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6

 何が違うんだと泣いてしまったディランに、オリビアは呆然とした。

 とりあえず椅子に座らせ、不明瞭な話を聞けば、

「あの蛇は……俺です……」

 と言う。え、どういうこと、となるのは当然だ。どうも、鎮圧で手こずり、弱っていたので、神木のリアの木の下で小蛇になってエネルギー充填をしていたらしい。

「っ、ひ、ちいさいころ、は、かわいいって……俺のこと、かわいいって言ってくれてたのに………へ、蛇の俺はよくて、なんで俺は駄目なんだ……なんで……」

「は? 私が飼ってた小さい黒蛇もあなただったの?」

 さすがに驚きの声が出た。

 ディランは手の甲で涙をぬぐいながら、そうです、と認める。

 人間の姿になったら、オリビアがとても冷たくなった、酷い仕打ちをした、と罵られる。

「へ、へびは、けがらわしいって、言った……! だから俺……う、うー」

 言った。別に本当は汚らわしいと思っていなかったが、オリビアも相当歪んでいるので、好きな子相手に、クソみたいな愛着を向けて、加害したのだ。

 オリビアは隣に座り、迷った末に言葉を選んだ。

「蛇は別に……嫌いじゃない。可愛いと思ってる……」

「じゃ、じゃあ、俺も、人間の俺も可愛いって言ってくださいよ……! う、うあ、あー」

 泣き過ぎである。

 オリビアは嘆息して、ティロリン、と音が鳴らないのを不思議に思ったが、チカチカと視界の片隅で確定ルートのマークがついている。

 あ、もうこれ確定なんだ……

「あんたね……趣味が悪いのよ……こっちは気をつかってやったのに」

 バカな執着は手放した方がいいと思ったのに。

「か、勝手に、うえから、おれのきもちを、勝手なことをしないで……俺のことも可愛がって……っく、うぇ、えっ」

「意味がわからない……後宮に千人も人がいるでしょうが……」

 どっと涙が更に溢れるディランの不明瞭な説明によると、あれは保護したり、勝手に人間が送ってきたりで、手は一人も出していないらしい。あーゲームと違う、エンディングが確定した時点で、遡って後宮事情も決定されたようなメタ感にめまいを覚える。

 おまけに、父親のアーサーは幹部が確かに重傷を負わせたが、治療蘇生させていると言う。まだ不確かなのでなにも言えなかったようだ。そういえば、お父様はディランのことかわいがっていたしね、と腑に落ちた。空気が壊滅的に読めなかったけれども、仲は悪くなかったのだ。

 なにかもう、言い訳しても全部塞がれている気がする。

「私……あんたにリアの花を摘ませて、叩き落としたわ」

 そして、従兄弟たちにわざわざ見物させて、踏みにじらせたのだ。

「ひどい……ひどいっ、なんでつめたくするの、ひどい……」

「ごめん……歪んでるの……泣き顔可愛いなって思ってるかも……」

 オリビアの感性は終わっている。

「お、俺も、あなたを泣か……うっうう~~~~」

「できないでしょ。はあ、もう、謝っても……許してもらえないと思うけど、ごめんね。ひどいこといっぱいしてごめんね」

「おりびあ……お嬢様……ッ」

 ディランの紅玉の目は水膜を張って、次々と大きな雫を頬に伝わせた。青年は今やぶるぶると震えている。中原を支配した魔王が、まるで小さながりがりの手足の少年の頃のように、絨毯に水滴の黒い染みを作りながら、しゃくりあげているのだ。

「おりびあおじょうさま、おりびあおじょうさまっ」

 泣いている。

 オリビアは両手を広げて抱きしめていいのか、そうしたほうがいいのか分からなかった。  

 そして、最低なことに、しょうもない気質が頭をもたげる。

 ああ、どうしよう。泣き顔が本当にかわいくて。私、本当に駄目だ。歪んでいる。なんでもしてあげたい。

「あの……抱きしめる?」

 オリビアが両腕を広げ、尋ねると、ディランは大きく目を見開き、こくこく頷いた。



 さっそくに、オリビアは頭痛のするような思いで、あー、と両目を閉じる。

 がっちりしがみつかれながら、なるほど、本性は蛇だったわね~~~~~と、めまいがした。

 というのも、ディランは興奮し過ぎて、下半身が巨大な蛇になってしまったのだ。長い。長大だ。とぐろを巻いている。

 でかい。クソでかい蛇下半身に拘束されている。命の危機を感じるかもしれない。

「おりびあおじょうさま……」

 もうお嬢様じゃないんだけどな、と思いつつ、オリビアは頭を撫でていいか尋ね、かつての蛇の子の頭をよしよしと五指で優しく梳いてみた。

 ディランは号泣して、オリビアの方が「うーん」となった。

 なんでここまで好かれているのか分からない。

 マゾなのかな……と思うオリビアである。

「なにかべつのことかんがえないで……ください……」

 えぐえぐ泣かれて、魔王も形無し過ぎるディランに、ごめんね、と謝って、オリビアもたまらなくなって腕を巨大な蛇に巻き付けたのだった。




 結局、後宮は徐々に元々解体予定していたらしく、ゆるやかにそれはなされ、父親のアーサーも意識が覚めて、まあまあハッピーエンドなのかなと破れ鍋に閉じ蓋となったオリビアである。


本編完結です。お読みくださりありがとうございました。


あとは番外を気の向いた時にのんびり付け足すかと思います。


またお付き合いくださるとありがたく存じます。




最後に、よかったら、本編完結に際しまして、ブクマや下の方にある評価☆☆☆☆☆を好きなだけ★にして評価いただいたり、お気軽にご感想、レビューなどいただけると、とてもうれしいです!




(なお、他の名義アカウントは身内バレを避けたく、触れられた場合は申し訳ないですが該当ご感想を削除させて頂くことがあります、すみません)

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― 新着の感想 ―
めちゃめちゃ好みでした!関連のお話があればどれだけでも読みたいくらいです。機会ありましたらお待ちしています。
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