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レイヴンゼロス

 ロザリアが生徒会に入り数日が経った。


「ごきげんよう、ロザリアさん。今日も一緒に生徒会室へ参りましょう」


 放課後、ほぼ毎日セーラはCクラスへとロザリアを迎えにやってくるようになった。


「けっ、また来てるぜあの聖女サマ。あんな熱苦しい暴力女を生徒会に誘ったシリウスの野郎も理解出来ねーが、ロザリアにあんだけ懐くセーラって奴もつくづく変わってやがるぜ」


「や、やめなよアルトくん。聞こえちゃうよ」


 エリート嫌いのアルトの悪態を注意するサイモン。


「聞こえてますわよ、おふたりとも」

 

 背後から声をかけられたアルトとサイモン。二人はおそるおそる振り返ると、そこには腕組みしながら仁王立ちしてこちらを睨みつけているロザリアがいた。


「わたくしのことは何とでも仰って頂いて結構。ですが、他の方の陰口は慎みあそばせ。自身の品位を下げますわよ」


 鉄拳制裁を覚悟していた二人に与えられたのは拳ではなく忠告のみ。


 ロザリアはそれだけ伝えると、鞄を持ってセーラの待っている教室の出入り口へと向かって行った。


 セーラと共に生徒会室へ入ると、既に副会長兼会計のサミュエルと書記のデイジーの二名がいた。


「やぁ、二人とも。今日もよろしく頼むよ」


 ロザリアとセーラの入室を笑顔で迎えたサミュエルに対し、デイジーは相変わらずこちらに一瞥もくれることなく小難しそうな本を読んでいる。ロザリアは書記補佐としてデイジーの下についてはいるが、未だまともなコミュニケーションを取れた試しがない。


 セーラは早速サミュエルの元へと向かい、会計の仕事を懇切丁寧に教えてもらっている。ロザリアはといえば、ただ読書をしているだけのデイジーの側に立っているだけ。数日間これが続くと流石にしんどい。


「あ、あのう……サンドラ先輩?」


「…………」


 こちらから話しかけてもこうして無視を決め込まれてしまう始末。正直、お手上げである。


 思わず溢れたロザリアの溜息を打ち消すように生徒会室の扉が開く。


「既に全員揃っているようで実に結構。早速ではあるが皆に話しておかねばならないことがある。学園長から我々生徒会に対して直々の伝令だ」


 生徒会長のシリウスは入室早々会長席の前にメンバー全員へ招集をかけた。あのデイジーでさえも読書を中断し席を立つ。余程彼が慕われているか、はたまた自分が嫌われているかのどちらかだろう。


(嫌われるほど接点は無いはずだから、きっとシリウスのことを慕っているのだろう)


 ロザリアはそんなことを考えつつ、他のメンバー同様シリウスの招集に応じた。


「それでシリウス、学園長直々の案件ってなんだい?」


 全員がシリウスの机の前に集ったことを確認したサミュエルは彼に対して問いかける。


「君とデイジーなら、他の領の生徒よりその名を耳にしたことはあるかも知れないな」


「そ、それってもしかして……」


「……うそ、やだ……」


 冷静かつ何事にも動じなさそうなサミュエルの表情が一気に強張る。それよりも意外だったのがあの無表情で無口なデイジーが嫌悪の表情を浮かべ声を発したことだ。思えば、彼女の声を聞いたのはこれが初めてかも知れない。


「そのまさかだ。ノース領で非行の限りを尽くしている不良グループ〝レイヴンゼロス〟の掃討を命じられた」


 不良グループ。何と聞き慣れた言葉だろうか。ツッパリ、スケバン、ヤンキー、族、カラーギャング、チーマー。年代において呼び名は様々だったが、現世で教師をしていた麻倉にとって非常に慣れ親しんだ存在でもあった。彼らを更生させ、学問やスポーツの素晴らしさを伝えることこそ彼の喜びだったのだから。


 目を瞑ると今でも思い出す。

 校庭や校内の通路をバイクで暴走行為をしていた不良どもを捕らえ、全員に対し涙ながら説教をした日のことを。


『お前らの人生それでいいのか!? 誰かに迷惑をかけて、親御さんを心配させ、自分自身で可能性を手放して! 俺は悔しい!! 情熱を正しい方向に向けてやるだけでお前らの人生は素晴らしいものになるはずなのに、誰一人それを信じようとしない! 諦めるな! 他の誰でもない、自分自身が信じてやらないでどうする! 劣等感が自分の想いを妨げるなら俺がお前らを信じる! だから全員、ラグビー部に入れ!!!!』


