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ELYSION  作者: 秋風スノン
第4章 正義の境界
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第65話『そうだ、脱走しよう!』

「よし! じゃあさっそく俺が考えた作戦を発表するんだぞ!」


 まず、ジークが両手を上げて作戦を説明しようとするが、話をする前にレイズが口を挟む。

 

「却下だ。それは俺がやる。お前の考えたモンなんて信用ならねぇからな」


「何でだい……」

「ジーク殿、お気を確かに!」

「君に言われたくないんだぞ……」

 

 ガックリと肩を落とすジークは、ネクラーノン状態のリズに励まされてしまう。

 眼鏡はそのままなのか。


「時間や素材もねぇ状態……ましてや敵だらけの中で何も考えずアイツらを探すのは無理だな。何か乗り物でもあればいいんだがな……あるとすればアレか!」


 レイズは、ブツブツと独り言を話しながら考えていたが、最高の嫌がらせを思いつき、不敵な笑みを浮かべたのだった。

 


 太陽が真上に来る頃、レオンドール城は午後からの執務に備えて準備がされていた。

 

 城で働いている貴族達は、金で塗り固められた廊下を忙しく行き来し、一般民は厨房で食事の用意をする。警備の傭兵は変わりがないか巡回をしていた。


 厨房で働く中年の女は、大量の食材を前に額から流れた汗を拭う。

 今日入って来たばかりのアンノウンイモは、王や貴族へ出す為に丁寧にふかしておくのだ。


 湯を張った鍋の上に小さな穴が開いた鍋を重ね、甘みを引き出す為にじっくり弱火で蒸す。


 遠くのモッチリ村から取り寄せた高級品であるこのイモを、火傷に気を付けながら割って見れば、黄金のように鮮やかな断面がホワリと湯気を上げる。


 女が金箔の施された皿に盛りつけようとした時。

 

 突然、バァン! という大きな音と共に、女の体ごと扉が吹き飛んだ。

 宙を舞う甘いアンノウンイモ。そのひとつを手に取ったのは乱入者だった。


「すみません、お邪魔しまーす!」


 全く悪びれる事なく、軽快な口調でそう言って突撃したのは、分厚い板に乗ったジークとネクラーノン、レイズの三人。

 

 冷たい氷をまき散らしながら、驚いて悲鳴を上げる料理人達の間を抜け、厨房と扉続きになっている隣の食糧庫をぶち破っていく。


 後ろから何か怒鳴り声が聞こえているが、ウマよりも早く進むAHOU隊には聞こえなかった。


 道がなければ作ればいい! を実践していく三人が乗るこの大きく分厚い板は、レオンドール王の肖像画である。

 乗り物がないかと思っていた所、ちょうどいいところにあったので助かった。

 

 顔が描かれた面を下にし、進む先にネクラーノンの魔法の氷を敷いて魔力で動かしているというもの。

 もはや、無礼を越えて正気の沙汰じゃない。

 

 そして、ジークはちゃっかりいただいたアンノウンイモを食べている。


 そのまま、嵐のようにレオンドール城の中を爆走しながら酒の貯蔵庫・衣装庫をぶちやぶっていき、ジークはさりげなく衣装庫から拝借した王様愛用の金髪のカツラをかぶっていた。


「小生の魔法がこんなに役に立つとは……感激ですぞ!」


 ――ガリガリガリ!

 

「ふはははっ! ぶち壊してやるぜェ!」


 ――ズシャァー! ガリガリガリ! ベコッ!

