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初めての乙女ゲーム

 (大学生かな? 娘が生きていたらこれくらいの歳だったかも知れないな)


 四十代後半の頃、麻倉は妻と娘を事故で亡くしていた。買い物帰りの二人に向かって一台のトラックが突っ込んだのだ。


 思えば、麻倉の心に流れる血の熱が下がり始めたのはこの頃からだった。


『今の私には仕事が妻。生徒たち全員が息子であり娘ですから』


 急な葬儀で忌引きしていた麻倉が職場復帰した際に心配して声をかけてくれた職員たちに向けて返していた言葉。憔悴しきった麻倉の顔と誰もが見てわかるカラ元気に対して、他の職員たちはそれ以上何も言えなかった。思えば、あの日から数ヶ月は周りに随分と迷惑をかけたものだと思い出している麻倉に対し、女性店員は顔を覗き込むように再度声をかけた。


「あのう、大丈夫ですか? 顔色が優れないみたいですけど……」


 ふと我に返った麻倉は、慌てて答える。


「だっ、大丈夫です。申し訳ない。ちょっとゲームを探していまして」


 咄嗟に口を突いて出た言葉。

 それを聞いた店員はにっこりと微笑む。


「そうなんですかぁ。お孫さんへのプレゼントか何かですか?」


「いや、私個人用にね。実は今日仕事を定年退職したばかりでして。この歳まで趣味らしい趣味もなかったものですからこれを機にゲームでもやってみようかな、と」


「そうだったんですね。ではまずハードから選んでみましょうか」


 女性店員は懇切丁寧にゲーム機の説明をしてくれた。色々相談に乗ってもらい、麻倉は今主流のハードからプレイステーションの後継機を買ってみることに決めた。


「じゃあ次はソフトを決めますか。今はインターネットに接続してダウンロード版を購入する人が多いですが、最初の一本はパッケージ版を購入してみるといいかもですね。何かプレイしてみたいだとか気になったゲームとかってございますか?」


「そうですね……せっかくだ。店員さんのオススメのゲームを買ってみます。最近やっているゲームとかってありませんか?」


「ええっ!? わ、私のオススメですか! あややっ、それはやめておいた方が……」


「いやいや、これも何かの縁です。それに趣味とは何がキッカケで熱中するかわからないもの。どうか人助けと思って是非ともお願いしたい」


 自分より何十歳も歳下の女性に頭を下げる麻倉。それに対して女性店員も根負けした様子でこう告げた。


「わかりました! わかりましたから頭を上げてください。最近私がプレイしているゲームをお教えします。ですが、特に男性にはオススメ出来ませんのでそれだけはご理解くださいね?」


 そう言うと、女性店員は店の奥側にある棚へと向かって歩き出した。ロールプレイング、アクション、スポーツ、格闘、シュミレーション。様々なジャンルの棚を通り過ぎた途端にジャンルが男性向け、女性向けという大雑把な表記へと変わった。その女性向けのコーナーで店員は立ち止まると、徐に棚に陳列されていた一つのパッケージを指差した。


「こっ、これです。私が最近プレイしているゲーム……」


 心底恥ずかしそうに俯く女性店員。

 麻倉はそれを手にしてしげしげとパッケージを眺める。


 タイトルは『ドキドキ♡ようこそルミナス学園へ』と書かれており、主人公の女の子が魔法学校に入学し、ライバルの悪役令嬢を退けながら貴族の美青年たちと恋仲になり世界を救うという内容らしい。所謂、乙女ゲームである。確かに女性は夢中になるが男性、特に還暦を過ぎた男に勧めるには些か無理がある代物である。


「このゲームは、さっきのゲーム機で遊ぶことは出来ますか?」


「えっ、あっ、ハイ。出来ます……けど……」


「そうですか。ならこれをください」


 何度も念押ししてくる女性店員も根負けし、ゲーム機と『ドキドキ♡ようこそルミナス学園へ』通称〝ドキ学〟をクレジットカードにて一括購入した麻倉はゲーム機一式の入った大きな紙袋に学校で貰った花束を入れ、朗らかな気持ちで家路へと着いた。

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