生徒会役員共
セーラの背中を見るようにしてロザリアは校舎の長い通路の真っ赤な絨毯の上を歩く。
今向かっているのは、この学園の生徒会室。
そこには昨日ぶっとばしてしまったシリウスが待っている。
「……はぁ、気が重いですわ」
「ん、何か仰いました? ロザリアさん」
「い、いえ。別に……」
思わず声に出てしまっていたらしい。
道中「せめて話だけでも」とセーラに懇願されてしまい仕方なくついて行くことを承諾してしまった以上、それを反故にするわけにはいかない。
「そんなに緊張なさらずとも大丈夫ですよ。あ、ほら見えてきましたわ」
セーラが指をさした方には、明らかに他の部屋とは違った豪奢極まる大きな扉。セーラはその扉の前に立ち、三回ノックをした。
「セーラ・マーガレットです。ロザリア・マルグス様をお連れしました」
「入りたまえ」
中から聞き覚えのある返事が聞こえた。声の主はシリウスで間違いないようだ。セーラはシリウスの返事の後「失礼します」と一言だけ発するとその豪奢な扉を開けた。
「やぁ、よく来てくれたロザリア嬢」
部屋の正面最奥には立派なデスクと椅子。
そこに座っていたシリウスは立ち上がるとこちらに歩み寄ってきた。顔には大きな湿布のようなものが貼られている。忘れはしない。昨日ロザリアが仕置きの一発を叩き込んだ場所である。
いくらその場のノリと勢いとはいえ、自分の家柄より爵位の高い貴族を殴り飛ばしたのだ。一先ずその非礼だけは詫びようとしたロザリアよりシリウスの方が先にこちらに対して頭を下げて来たのだった。
「昨日はすまなかった、ロザリア嬢。ミゲルとの私闘に巻き込んでしまって」
「そ、そんな。頭を上げてください、シリウス会長。詫びるのはわたくしの方ですわ。いきなりその、殴ってしまって」
どうやら初耳だったようで、ロザリアの言葉に対してセーラは驚きの声を上げた。
「ええっ、シリウス様! 今朝は転んだだけだと仰っていたじゃありませんか!?」
「すまない、知らない者には余計な心配をさせたくなくてね。だが誤解はしないで欲しい。寧ろ彼女の行動は正しかった。非はすべてこちらにあったのだから」
心底心配している様子のセーラを宥めたシリウスは咳払いを一つし、改めてロザリアに向き直る。
「早速本題なのだが、どうか君には生徒会に入ってもらいたい。どうだろうか?」
「いきなりそう言われましても、急な展開なので私自身まだ状況の把握が出来ていなくて……そもそも、何故わたくしなんかを?」
「この学園の生徒会役員は現生徒会長に人事権を委ねられている。私は生徒会長として、学園をより良いものにしていく為ならより優秀な生徒から選抜したいと考えている。そこに関しては家柄や特待、Cクラスの隔たりや偏見の一切を捨てて公平に実力主義でこの学園の為になる人物を採用したい。昔の君のままだったら失礼ながら声は掛けなかっただろう。しかし今の君は良い意味で本当に変わった。人を正しく導けると昨日の一件で確信した。君の拳からはまるで熟練の教育者のように熱く力強い情熱を感じたんだ。だからどうか生徒会に入って貰えないだろうか。君の力が必要なんだ」
説明を終えるとシリウスは改めてロザリアに向けて頭を下げる。公爵家の人間が自分よりも爵位の低い者に頭を下げるのはよっぽどのことである。特に〝王家の剣〟として代々誇り高い役職に就いているスパーダ家であれば尚更である。それだけ自分を買ってくれているという厚意を無碍にすることなど出来るはずもない。
「わかりました会長。わかりましたからどうか頭をあげてください」
「そ、そうか。恩に着る、ロザリア嬢」
「あと、その嬢付け呼びは気恥ずかしいのでおやめください。シリウス会長は上級生なのですからロザリアとお呼びくださればよいのです」
「む、それもそうか。幼い頃からこの呼び方だったのでついクセになってしまっていた。立派なレディになった今の君には子供じみて失礼かも知れないな。では、これからロザリアと呼ぼう。改めてこれからよろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願いします、シリウス会長」
シリウスの差し伸べた手を取り、握手を交わすロザリア。そんな時、メガネをかけた長身の爽やかな青年が笑顔で声を掛けてきた。
「話は纏ったみたいだねシリウス。なら、そろそろ僕らにも紹介してもらえないかな?」
「ああ、済まなかった。ロザリア、紹介しよう。彼はここの副会長兼会計のサミュエル・クロフォード。私と同じ特待クラスの二年でノース領出身。学力、人柄、共にこの学園では間違いなくトップクラスの逸材で私の親友だ」
「はははっ、流石にそれは褒めすぎだよ。初めましてロザリアさん。僕はサミュエル。君と同じ侯爵家の生まれだ」
人の良さそうな笑顔でシリウス同様こちらに握手の手を差し伸べる。
「は、初めましてサミュエル副会長。こちらこそよろしくお願いします」
「うん、こちらこそよろしくね。そしてあそこにいるのが書記のデイジー・サンドラ。彼女も僕と同じノース領の出身で侯爵家の人間だ。彼女も特待クラスだけど、学年は君たち二人と同じく一年生だ。人見知りが激しいけど、根は真面目だから仲良くしてあげてね」
無数の本が乱雑に積み上がった机の隙間からこっそりこちらを覗いていたデイジーと呼ばれた少女はサミュエルからの紹介に対して視線がこちらに集中したのを悟ると慌てて目線を逸らしてとても小さな声で一言だけ呟いた。
「……よ、よろしく」
「私とサミュエル、デイジーの三名に君たち二人を加えたこの五名が今日から新らたな生徒会だ。早速だがセーラにはサミュエルから会計を引き継いでもらいたい。ロザリアにはデイジーのサポート。つまり書記補佐を務めてもらいたい」
こうしてロザリアは成り行きで栄誉ある生徒会の役員に抜擢されたのであった。