 熱く眩い思い出を懐古しているロザリアと、一体なんの話をしているのか理解していないセーラとは対照的にサミュエルとデイジーは今回の件にはどうにも否定的な様子。というより、どこか怯えているようにも見えた。


「君はノース領の人間じゃないから知らないんだ。彼らの恐ろしさ、凶暴さを。相手にするなんてまともじゃない。それにここはルミナス学園だ。あんな連中とはなんの関わりもないはずじゃないか」


 サミュエルの力説に対し、激しく同意の頷きをするデイジー。どうやらそのなんちゃらゼロスとは、ノース領で発足した不良グループらしい。だとすれば、サミュエルの言うことは最もだ。こんなエリート校にそれほど有名な不良グループが存在するなど考え難い。しかし、シリウスは意外な言葉を口にした。


「それが関係大アリなんだよ、サミュエル。どうやらこの学園にそのレイヴンゼロスのヘッドが在学しているらしい。また、一般生徒の中にも彼らの構成員がいることも判明している。彼がどうやらその一人らしい。二人は見覚えがあるんじゃないか?」


 シリウスはそう言うと、一枚の写真を取り出す。それを確認したサミュエルとデイジーは顔を強張らせた。どうやらこの人物に心当たりがあるらしい。しかしロザリアも二人と同様にその顔には見覚えがあった。


 緑色のモヒカン頭と左目には星型のタトゥー。


「あら? ジャンジャック・オットーじゃない」


「ロザリアさん、JJのこと知ってるのかい?」


「知ってるも何も、うちのクラスの生徒です。初登校にバイクみたいな乗り物で教室のドアをぶっ壊して入室してきましたわ。遅刻に加えて器物破壊をしても悪態をついてきたので少々お灸を据えてあげました」


「えっ、JJと戦ったのかい?」


「はい。ブン投げてドアを直させました」


 事実を述べただけなのだが、サミュエルとデイジーの顔色が真っ青だ。何かマズイことでもしてしまったのだろうか。


「とにかく、そのJJという生徒に話を聞く必要がありそうだ。生徒会長として実際に会いに行ってみるとしよう。ロザリア、君のクラスメイトなら是非案内を頼みたいのだが、どうかな?」


 そのくらいなら別段断る理由もない。

 快諾しようとしたその横から意外な人物が同行の意思を示した。


「ならわたくしもご一緒させてください。後学の為にも是非」


 セーラは爛々とした瞳でロザリアを見つめている。しかし、サミュエルとシリウスは危険だからとそれを止めようとしていた。


 そんなやり取りを見ていて、ロザリアはふとアネモネの言葉を思い出した。


〝四大公爵子息たちがセーラと恋仲になるのを邪魔するのです〟


 そうだった。

 今の今まで忘れていたが、周りに悟られることなくセーラを王家に嫁がせなければならないという使命があったのだ。


 現状、セーラはシリウスと同じ生徒会役員という一番近しい関係にある。出来る限り、この二人を一緒にしてはならない。


 そう思い立ったロザリアはシリウスにこう進言した。


「会長自ら先陣に立つ必要はありませんわ。不良グループの殲滅なら、新米のわたくしとセーラさんの二人で充分です」

 

 ロザリアの意外過ぎる一言に慌てて男性陣はストップをかける。


「それは許可できない! いくら君が強いからと言って相手はならず者集団なんだ。侯爵令嬢と聖女の二人に何かあったとなれば最悪の場合、王家の逆鱗に触れてしまう。もはや一学園の問題ではなくなってしまう!」


「そうだよ、ロザリアさん! あのJJって男の事はよく知っているが喧嘩っ早いことで地元でも有名で何人もの人たちを病院送りにしてるくらい凶暴な奴なんだよ。だからここはシリウスに——」


 男子二人の心配を他所に、ロザリアはセーラの手を引いて生徒会室のドアへと向かって行く。


「ご心配なく。セーラの事はわたくしが責任をもってお守りします。取り敢えずJJをとっ捕まえて話を聞いてみますわ」


 引き止めようとするシリウス、サミュエルの両名に対してそのように答えたロザリアはセーラを連れて生徒会室を後にしたのだった。

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