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受験本番

 光陰矢の如しとはよく言ったもので、麻倉がロザリアになって早三ヶ月。


「頑張ってくるんだよ、ロザリア」


「貴女なら必ず合格出来るわ。自信を持ってね」


 今生の別れというわけでもあるまいに、涙を滲ませる両親に見送られて馬車へと乗り込むロザリア。


 向かう先は勿論セントラル王国。

 今日はいよいよルミナス学園の入学試験である。


(嗚呼、胃が痛い……)


 笑顔で手を振り、出立した馬車から家人たちの姿が見えなくなった後は蹲るように背中を丸める。この様子から導き出される答えはただ一つ。試験対策の仕上がりが今一つという事だ。


 アネモネがイーストエンド偵察任務を終えた翌日、巨大な石版が裏庭の訓練場に用意されていた。


『この石版は魔石と呼ばれる魔力を通しやすい素材で出来ています。この世界では純金よりも重く鋼鉄よりも硬い素材で、物理的な衝撃での破壊は基本的には不可能。但し、魔力の伝導率は無類です。土魔術を扱うものはこれを用いて魔法武器やガーゴイルやゴーレムのような魔法生物を作り出したりします。お嬢様には残りの二ヶ月弱、この石版に魔法をかけて頂きます』


『いきなり魔法をかけてと言われても、どうなればクリアなんですの?』


『要は指定された箇所へ正しく魔力を流せるかを教官等は見るそうです。ですので、浮かせたり移動させたりするだけで充分だと思われますが、魔力の才がある者はより高度な魔法を使用して己の実力を誇示し、より多くの得点を稼いで来るでしょうね。ちなみに、例の四大公爵家の子息たちはそれぞれ自身の持つ属性魔法を使い、最高得点を叩き出したそうです。ここイースト領主であるスパーダ家は水や氷属性の魔法を得意としており、この石版を氷で覆った上に水の剣でバラバラにしたそうです。ランスロット家の子息は槍から放った炎で石版をドロドロに溶かし、アロウズ家の子息は無数の風の矢を放って石版を風穴だらけにし、モルゲンシュテルン家の子息は土魔法で巨大な像に変えたそうです。さぁ、お嬢様も遠慮なくどうぞ』


『いやいやいや、無理ですわ! 未だに普通の石礫いしつぶてすら浮かすことさえ叶わないのに!』


『それならまず問題ありません。今のお嬢様であれば普通の石を浮かすことは造作もありませんから』


『何なんですのその雑な励ましは!? せめて根拠を示すくらいしてもバチはあたらないと思うんですが?! ていうか、何であなた魔法試験の内容を知っていますの?』


『お伝えしていたではありませんか。私の本分は隠密、諜報工作、暗殺であると』


『いや、しれっと口にしましたが暗殺は初耳なんですが……念の為に聞いておきますわ。百歩譲って事前に試験問題を知り得た事は許しますが、まさかその際に誰か殺めていませんわよね?』


『御冗談を。見つかった際の後始末に時間を割くなんてプロ意識に欠ける行動を私が取るわけないじゃないですか。さぁ、お喋りしている暇はありませんよ、お嬢様。時間は限られています。四の五の言わずにさっさと始めてください』


 アネモネはそう言うと、何処から取り出したのか茨のように無数のトゲが生えた黒いムチを取り出しロザリアの足元に打ちつけた。


『ひぃっ! やります! やりますから!』


 こうして本格的に始まったアネモネのスパルタ特訓は出立ギリギリの先程まで続いていたのだった。


 その特訓の成果は馬車の中で項垂れているロザリアを見れば誰しも察しがつくというもの。


『まぁ、今日までの結果はちょっとアレでしたが……お嬢様。どうかこれだけは忘れないでください。もうあなたを縛る枷はございません。思いきり全力でぶつかってきてください』


 アネモネが別れ際にくれた助言がふと脳裏を過ぎる。それと同時に馬車が止まり、御者ぎょしゃが扉を開けてくれた。どうやらもう到着してしまったらしい。


 目的地であるルミナス学園へ。


「ここまで来た以上、もう腹を括るしかありませんわね。ぶっつけ本番でなんとか乗り切るしかないですわ」


 馬車から飛び降りたロザリアが眼前を見上げると、そこには思わず感嘆を漏らしてしまうほど幻想的で圧倒的な規模の巨大な歴史的建造物がそびえ立っていた。


(まるでスペインのサグラダ・ファミリアのようじゃないか……完成した現物、見たかったなぁ〜)


「ご健闘をお祈り申し上げております、ロザリアお嬢様」


 御者はロザリアに一礼し馬車を移動させる為に去って行く。


「何事も度胸! やってやりますわ!」


 気合を入れる為に両手で自身の頬を叩き、ロザリアは他の受験者たち同様に校舎の中へと足を踏み入れたのだった。

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