表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/12

4

「だから死ぬ方がマシとまで言う俺の後宮に入れてやったんですよ」


 そんな自傷行為みたいな真似しなくてもいいのに。あなたを愛してくれる人はたくさんいるんでしょ? とオリビアは思った。

 先ほどの側室たちも、オリビアに嫌味を言って来たが、ガチギレしたのは、ディランを侮辱されたと思ったからなのだろう。

 忠誠心が高いじゃないか。

 自分のハーレムに、わざわざオリビアを入れる必要もなかっただろうに。

 黙り込むオリビアに、ディランは自分で見切りをつけたらしい。

「貴女の命を脅かすつもりはなかった。俺は貴女とは違う。先ほどの監督不行き届きはお詫びします。口だけではなんだな。詫びの品でも送っておきますよ」

 言いたいだけ言うと、踵を返した。

 オリビアはその背に声をかける。

「私はいない方がよいのではなくて」

 ディランは毛皮のマント越し、ぞっとするほど冷ややかな顔で振り返った。

「ご冗談を。逃げられるとは思わないことです」

 いや、そういう意味ではなく、とオリビアは思ったが、もうディランは扉の向こうだった。

 そして、ディランの言う通り、詫びの品が届いた。

 調度品や小物、アクセサリー、嗜好品などである。

 しかも、どういうわけか、一度きりではなく、何度も届く。

 はあ、分割支払いか? 

 オリビアは届く品物を前に、戸惑った。

 しかし、どういうわけか、ドレスや靴などは届かない。

 なんで? ろくに人前に着て行けるような服もないんだけど、とそちらの方が実用的にも関わらず、徹底して衣装と靴だけが排斥されていた。

 更に、数日してまたディランが来た。

 ちら、とオリビアを確認して、「俺からの贈り物は、死んでも身につけたくないということですか」と何か自己完結している。

 いや、アクセサリーだけもらっても、衣装ないから浮くんだけど、とオリビアは思ったのだが、口が縫い付けられたように開かない。

 段々わかってきたのだが、選択肢はなくても、罵詈雑言の類だと自由に伝えられる。

 致命的にあかんやつ。

 慇懃無礼作戦なので、だんまりか、出て来た選択肢でマシに思えるものになると、オリビアは結局ディランを無視する形になりがちだ。

 それは、特に手酷く故意で傷つける言動をするわけではないが、別の形でディランの自尊心を削っていったらしい。

 気づいたのは、もう少し後になってからのことだったけれども。

 こうした態度を取っている内に、また魔族の女ふたりが訪ねて来て、何故陛下が贈るものを身につけないのかとぶち切れ気味に追及してきた。

 ディラン相手でなければ、もう少しオリビアも意思表示できる。

 この間殺されそうになり、殺しそうになった女たち三人は、嗜好品が増えたので、ふつうにお茶などしながら、物騒な会話を始めた。

「だって、ドレスもないのに、こんな大ぶりの……大きければいいというものではないでしょうに、身につけても浮くでしょう」

「そこは! 陛下の気持ちを汲んで、まず身につけなさい!」

「はあ」

「その返事、止めなさい」

「はあ」

 聞く気のないオリビアだ。オリビアは、使用人に注がせた紅茶の香りを嗅ぐと、少し口にする。

「むしろ私が聞きたいのは、衣装と靴がないことよ。ふつうはセットで贈るでしょう」

「ハァ⁉」

 魔族の女たちふたりは、クソでかボイスで唱和した。

「お、お前本気で言ってるの?」

 側室と言っても、魔族の文化なのか、興奮するとかなりラフである。大体こっちはお前らに父親を殺されているんだが? とオリビアは思った。なんで殺したやつの総大将から贈られたアクセサリーを喜んで身につけると思われているのか。

「衣装も靴も――職人が、触れるでしょう」

「それはそうでしょう。サイズを測らないと」

 オーダーメイドで作らせるのだから、そうなる。女たちは複雑そうな顔でお互いに視線を交わした。

「魔族は――番に対して執着が強いのよ。まだ自分も足のつま先に触れることすらゆるされていないのに、職人といえど触らせることはできないわ」

「……は?」

 え、ディランってまだ初恋引きずってるの? 重症だね? 私もですけど、いやいや、とオリビアは黙る。

 これは魔族の女たちが勝手に言っていることで、ディランから聞いたことではない。単に嫌がらせの可能性の方が高い。

 そもそも、忠義の高い者たちに囲まれて、愛されているのに、過去の亡霊のような傲慢な女を今でも好きとかどれだけ可能性としてあるだろう。皆無だ。

 ふう、と溜息が出た。

 可能性皆無にしても、ますます身につけるわけにはいかない。

 好感度はゼロに保っておきたい。

 敬意は払うが、身につけるようなことで好感をあげても困るのだ。

 そう思っていたら、プレゼント攻撃はますます激しいものとなって来た。

 魔族の習性について、魔族の使用人に尋ねる。 

 求愛行為だということらしい。

 ディランの趣味が悪すぎて、オリビアは理解不能だ。口ではオリビアをどうでもいいように言うが、やっていることが完全に真逆である。

 はあ、とオリビアは薄青い髪をかきあげた。

 ならば、ますます受け取るわけにはいかない。

 腹ボテエンドはごめんだし、ディランはもう過去の亡霊からの承認に捕らわれない方がいいと思う。

 オリビアは丁寧にメッセージをしたためて(これは何故か通った。拒否だからか?)、品物を受け取れない旨、消耗してしまったもの以外全て突き返す形で返品した。

 ディランからの返事はなかった。

 プレゼント攻撃は終了したので、オリビアはほっとした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