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いざ、ノース寮②

 薄暗い部屋に灯りは複数のキャンドルランプのみ。通されたラウンジはさながら占い師の館——否、場末のバーのような雰囲気が漂っている。セーラと並んでソファーに腰掛けてすぐ、ノース寮の生徒がティーポットとカップを用意してくれた。


 ラウンジを含め、ノース寮内の雰囲気はまさに不良の溜まり場と呼ぶに相応しいが、置いてある品々はどれも場違いなほど高貴なデザインのもので揃えられていた。特に用意された茶器などはセーラとお茶会した際に使用していたものと比べても見劣りしないほど。こういった骨董品や調度品には明るくない麻倉だが良い年季の入り方をしており、尚且つ大事に扱われてきたことが分かる。やはりここも歴史ある名門校の寮なのだと否応にも分からせられる。


「よー、待たせたな」


 給仕をしてくれた生徒と入れ替わるようにJJがラウンジへとやってきた。


「アンタらイースト領出身のお嬢サマからレイヴンゼロスのチーム名が出てくるとは意外だったぜ。先に言っとくが、昔のことならまだしも今のチームについてはあんま期待すんなよ。それを踏まえた上で何が知りてぇんだ?」


「含みのある言い方をしますわね。では、あなたは今はチームの一員じゃないってコトですの?」


 質問に対し質問で返したロザリアに対して、オットーは曖昧な答えを返した。


「そうじゃねぇ。今でも俺はレイヴンゼロスのメンバーだ。正確には〝昔のレイヴンゼロス〟のであって今のレイヴンゼロスにゃ関わりは殆ど無い。平たく言やぁ、抜けてないだけってとこだ」


 どこか自分に酔ったようなまどろっこしい喋り方に若干イラっとしたロザリアだったが、そこをぐっと堪えて再びオットーに尋ねる。


「今と昔、何がそうまで違いますの?」


「大違いだ」


 彼にとってそれは地雷発言だったのだろう。急にオットーの目つきがナイフのような鋭さを帯びた。瞬間的に頭に血が上ったのを自身で悟ったオットーは、一度だけ深呼吸して再び口を開く。


「わりぃ、威嚇するつもりは無かったんだ。とにかく、今と昔のチームの違いだが決定的な点がある。それはヘッドの不在だ」


 意外な答えが返って来た。

 シリウスは確かヘッドはこの学園に在学していると言っていた。どうも話が食い違っている。その件について尋ねようとしたロザリアより先にセーラが口を挟んだ。


「ですが、シリウス会長はリーダーはこの学園に在学していると——」


 オットーの前に置かれていた見事なティーカップがひとりでに割れたことでセーラの言葉は遮られた。


「聖女サマよぉ、あんま俺をイラつかせんなよ? 俺がいねぇって言ったらいねぇンだよ」


「ひ……ひゃい……」


 オットーの風魔法による威嚇でセーラは目に涙を浮かべてすっかり縮こまってしまった。もちろん、麻倉はと言えばこんな修羅場は日常茶飯事。百戦錬磨の熱血教師の魂はこんな脅しでは一ミリたりとも揺らいだりはしない。すっかり置物になってしまったセーラに代わってロザリアがオットーに尋ねる。


「どうも生徒会側とあなたの話には食い違いがあるようね。まずはその辺りの情報の修正が必要ですわ。話しづらいことかも知れないけど詳しく話してちょうだい。〝あなたの誇る〟レイヴンゼロスというチームについて」


 オットーの怒りのボルテージが徐々に下がっていくのが分かる。先程からの話ぶりから察するに彼はチームに誇りを持っているのは間違いない。それも昔のレイヴンゼロスに対してかなりの未練が感情や態度、言葉の節々からも垣間見れる。まずは〝オットーのレイヴンゼロス〟について先に知る必要がある。そう悟ったからこそ、ロザリアは彼の感情を逆撫でない言葉を選んだのだ。


「……ある一人の男がいた」


 興奮があらかた冷めた時、オットーは昔話を始めた。


 その男の名はレイヴン・ルーカス。

 平民出身だが、彼には貴族には無いものをいくつも持っていた。


 一つは力。

 単なる腕っぷしだけで、並の騎士や魔法使いが束になっても勝てないほど凄まじい強さを持っていた。


 二つ目は正義感。

 彼は善悪を判断する自身の天秤に決して貴賤という身分を乗せたりはしなかった。悪事に対しては例え相手が貴族であっても鉄拳を見舞う。実際、オットー自身が三年前に平民をイジメていた時にルーカスに殴られたことがあり、それがルーカスとの初めての出会いだった。


 三つ目がカリスマ性。

 誰にも媚びず、誰に対しても平等に接する強き者。そんな彼に惹かれて彼の元には多くの仲間が集った。特に貧しい者、弱き者、持たざる者たちから絶大な支持を集めていた。オットーも彼の熱い拳を受けて男として感銘を受けた者の一人である。


 確かに元々ノース領は治安がお世辞にも良いとは言えない。理由は広大な亜寒帯で作物もあまり育たない荒涼とした土地柄である為、食料の供給が安定しづらかった。その僅かな食料や物品などは貴族の元へ優先的に流れていく為、民草はいつも飢えや寒さに苦しんでいた。となれば、民は当然畑から作物を盗み、貴族たちを襲い金品を奪う。そんな中でもルーカスは悪事に一切手を染めず、寧ろ悪事に走る者を区別なくその強く大きな拳で懲らしめてきた。もちろん、民から不当に搾取する貴族連中に対しても同じである。