 

「すごいぞ! この調子で進もう!」

 

 それぞれが『肖像画ライド』を楽しんでいるが、氷を滑る音がうるさすぎてお互いの声は聞こえていない。


 そして、尻の下で優雅に微笑むレオンドール王の顔が摩擦で削れていく。

 

 前を歩いている貴族や兵士を弾き飛ばしながら突き進むと、ほぼ直角の急カーブが見えて来た。


「うおおぉぉ!」

 

 三人はスピードを落とさないまま、遠心力に負けないよう体を傾ける。

 

 肖像画がめくれる勢いで角を曲がり切った所で、ジークはある事に気が付く。


「ちょっと待ってくれ、これはどうやったら止まるんだい?」

 

「何をおっしゃる! この戦いにブレーキなど、ありませんぞ?」

 

「…………」

 

 まさかのネクラーノンの男らしい答えを聞いたジークは、死んだ魚のような目で唇をキュッと結んだ。

 

 これにより、命がけの肖像画ライドはさらに白熱する。


「レイズ! リズをどうにかしてくれ!!」

 

「世界が回る……俺はもうダメだ…………」


 恐怖で白目を剥いたジークがレイズに助けを求めるが、彼は乗り物酔い……もとい、肖像画酔いしていた。

 

「…………」


 ジークは、またも死んだ魚のような目をしていた。

 

 そうこうしている間に、行先を決められない肖像画ライドは、ネクラーノンの強い魔力により勢いを増し、ついに壁を走り出してしまった。


 こうなれば、もうどうしようもない。

 肖像画は階段を上り部屋をぶち破り、複雑なレオンドール城を暴走していく。


「おおぉお! 誰か助けてェーッ!!」

 

 ジークは悲鳴を上げながら肖像画の枠にしがみ付いていたが、なんと廊下に置いてあるレオンドール王の像に乗り上げてしまう。


 結果まさかの、像を踏み台にして羽ばたく白鳥のごとく飛び立ってしまったのだ。


 宙を舞うレオンドール王の肖像画。

 ジークは、あまりの衝撃に耐えきれず振り落とされてしまった。


「ヘブッ!」

「いってぇ!」

 

 ネクラーノンとレイズも同じように床を転がり、近くにあった部屋へ突っ込んでいく。

 

 もはや無人の凶器となってしまった肖像画は、勢いを殺せないまま廊下を回転しながら滑って行ってしまい、運悪く通りがかった何人かの貴族の豊かな頭頂部を剃り抜いていった。

 

「ノオォ……小生の乗り物ォ!」

「しっ、静かにするんだぞ!」

 

 短いながらも愛用していた肖像画に置いて行かれ、ネクラーノンは悲痛な叫び声を上げるが、ジークはすぐに口を塞いで黙らせた。


「レイズ……は大丈夫か」


 ジークは、頭を打ってしまい唸っているレイズの無事も確認すると、人の気配がして顔を上げる。


「……あんた達……!」


 聞き覚えのある少女のツンとした棘のある声、吊り気味な大きな瞳。そして独特な巻き髪……。

 

 嫌悪感を剥き出しにする彼女の後ろから、これまた独特な髪型の少年が現れた。

 ジークは、彼女らの事をイヤというほど知っていた。

 

「タテロル王女……と、ターマネギ王子にシチサン王子……!」


 ぼそりと小さく声に出して名前を呼べば、少女……タテロル王女の目がさらに吊り上がった。

 

 王女達とは以前、エリュシオン傭兵団の入団試験で出会い、なんやかんやでジークがぶん殴ってしまったという経緯がある。


 周囲を見れば、窓に布を下ろした薄暗いこの部屋には、淡い魔法の明かりがポツポツと灯り、木製の椅子が並ぶ。


 金色の石が敷き詰められた床の中央には、白い女神像が微笑んでいた。

 

 淡い桃色の花と、小さな器に水を入れたものが用意されている事から、女神への祈りの部屋なのだろう。

 

「あんた達……今が人払いしたお祈りの時間と知って入って来たのかしら?」


「そうだ! 姉様の言う通りだ、ここで大声を出せばお前らは捕まるぞ!」


「どうやって城に入って来たんだ⁉」


 口々に詰めよるレオンドールの王女と王子に、ジークは思わずたじろいでしまう。


「え……えーっと、実は用事の途中で道に迷ってしまいまして……」


 愛想笑いを浮かべた時、ふと、ひとつ疑問が浮かんだ。

 普通、ジークがここにいる時点で人を呼ばないか? 確かに、あの裁判は秘密裏に行われていたけれど……。

 

