HOT LIMIT
「貴様、彼女も自身のハーレムに入れるつもりか」
敵意を剥き出しにしたシリウスの凍てつく視線を向けられ、ミゲルは慌てて手を振りながら否定する。
「違う違う。女の子に無理強いするのは俺の趣味じゃないから。もちろん、彼女が入りたいと言うなら別だけど」
「ならば一体どういう了見だ」
「ほら、デュアルエレメントなら彼女も火魔術の才能があるんだから、水属性の多いイースト寮より火属性が多いウェスト寮の方が合ってると思うんだよねぇ」
人の持つ魔力には、その者が生まれ育った土地の魔元素が大きく関係していると言われている。
水源の多いイースト領地は水の魔元素が。
火山地帯であり、地熱による発電設備が多いウェスト領地には火の魔元素が。
渓谷や盆地が多く、寒暖差が激しいことで常に強い風が吹き荒ぶノース領は風の魔元素が。
未だ開拓が進んでおらず、土壌が豊かで大自然が残るサウス領では土の魔元素が。
大抵の場合はその土地で代々暮らして来た人々には、そういった土地由来の魔術の才を持つ者が多い。
もちろんこのデータは統計的なもので両親の遺伝的な素質による例外等もあるが、この世界では出身地によってその人が持つ魔法属性が大きく左右するとされており、また魔力同士にも相性が存在し、特に水と火は相反する性質を持っているとされている。
実際、イースト領とウェスト領の人間は仲があまり良くないというのは属性の相性が関係していると言う学者や文献も数多く存在しているほどだ。
ミゲルはいつも飄々として馴れ馴れしい面が際立っているが、シリウスはそんな彼の軽薄なところを嫌っていた。
「そうはいかん。例え火属性の素質があろうが無かろうが彼女はイースト領民。であるなら、イースト寮で預かるのはこの学園の規則だ。加えて、我が領地の民である以上余所者……特にウェスト領の人間に処遇を委ねるというのはスパーダ家の次期当主として見過ごせん。それが例え貴様でもだ。ミゲル」
シリウスは依然と敵意に満ちた眼差しをミゲルへと向け、納めていた剣の柄に手をかけていた。
「だったらさ、こっからは俺とシリっちがバトって勝った方がロザリアちゃんを各々の寮生として迎えるってのはどう?」
自身に向けられた敵意を利用してシリウスを交渉の舞台に上げようとしたミゲルだが、この学園の生徒会長はそこまで短慮ではない。
「その手には乗らんぞ。そもそも、こちらに何のメリットもない私闘など受けてやる義理もない。話はそれだけだ」
抜剣の構えを解いたシリウスはミゲルに背を向けて歩き出した。
「紅蓮火球」
去り行かんとしているシリウスの背中を見つめたまま、ミゲルは突如右手に火の魔力で作り出した火球を放って来たのだ。
「なっ!?」
ミゲルの取った意外な行動に驚愕するシリウス。
背後を狙ったことに関して?
否。ミゲルは相手の隙を突くことに一切のためらいを持たない。
そもそも、学園随一の水魔術の使い手であるシリウス相手に紅蓮火球などという下級火魔法はほぼ無意味。では、何故シリウスは驚いたのか。
「きゃあああっ!?」
ミゲルが放った火魔法の矛先がロザリアへ向いたからだ。
しかし、火球を受ける前にロザリアのユニークスキルが発動し先に火魔法を受けていたのはミゲルの方。現に火だるま状態のロザリアと同時にミゲルもロザリアのカウンターにより火だるまになっていた。これにシリウスは驚いたのだ。
そして同時に理解した。
何故、ミゲルが彼女を欲したのかを。
「ちっ、これが狙いか! ミゲル!」
咄嗟にシリウスは左掌を天に掲げた。
「蒼玉豪雨!」
突如として校庭一帯のみが雨雲に覆われ、青い雨を降らせた。この魔法は火魔術の弱体化を促すもので、現にロザリアが受けたファイヤーボールの火はすぐに鎮火した。
同等の実力を持つ水魔術師と火魔術師が戦った時、火魔術師が勝てないとされる理由はこのサファイアスコールがあるからとされている。
裏を返せば、火魔術師の実力が水魔術師を遥かに上回っていれば話は変わってくるということ。
「やっぱり。彼女のユニークスキルは俺のユニークスキルと相性バッチリだ」
ミゲルの纏う火に、シリウスがサファイアスコールで降らせた魔力が含有する雨水が触れた直後からすぐに蒸発していく。
これが意味するところは、均衡を保っていたシリウスとミゲルの実力の天秤は僅かにミゲル側に傾いたということである。
「俺のユニークスキル、情熱限界突破は他者からの火魔法を受けた場合、そのダメージを無効にしつつ俺自身の魔力の強化に転じるというもの。自傷行為じゃ発動しないことがネックだったけど、彼女のユニークスキルがあれば俺がロザリアちゃんを攻撃し続けている限り俺の魔力は際限なく高まっていく。これなら水魔術師を……それも稀代の天才シリウス・スパーダを火魔術師が倒すという偉業が達成出来るかもね。さぁ、始めよう。情熱的に!」
ミゲルはそう言うと、手から放った火を槍へと変えて剣を構えているシリウスへ飛びかかったのだった。