 そんなルーカスの男気に惚れ、彼を支持する者たちが増えていった。やがて彼と彼らは気づけば広大なノース寮でも大きな派閥の一つとなった。


 それでもルーカス自身はチームではなく、あくまで自分個人。俺の周りには誰もいないと言い張っていた。


『レイヴン・ルーカスの他に誰もいない』


 そんな意味を込めて誰かが彼らのことをレイヴンゼロスと呼び始めたのがチーム発足のキッカケである。侮蔑とも取れるチーム名だが、メンバーはその名を誇らしく思っていた。何故なら、全員がそのチーム名は言い得て妙ではあるが、ヘッドであるルーカスの真意に合致していたからだ。


 このチームの誰か一人でも道を踏み外し、まさしく外道に堕ちることがあればそれは全てレイヴン・ルーカス個人の問題であり、責任は全て自分にあると常々口にしていたのだ。


 事実、犯罪発生率を調べるとレイヴンゼロスが発足し正しい活躍していた三年間は顕著に件数が減っている。


 そのバランスが崩れたのが今から二年前。

 レイヴンゼロスがたった一人の人物の手によって壊滅的な打撃を受けたことが起点であった。

 

 ボロ布で出来たフード付き外套を目深く被った少年。彼はレイヴンゼロスのアジトに突然やって来たと思えば、高度な魔法を次々に乱発。


 その場にいたメンバーは全滅。

 ヘッドのルーカスさえもいとも簡単に倒してしまったのだ。


 その日たまたま集会に遅れてやってきたオットーが見たものは、白い雪を真っ赤に染める鮮血と倒れている仲間たち。


 そしてたった今、宙に吹き飛ばされて地面に叩きつけられたヘッドのルーカスの姿だった。


『ふむ……あまり役に立つデータは得られなかったな。父の頼みのついでに引き受けたが、徒労に終わってしまった』


 フードの男はそう独り言を呟くと、背を向けて去っていこうとした。幸い、遠くから隠れて見ていたオットーには気づいていないようだ。


(誰だか知らねーがあの野郎!! ぜってぇ許さねぇ!!)


 心の中でそう叫んだオットーは外套の男の背中に目掛けて風の魔弾を放った。着弾まであと五十メートルのところで男は急にこちらを振り返ると、風魔法で作り出した弓矢を放ち、風の魔弾を撃ち抜いたのだ。真っ直ぐ飛んできた魔弾を掻き消しながら向かってきた矢はオットーの頬を僅かに掠め、背後に生えていた大きな木を数本へし折りながら見えなくなってしまった。


「帰って実験の続きをするからもう邪魔しないでくれ。じゃないと、次は当てるから」


 矢ではなく視線に射抜かれ何も出来なくなってしまったオットーはその場に崩れ落ち、己の不甲斐無さに涙したと言う。


 その後、ルーカスが倒されたことでレイヴンゼロスは弱体化。メンバーたちの大半は次期ヘッドはあのフードの少年だと言い出す者が増え始めた。そして残ったメンバーはその人物を二代目ヘッドと崇めた。


 しかし、当の少年は実験のために手頃な相手を探していただけでチームを統制する気はサラサラ無いと名言。各々好きにしろとだけ伝えたことで統率力が完全に機能停止に陥ったレイヴンゼロスは盗みや暴力を振るうならず者集団になってしまったのだという。


 敗北以来、しばらく姿を消していたルーカスは自宅にて遺体で発見された。遺書も残されていたことから死因は自死と断定。遺書の内容は自分の不甲斐無さでレイヴンゼロスを外道集団にしまったことへの悔やみ、そして謝罪の言葉が記されていたという。


 こうして、レイヴン・ルーカスの死後は彼らの事を「レイヴンを失った集団」と揶揄する意味でレイヴンゼロスと呼ばれ出したのだという。


「俺はルーカスさんがいた頃のレイヴンゼロスのメンバーだ。だから外道集団に堕ちた今のレイヴンゼロスのメンバーじゃ断じて無いんだよ」


 心底悲しそうな瞳でオットーは過去を語ってくれた。


「そうでしたか。辛い事を聞いてしまいましたわね。後はわたくしたちで何とかします。話してくれて助かりましたわ」


 そう言って立ち上がり、去ろうとするロザリアの腕をオットーは掴んだ。


「まっ、待ってくれ!」


「まだなにか?」


「もしお前らがレイヴンゼロスを潰そうとしているなら、俺にも協力させてくれ。ヘッドの無念と負の遺産は俺の手できっちりケジメをつけてぇんだ!」


「そう言ってくれるのは大変助かりますが二代目ヘッドと呼ばれている人物のこととかご存知ないのですか? 何か手掛かりとか」


「俺は奴の正体を知っている。この学園に入学して初めて知ったことだかな。俺にも一枚噛ませてくれるなら話してやる。どうだ? 悪い話じゃねぇだろ?」


 しばらく考える素振りを見せたロザリア。あの真剣な眼差しからオットーの話は全て嘘偽りない真実であろうということは何となくだが理解出来た。また、相手の情報が少な過ぎる今、人手は一人でも多い方がいい。


「わかりました。あなたの力を貸してください、オットー」


「よっしゃ! 任せろ! そんじゃあ早速二代目ヘッドと呼ばれ崇められてる奴の名を教えてやるよ。そいつの名はギリアム。ギリアム・アロウズだ。四大公爵家の一つ、アロウズ家の子息でこの寮の真の寮長だ」

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