 もしかすると彼女らは、ジークやレイズ、リズが裁判にかけられた事を知らないのかもしれない。

 だとしたら、これはチャンスなんじゃないだろうか。


「……」


 ジークが真剣な顔で黙り込んだのを見たタテロル王女は、気を良くしたのかドレスの裾を少しだけ揺らし、黒いヒールを見せつけた。


「いいわ、あの時の事を今ここでアタシに跪いて謝るなら許してあげる!」

 

「そうだ、姉様に謝れ!」

「ついでにそこのお前らも、僕達を誰だと思ってるんだ⁉」


 勝ち誇った顔で微笑むタテロル王女に、二人の王子が加勢する。

 ネクラーノンは、無言で彼らの顔を凝視(ぎょうし)している。


「……」


 ジークは考えていた。ただでさえ、城中を肖像画で暴走している。

 ここで、従順なフリをしないともっと騒ぎが大きくなってしまい、兵士が集まってくるのではないか。

 とにかく、自分が謝れば騒がれないのだとしたら……。


 そっと膝を折ろうとした時、意外な声が遮った。


「さっきから、聞いてりゃガタガタガタガタ……うるせぇんだよ!」


 肩で風を切って進み、容赦なくタテロル王女の胸倉を掴んで、彼女の顔を自身の顔の前に持ち上げたのはレイズだ。


 眼鏡をかけていないので、きつく眉根を寄せ目を細めているが、実のところレイズ自身も相手が誰なのかわかっていない。

 

 なんなら、よく見えていないのでこの距離まで近付いたというだけだ。

 それでも全く顔が見えていないのだろう。「(ヤロー)か……」と舌打ちをしている。


「こちとら、こんな所で時間を使ってる暇なんかねぇんだよ! さっさとこの城の配置を教えろ!」


「ちょっ、レイズ……! この人は……」


 物凄い勢いで威圧するレイズを止めようとジークは手を出す……が、『そもそも、俺は死刑だしな』と思いなおし、やめておく。


 俯いたタテロル王女は、前髪の隙間からレイズを睨みつけて言う。

 

「……ッ! このアタシにこんな事して……いいと思ってるの?」


「知らん。命が惜しけりゃ協力しろ!」


 悪役のように凄むレイズ。

 

「ね、姉様……」

「おい! 姉様から離れろ!」


「黙ってろ、トンガリ頭! 俺はコイツと話してんだよ!」


 タテロル王女の援護に向かったターマネギ王子・シチサン王子、一睨みで撃沈。


「ど、どうなるんだい……」

 

 ジークがハラハラしながら見ていると、下から睨みつけるばかりだったタテロル王女の唇が動いた。


「…………信じられない」


 心なしか吐き捨てるようにそう言った王女の、刺々しい声が柔らかくなった気がした。

 

「……」


 ジークは固唾を飲んで見守る。


 もし、王女が叫び声を上げるなら気絶させるしかない。

 何か武器になりそうなものはないかと視線を外すと、タテロル王女が顔を上げた。


 重い沈黙の後、彼女が放ったのは意外すぎる言葉だった。

 

 

「……なんて……強引な殿方(とのがた)なの? 今までワタクシの周りにいませんでしたわ。お名前をお伺いしても……?」


 そう言ってはにかんだように微笑む王女の顔は、恋する乙女のそれ。

 乱れたドレスの裾や髪型も気にして、なんだか言葉遣いまで変わっている。

 

「ズコーッ!」


 ジークは思わず真顔のまま、女神像の足元に頭から突っ込んでしまった。

 まさかの展開であり、突っ込まずにはいられない。


「見取り図ならすぐに用意させますわ。アナタなら、ワタクシの全てを差し上げてもよろしくてよ?」


 王女はそう言うと、弟達に命じて城の見取り図を描かせていく。

 

 「は?」


 当のレイズも状況がよくわかっておらず、リズが眼鏡をかけてあげたことで現実を知る。


「……うわ…………」

 

 レイズは、目の前に居るのがレオンドールの王女だという事に驚き、慌てて彼女の胸倉を掴んでいた手を放した。

 

