出てきている。ならば有象無象は眼中に入れず、ギリアムだけを。大将首だけを狙えば良い。
JJにとって恨みがあるのはレイヴンゼロスのメンバーにあらず。すべての元凶ギリアムのみ。奴に一矢報いることこそJJの悲願。なればこそ、一分一秒が惜しい。
凄まじいスピードで風を切りながら暗闇が包む森を駆け抜け、木の枝や葉で頬や腕の皮膚を切りながらも凄まじい形相で突き進むJJ。
その瞳には〝例え刺し違えても〟という信念と憎悪が入り混じった覚悟が滲んでいた。
眼前には拓けた場所が見えてきた。
確認出来るのは、レイヴンゼロスのチームカラーである黒い服装の連中が多数。そして、夜闇を焦さんばかりの無数の篝火。
ハンドルを握るJJの右手は力一杯アクセルを全開にし、岩場をジャンプ台にして風魔法による加速で一気に飛び出した。
「なっ、誰だ!?」
集団で真っ先に声をあげたのはゼファー。
他のメンバーたちは何が起こったのか分からないといった様子で慌てふためいているのが連中の五メートル上空からよく見えた。
(へっ、どいつもこいつもマヌケ面晒してやがるぜ。そんでもって見つけたぞ!)
そんな有象無象の中で唯一、全く動じず異様なオーラを放っている外套姿の人物が確認出来た。ただ漠然とこちらを見上げている紫色の瞳。間違いない。あの日、あの時もヤツはあんな目でチームを単独で壊滅させたのだ。
感情の欠片も見えない、死んだ魚のような生気を感じないその目がJJの怒りに油を注いだ。
「見つけたぞギリアムゥゥゥウウウ!!」
JJは跨っていた乗り物をギリアムの頭上へ向けて放り出した。凄まじい速度で向かってくる重厚な金属の塊。当たれば間違いなく即死。衝撃により動力炉が万が一爆発すれば、周りの連中も無事では済まないだろう。
しかしギリアムは全く臆するとこもどうじることもなく、ただ向かってくる物体に向かって右手を伸ばした。
「暴風障壁」
ギリアムの前に突如発生した巨大な竜巻。旋風障壁の上位魔法であり、防御魔法の根幹概念である向かってくる攻撃を防ぐということよりも〝破壊する〟という性質が強く、特に物理的な攻撃に対しては脅威的かつ甚大な被害をもたらすまさに災害。
現に辺りにいたゼファー含むレイヴンゼロスの連中は吹き飛ばされ、竜巻に巻き込まれた鋼鉄の乗り物はミキサーにかけられたように荒削りにて全壊。その破片はすべてJJ目掛けて弾き返ってきたのだ。
「ちぃっ! 旋風障壁!」
落下しながら前方にギリアム同様、障壁魔法を展開。しかし、ギリアムの上位魔法により風の加速を帯びた鉄クズの破片の幾つかは障壁を貫通し、JJの体内に撃ち込まれた。
「がはっ!?」
傷の痛みでバランスを崩したJJは五メートルの高さから墜落。しかし、地面に激突する寸前で咄嗟に風魔法を発動させ落下の衝撃を僅かだが緩和させたのだ。しかし、即死を免れたとはいえ大怪我を負うには充分過ぎるほどのダメージによりJJは既に満身創痍。今まさに気合いで立っていることすら奇跡である。
「こっ……これくらい……屁でもねぇぜ」
貫通創、全身打撲、裂傷、左前腕部及び第四、第五肋骨骨折。全身を襲う激痛に常人ではとても立つことなど不可能な大怪我だ。しかしこの時のJJは痛みを全く感じていなかった。大恩あるルーカスの仇が目の前にいる。そのことによる激しい怒りが痛みを感じないほどのドーパミンを脳内で過剰分泌させていたからだ。
「ギリアム! 俺の顔を覚えているか!?」
血を吐きながらもJJは吠える。
「……いや、知らない。キミ、だれ?」
僅かな間の後に返ってきたギリアムからの返答にJJの怒りは最高潮に達した。
「疾風連弾!!」
右手をギリアムに向けてかざし、JJは風で出来た無数の魔力弾を発射。しかし、ギリアムはそれに対して迎撃態勢をとるどころか背を向けて旧部室棟へ戻ろうとしていた。
風の魔弾がギリアムの背後を撃つ。
その瞬間、無数の煌めきが走った。
「ヘッドはやらせねぇぜ!」
副ヘッドであるゼファーが立ちはだかり、風の魔弾を全て斬り払ったのだ。
ゼファーの手にはノース山脈で採掘されるノースメタルと呼ばれる、軽くて加工し易い魔石の一種を加工して作られた羽のように薄くて軽いマチェーテのような形の剣が握られていた。
魔石であれば魔法に干渉することは可能。加えて、ゼファーはこの剣の使い手として地元ノース領では名を馳せた人物。JJとは幼い頃からの腐れ縁でよく喧嘩や衝突を繰り返したが未だに決着は着いたことがない。
「今なら積年の引き分け記録を打破出来そうだなァ? オットーよ」
「上等じゃねーか、ゼファー! これくらいのハンデがあって丁度いいぜ。それに裏切り者のテメーもギリアムと同罪だ! あの世でルーカスさんにワビて来いやぁ!」
二人の因縁に割って入るように、先程ギリアムに吹っ飛ばされた他のレイヴンゼロスのメンバーもぞろぞろとJJの前に立ちはだかる。
「ゼファーさんが出るまでもねーッスよ。ここは俺らに任せてください」
外野の雑音は全く耳に入っていない様子で、ギリアムは独りブツブツと何かを呟きながらどんどん遠ざかっていく。
こんなところで足踏みしている暇は無い。
JJはギリアムを仕留めるべく、単独でレイヴンゼロスに牙を剥いたのだった。




