決定、クラス委員
槍を手にしたミゲルはシリウスへ向かって高く跳躍すると、頭上から凄まじい突きの蓮撃を見舞って来た。槍と剣とでは間合いに差がある為、反撃を仕掛けようとも届かない。また、豪雨のように降り掛かる刺突を全て避けるのは至難と判断したシリウスは防御を選択。
「氷塊障壁! 水流障壁!」
両雄を隔てるように突如として出現した氷の壁。そしてそれに重なるように水の壁。物理的な衝撃に対しては氷が防ぎ、火魔力付与による魔法的攻撃には水が防ぐという二段構えの防御で迎え撃つ。
ロザリアと対峙した時のように自身にヴェールを纏わなかった理由はいくつかある。普段のミゲルの力を知る限りでは、ヴェール如きは容易に貫いてくるということ。頑強な障壁で無ければ易々と破ってくるからだ。もう一つはミゲルの攻撃が防げたその瞬間にミゲルを討ち取るため。ヴェールを纏うと防御力は向上するがその反面、動きづらさが生じ素早さを犠牲にしてしまう。
障壁でミゲルが止まった瞬間に障壁ごと彼を一閃のもとに斬り伏せる算段であった。現に今、シリウスは壁の向こうで腰の剣に手をかけ抜剣の体勢をとっていた。
「ファイヤーボール」
シリウスの考えなど百も承知。
そう言わんばかりにミゲルは再度ロザリアに向けて火魔法を発動。ロザリアの自動カウンターを喰らったミゲルの纏っている魔力の火は更に猛る。
「がはっ!」
水を貫き、氷を貫き。
果てはシリウスの左肩を貫いたミゲルの槍。
降り頻る青い雨に混じり、赤い雫がシリウスの肩から流れて地面を濡らす。
サファイアスコールによる弱体化、更には氷と水の二重障壁。火魔術師への対策は完璧だった。にも拘らず、その常識さえも貫いてきたミゲルの奇策。
彼のユニークスキルならば、ウェスト領の生徒全員で火魔法を浴びせれば、とうの昔に今と同じ状況になっていただろう。しかし、それにはいくつかの問題があった。
一つは、ウェスト領の生徒全員がミゲルに賛同しているわけではないということ。彼の女好きが災いしてミゲルに恋人を奪われた男子生徒はもちろん、たくさんの女子をはべらしている光景は特定の女子生徒からは顰蹙を買っていた。
もう一つは、ホットリミットは受けた火魔法の質がそのままミゲルの能力向上値に反映されるということ。つまり、大人数から支援を受けたとしてもシリウスを確実に上回れるかは不確定なのだ。
例えば、決行日に体調を崩す生徒がいるかも知れない。急用で参戦出来ない生徒が出てくるかも知れない。気が変わってドタキャンする生徒も居るかも知れない。机上の計算でシリウスを上回る数字が出たとしても、不測の事態が起これば下克上を成し得ることは出来ない。
実際一年前に同じことを画策した際は、不測の事態のせいで計画が破綻しミゲルはシリウスに惨敗した。
ミゲルを妬むウェスト領の生徒がシリウスに計画を告げ口したのだ。それを聞いたシリウスは決闘前日にミゲルの作戦に加担しようとしていたウェスト領の生徒全員に〝一対一の決闘に横槍を入れる卑怯な真似をした者は退学処分に追い込む〟と通告、もとい脅迫したのだ。
その為、集まったウェスト領の生徒は想定していたよりも半数以上少なくなり、ミゲルはシリウスにボロ負けしたのである。
そんな苦い過去があるからこそ、ミゲルは是が非でもロザリアが欲しいのだ。
ロザリアのユニークスキルは自動カウンターによる火魔法を放つというもの。その威力は干渉してきた元の魔力より僅かに上回った値で相手に返す。学園最強の火魔法の使い手であるミゲルがロザリアへ攻撃をすれば自身よりも僅かに強い火魔法による攻撃を受けることになる。つまり、ロザリアに魔力干渉をし続ける限りミゲルは倍々に魔力が強化されていくというわけだ。
「俺の槍がようやく届いたよ、シリっち。君のいる頂まで。でも、今ならそれよりもっともっと高みへと行ける! 彼女がいる限り! だから絶対に彼女は手に入れる。どんな手を使ってもね ファイヤーボール!」
出血した肩を抑えて片膝を突いたシリウスを見下ろしながらミゲルは再びロザリアへ向かってファイヤーボールを放つ。
「ファイヤーボール! ファイヤボール!」
何度も何度も放ち、返ってくる反撃の火魔法を吸収しミゲルの纏う火はもはやサファイアスコールの影響を全く受けない程の熱を辺りに放っていた。体感気温は五十度を超え、ギャラリーたちも立っているのがやっとな程フラついている。このままでは甚大な被害者が出てしまう。シリウスは痛みを堪えて、全魔力をサファイアスコールへと注ぐ。
気温は徐々に下がりつつあり、火魔法による熱被害を受けていたギャラリーたちも徐々に回復していっている。しかし、そのせいでシリウスの魔力は減り続け、戦う為の余力や余裕は既に底を突いていた。
「流石は生徒会長サマだ。自分の身よりも他の生徒の安全を第一に考えたってワケか。普段は誰も寄せ付けないほど冷たく、血も涙もない非情な生徒会長として名高い君だけど、本当は誰よりも心優しいってことは昔から知ってるよ。だからこそ、今日君は俺に負ける。せめて最期は情熱的に散ってくれ」
燃え盛るミゲルの持つ槍がシリウスの脳天に向けて振り下ろされた。
来たる死を前にし目を瞑りその時を待つシリウス。
しかし、いくら待てどもその時は訪れなかった。
おそるおそる目を開けると、なんと目の前に立っていたのたロザリア。
ミゲルはと言えば、遥か後方約三メートル先で倒れていた。
「ファイヤボール、ファイヤーボールって……いい加減にしてくれませんか!? あれ、結構痛いんですのよ!」
ロザリアの右拳からは湯気が立っており、力一杯ミゲルの横っ面をブン殴ったことを教えていた。ミゲルは既に気を失っており、火もすっかり鎮火していた。
「すまないロザリア嬢。どうやら貴女に助けられてしまっ——」
ロザリアへの礼を言い切る前に左頬に走る痛みと衝撃。
喋っていた途中で不意に殴られるシリウス。殴ったのはもちろんロザリアである。僅かに舌を切ってしまったシリウスは元々満身創痍気味だった為、ミゲル同様気を失って立ち上がることはなかった。
「喧嘩両成敗ですわ。みなさーん! なんかよくわらない展開になってしまったのでクラス委員決めはまた日を改めて行います! 取り敢えず教室に戻りましょう!」
ロザリアの一言で、失神したシリウスとミゲルを残して他全員は解散。後日、クラス委員は結局ロザリアがやることになってしまった。
結果は満場一致。その理由は至ってシンプル。
〝四大公爵家の内、二名をいっぺんに倒すヤツに勝てる気がしないから〟とのこと。




