クラス委員を決めよう!
あらかたクラス全員に各々の寮を伝え終えたロザリアはアマンダに完了報告をする。
「これで全員分伝え終えましたわ。後は何かありますか?」
「あ、ありがとうございますロザリアさん。次はクラス委員を決めたいんですが……」
「承知致しました。というわけで、我こそはと思う方はいらっしゃいますかしら」
元気よく挙手しながら教壇よりクラスメイト全員に伝えるロザリア。
しかし、手を挙げる者は一人もいない。
ある者は未だ唖然とし、ある者は怪訝な顔をし、またある者は全く興味無さそうに頬杖を突いたり机に顔を埋めて寝息を立てている者までいた。早速統率の取れていない新入生たち。しかし、麻倉にとってこんな状況でも懐かしく思えた。
「どうしました? どなたもいらっしゃいませんの?」
ロザリアの問いかけに不貞腐れたような素振りでアルトが口を開く。
「そんなにやりたかったらテメーでやりゃいいだろうが」
「ちょっと、やめなよアルトくん」
明らかに反抗的な態度。慌ててそれを注意する後ろの席のサイモン。しかし、教壇のロザリアは手を前にしてそれを止めた。
「構いませんわ、左衛門」
「あの、だから僕の名前はサイモン……」
「あなたは確か、アルトと言いましたわね? もちろん、他に立候補者が居なければわたくしがクラス委員を務めるつもりです。しかし、それでよろしいんですか?」
「はぁ? 何がだよ。クラス委員だかなんだか知らねーが勝手にやってろよメンドクセぇ」
「よく考えてみなさいな。クラス委員というのは、皆の模範となり見本となるべき存在。つまるところクラスのボス的な立ち位置なのですよ?」
「うるせーな。俺は猿山の大将なんざ興味はねーんだよ」
「そうですか。では、他の皆さんにもお尋ねします。あなた方全員彼と同じ意見ですか? 短い学園生活。何にも興味を持たず、自主性を欠いたままただ漫然と過ごしていくおつもりですか? 今しかない貴重な青春を無駄に費やすと仰るのですか?」
クラス全員に問いかけるも、ロザリアの言葉は誰の心にも響いていないようで一向に返事はない。ただただ、ロザリアと生徒たちの間に虚しい温度差を感じるだけであった。
「ほら見ろ。誰もやりたくねーってよ。いきなり他のクラスからやって来て生意気に仕切ってんじゃねーよ。侯爵令嬢だかなんだか知らねーが、俺ら落ちこぼれに構わずさっさと特待クラスに戻れよエリートお嬢様よォ」
一人言い返すアルト。
ロザリアはその言葉を聞いてクラスメイト全員を見渡した。彼らの目には、確かに覇気が感じられない。寧ろ、誰もこちらに目を合わせようともしないのだ。
麻倉は長年の教師生活で培ってきた感で悟った。彼ら一人ひとりから劣等感や自信の無さと言った負のオーラ、感情が滲み出ているということを。同時に麻倉はその原因を看破した。それらはアルトが言っていたように彼らが皆、自分たちを落ちこぼれだと思っているのだと。
(なんてことだ……この子たちはこのクラスが落ちこぼれの集まりだと認識し、それを受け入れてしまっている。「なにくそ!」と自己を奮い立たせる向上心や悔しさまでも失っているじゃないか)
教師のロイドが言っていた言葉。生徒であるアルト自身の口から放たれた言葉。
この学園の実情を痛感した麻倉はひどくショックを受けた。
「……やしくないのですか?」
「あァ? 聞こえねーよお嬢サマよぉ」
「あなた方、悔しくないのかと聞いているんですわ!!!!」
ロザリアの口から放たれた一喝。
大きな声が空気を伝い、振動となって生徒たちの体内にまで力強く響いた。さながら、巨大な和太鼓を叩いたような衝撃。その一声だけで寝ていた生徒が驚きで椅子から崩れ落ちるほどであった。
「何が特待クラスですか! 何がエリートですか! 向こうとこちら。歳も変わらなければ背丈だってそんなに変わらないじゃありませんか! にも拘らず、家柄や才能だなんていう何一つ自身の努力で掴み取った物などではなく生まれ持った物だけで区別され、落ちこぼれの烙印を押されて悔しくないのですか!? このまま何もせず諦めて過ごすのはそりゃあ楽でしょうよ。ですが、あなたたちは本当にそれでいいのですか?」
頬を伝い、教壇に落ちる熱い涙。
ロザリアはまたも泣いていた。正確にはロザリアの中にある、麻倉の魂が泣いていた。
不遇な運命に抗うこともせず、何もせずただ負け犬であることを受け入れていた彼らを心から変えたい。そんな想いが、感情が熱い涙となってロザリアの両目から溢れている。
あの四大公爵家に次ぐ名家として名高いマルグス侯爵家の令嬢が自分たちの為に泣いている。衝撃的な出来事にクラス全員の目が釘付けになった。
「よくわかりました。このクラスを更生するには、まずあなた方に染み付いた負け犬根性を叩き直す必要があるということが。今から全員校庭に出なさい!」
飛躍しすぎたロザリアの提案に対して何がなにやらと混乱極まるクラス一同。そんな彼らを代表するようにアルトがロザリアに問う。
「ちょっ、ちょっと待てよ! クラス委員を決める流れでなんで校庭に出る必要があるんだよ!」
「もちろん、そのクラス委員を決めるためですわ。ここでそれを行えば教室がメチャクチャになってしまいますから」
「意味がわかんねーよ! 何をおっ始める気だよ!」
「決まってますわ。わたくしを倒せた人にクラス委員をやってもらいます。まぁ、無理にとは言いません。自信が無い方、心の底まで負け犬根性が染み付いてしまっている方、持病や虚弱体質の方は来ないで結構です。特に最後に該当する方は煽り抜きで来ないでください。危ないので」
ロザリアはそれだけ言い残すとJJが戸を破壊して風通しの良くなった教室を出て行ってしまった。
「上等じゃねーか! やってやらぁ!」
先陣を切って教室を飛び出したのは血気盛んなアルト。それを止めようと後を追う様にサイモンが。他にも何か思うところがあった生徒ら何名かは校庭へと向かって行った。
教室に残されたのは、教師のアマンダと生徒数名のみ。
「せ、先生は様子を見に行かないといけないの皆さんはしばらく自習をしていてください!」
教室に残っていた数名の生徒にそれだけを告げ、アマンダも慌てながら校庭へと向かったのだった。