「どうぞ、お名前を?」


 ススッと城の見取り図が描かれた紙を手渡してくる王女は、明らかにレイズに一目惚れしているようだ。

 礼儀も何もあったものじゃないが、きっと何か思う所があったのだろう。

 

 思い当たる所としては、顔がいいくらいだが。

 

「……だ、そうだ。王女を脅すなんてすごいな!」


 ジークは、ニヨヨンと嫌な笑顔を浮かべレイズの肩を叩く。

 

「誰か、俺を処してくれ…………」


 半端ない後悔でどんよりとしたオーラを(まと)ったレイズは、両手で顔を覆うとその場に蹲ってしまった。

 その辺にあった木の棒でリズがつついている。


 脱走した先で王女に気に入られてしまうという、謎の展開。


「な、名乗るほどの者じゃありませんので……俺達に会った事は黙っていて欲しいです…………」

 

 絶望の表情のレイズは、王女の方を見ないように城の見取り図を受け取ると、立ち上がり、じっと見つめ頭に叩き込む。

 

 外の様子が騒がしくなってきた。きっと、ここに居るのがバレるのも時間の問題だろう。

 

 ジークは窓を覆う布をめくると、重い窓を横に押して開く。

 今まで閉め切っていた部屋に(ぬる)い風が吹き込み、髪を撫でていく。


「こっちから出よう!」


 そう言って窓枠に足をかけ、城壁へと出ていく。

 ジークのあとにリズとレイズが続いていくが、王女は別れ際までずっと名前を尋ねてきていた。


 よく考えれば、四大貴族同士で顔を見たことがないと言うのも変な話だが、レイズは体が弱く家から出る事がなかったので納得ではある。


 城壁に足をかけ、見取り図を開いたリズは片割れに純粋な質問を投げかける。

 

「レイ、王女と結婚する?」

 

「するわけねぇだろ、バカ!」


 うんざりした顔のレイズは、そう言うと出て来た窓をピシャリと締め切ったのだった。


「それより、ハツとシャオロンはどこにいるんだろう?」


 ジークは慎重に城壁を渡りながら仲間に問いかける。


「魔法使いが亜人奴隷をあんなに近くに置いている事はまずない。つまり、あのクソ猿はレオンドールにとって守護獣の可能性が高いな」


 レイズは眼鏡の端を指で持ち上げながらそう言う。


「守護獣? ……ってなんだい?」


 聞きなれない言葉に、ジークは怪訝な表情をする。

 ふぅ、と呆れたように息を吐いたレイズは、魔力で指先に灯した炎を見せた。


「守護獣っていうのは、相手の魂を魔力で結び付けたものだ。魔法使いにしか出来ない技だな」


 顔から笑みを消したレイズは、指に灯した炎を足元にポタリと落とした。

 すると、落ちた小さな炎がモゾモゾと動き出し、獣のカタチをとる。

 そうして、炎の中から一匹の小さな黒い狼が姿を現した。


 それはレイズの足元に顔をすりよせて甘えると、「ピィピィ」と可愛らしく鳴いた。


「それぞれの家系魔法と魔力量に合った大きさの者が作り出される。ようするに、使い魔だな」

 

 守護獣というにはあまりにも可愛らしい、燃える毛並みの子狼を抱きかかえたレイズは、そう言って複雑そうにフッと笑った。

 

「ん。魔法使いと守護獣の関係は魔力で契約した主と(しもべ)。でも、魔力で作り出すわけじゃなく生身の相手を守護獣にするには、弱った魂に杭を打つと言うこと。リズは好きじゃない」


 無表情のまま、瞬きをしたリズは見取り図を見ながらそう続けた。


「つまり、ハツはレオンドール専属の護衛っていうことかい?」


「確証はねぇがな。ようするに、レオンドールの居る所にアイツもいる可能性があるってことだ!」


 頭の中にある城の見取り図を思い浮かべ、レイズが方角を指さす。

 ジークは表情を引き締め、身を低くし城壁の石を蹴って走り出した。

 

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