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人の恋路の邪魔をしよう

「さて、改めて聞かせてちょうだい。この二週間の諜報活動報告を」


 浴場を出て着替えた二人はロザリアの部屋へと向かった。ベッドに腰掛けるロザリアの対面に立ち、アネモネは口を開いた。


「まずお嬢様が仰っていた聖女ですが、結果から申し上げますと当たっておりました。セーラ・マーガレットは実在し、聖女の力を確かに宿しておりました」


「やっぱり……あ、でも聖女が実在していたのは良いとして、そのセーラさんが聖女の力を有しているとどうしてわかったの?」


「私がイーストエンドに到着したすぐ後、王国直属の騎士隊がその女性の家を訪ねたのです。おそらく、聖女発見の噂が既に王家に届いていたのでしょう。同行していた司祭が彼女を見定めておりましたが、すぐに聖女と正式に認定しておりました。また、お嬢様が裏口入学を蹴った事で空いた一枠にこのセーラという少女をルミナス学園に王の勅令という形で入学させるとの事でした。ここまではアサクラ様の仰る通りです」


「ここまでは? 何か含みのある言い方をしますわね」


 しばし何かを考える素振りを見せた後、アネモネはロザリアに告げた。


「アサクラ様の情報では、このセーラは公爵家の子息の誰かと恋仲になり結ばれると仰っておりましたね?」


「え、ええ。確かそのようなあらすじだったはずよ」


「そこが問題なのです。この国では聖女という存在は王族と結ばれる運命にあるとされています。それはまだこの大陸にセントラル王国が存在せず、東西南北の四つの国で覇権を争っていた頃。無名の一兵卒だった初代国王リチャード一世が光属性の魔力を持つ少女と結ばれたことで他国を圧倒し、千年にも及ぶ覇権争いに終止符を打って今日までの安寧あんねいを築いたとされています。故に聖女が降臨せし際は王族に嫁がせるというのがこの国の掟、ならわしとなっているのです。逆に言えば、もし聖女が四大公爵家の誰かと恋仲になり結ばれたとなれば聖女の加護は王家から移ることになる。王家としてはそれだけは是が非でも阻止するでしょう。万が一アサクラ様の仰る通りの展開となるとしたら、王家は内乱を起こしてでも聖女を奪還しようとするでしょう」


(そんなバカな! いやでも説明書にはそんな設定は無かったはず……はっ、もしかしてゲームを進めていくと辿り着く内容だったのか!? なんたる不覚! こうなると分かっていたならチュートリアルだけじゃなくもっと進めておくべきだった〜!)


 まさか異世界で国の存亡に立ち会うなどと夢にも思わなかった。頭を抱えてぐねぐねと悶絶しているロザリアにアネモネは続けた。


「幸い、このことを知っているのは私とお嬢様の二人だけ。こうなった以上、何がなんでもルミナス学園に入学して四大公爵家の子息たちから聖女を遠ざけるしかありません」

 

「遠ざけるって、具体的にはどうやって?」


「簡単なことです。四大公爵子息たちがセーラと恋仲になるのを邪魔するのです。最悪、お嬢様が公爵子息たちを誘惑して先に恋仲になるというのもアリです」


「無理ですわ! だってわたくし元男性ですのよ? 殿方と恋仲なんてとても」


「そうですか。なら私が公爵家に忍び込んで一人ずつ暗殺していくしか」


「それはもっと駄目ですわ!」


「ならどうしろというのです? 争いの火種が見えているにも拘らず何もしないおつもりですか?」


 とんでもない重荷を背負わされた気分だった。肉体的な荷重なら問題ないが、メンタル面となると話が変わって来る。それが国家存亡レベルとなると一個人でどうこう出来る話ではない。


「とにかく、それもこれも無事にルミナス学園に入学出来なければスタートラインにも立てません。当面は入学対策を最優先としましょう。明日からは魔法訓練を再開しますので今日はもうお休みください。私の方でも聖女対策を模索しておきますので」


 アネモネはそう言うと、ロザリアに頭を下げて部屋を出て行った。


 アネモネが去った後、思い切りベッドに倒れ込むロザリア。何やら話がややこしいことになって来た。国の平和の為に他人の恋路の邪魔をしなければならないという無理難題。


(はぁ、せっかく風呂で取った疲れがぶり返して来た気分だ。今日はもう何も考えたくない。さっさと寝てしまおう)


 強烈な眠気に襲われたロザリアはそのままベッドに潜り込んだのだった。

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