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ELYSION  作者: 秋風スノン
第2章 フェアリーテイルの雫
40/69

第40話『フェアリーテイルの雫』

「……えーと、なになに? 港街のニーコで魚類系の魔物が大量発生! 謎の魔法使いが参戦……?」


 ある日の午後、ジークはいつものように畑の草抜きをしながら、レオンドール本部から届いた手紙を読んでいた。

 てっきり、数日前に送ったジゼルの髪の毛についての言及かとおもいきや、意外にもあれから何もない。


 あの髪の毛で、本部がうまく騙されてくれているのだろう。ジークはそう思う事にする。

 

 それぞれの配属先へ定期的に送られてくる『ミラナ領のホットニュース』には、少し興味深いことが書かれている。

 手紙の続きを追って視線を下に流していると、村の方からシャオロンが走ってきた。

 

「ジーク! 大変だヨ!」

 

 いつもは滅多なことで慌てないシャオロンの様子に、ジークは読んでいた手紙を折りたたむ。


「あれ、どうしたんだい?」

 

 続きを名残惜しそうにポケットにしまいながら、のんびり答えるジークにシャオロンは声を荒げる。

 

「今、あっちの畑でならず者が来て、村長が人質になってル! ジークにしかどうにかできないんだヨ!」

「なんだって……村長さんが……すぐに行く!」


 ただならぬ気配を感じたジークは、フィアを手に取るとシャオロンに続いて走って行った。

 村長は恩人だ。もしものことがあったら――。

 

 頭に浮かぶ一抹の不安をかき消しながら、現場の畑へ向かう。


 いくつもあるベレット村の畑のうちのひとつには、確かに村長の姿があった。

 だが、なぜか、ふんどし一枚の姿で仁王立ちしていた。

 

 対して、圧倒的に防御力ゼロの村長を取り囲むのは、上半身裸でパンツ一丁のむさ苦しい男達。

 村の人ではない、ガラの悪い風貌からして、彼らがならず者だろう。

 

 彼らは、それぞれ火が付いた棒を手に持ち、己の逞しい肉体を見せつけながら激しく棒を振り回して舞う。

 雄たけびを上げながら棒を宙に投げ、火を恐れることなく踊る姿は妙な迫力があった。

 

 ――そう。ここに、防御力ゼロのおっさん達が集結していた。

 

「……何だい、あれ」

「ネ? ジークにしかナントカ出来ないって言ったデショ」


 何か一種の呪われた儀式のような光景に真顔のジーク。あたかもジークだけが頼りだと鼓舞しておきながら、シャオロンは面倒ごとを押し付けていた。


 だが、真面目なジークは状況を冷静に分析する。


「あの温和な村長があんなに険しい顔を……もしかしたら、ただ事じゃないかもなんだぞ」

「フンドシとパンツ一丁野郎の集団は、もう既に存在がただ事じゃないヨ」


 今にも何かが起こりそうな予感にハラハラしているジークだが、シャオロンは死んだ魚のような目でツッコミを入れた。

 

 そこへ、騒ぎを聞きつけたハツも別の畑からやってきたが、例の集団の姿を見た瞬間に目を逸らしていた。

 やはり、誰が見ても関わりたくないものなのだろう。


 気合を入れるように両腕の服の袖を上げたジークは、村長の応援へ向かう。


「よし、とにかく村長を助けよう……!」


 な? と振り返れば、シャオロンとハツは直立不動の姿勢を貫いていた。わかっていたことだが、援軍はないようだ。

 仕方ないので、ジークはひとりでならず者の男へ挑むことにした。

 

 まずは暴力ではなく対話を試みる。

 

「そ、村長を放せ!」

「うるせぇ! この変態を殺されたくなければ、金目の物を出しやがれっ!」


 武器を持たず、割り込んだジークに大声で叫びながら、男は持っていた火の棒を振り回し踊る。

 上下左右に振り回される炎。空に描いた残影が美しい。


 だが、それは離れたところから見ていればだ。

 

「あっつ!」


 火の先端が腕に当たってしまい、ジークは怯んでしまう。


「何を! 我が村は守って見せましょうぞ!」

 

 それに対抗して、何故か村長もふんどしの舞を見せつける。

 飛び散る汗、気迫を示すような鋭い眼光。

 両者の気合の声と交差する熱が交わり、湯気があがる。

 

 両者一切譲らず、変態と変態のコラボレーションが出来上がってしまっていた。


「くっ、ファイヤーダンスか! これじゃあ危なくて近付けないぞ……」

「イヤ、背負ってる大鎌(ソレ)使いなヨ」


 美しく狂い踊る、村長とならず者達を悔し気に見つめるジーク。シャオロンは彼が大切そうに背負っているフィアを指さした。


「フィアをあんな危ないおっさんに近付けて、火傷したらどうするんだい?」


 大真面目な顔で聞き返してきたジークは、背中から下ろした大鎌を大事そうに撫でている。


「……そ、ソウ……」


 シャオロンはそれ以上、何も言わずに死んだ魚のような目をしていた。


「つか、その農具はどっから盗ってきたさよ?」

「フィアは農具なんかじゃない、相棒だ!」


 ついでに、ハツにまでこの調子なので呆れを通り越してしまう。

 そうこうしていると、村長の野太い悲鳴が聞こえた。


「村長ぉお! おのれぇっ!」


 すぐに気を持ち直したジークが駆け付けると、転んでしまった村長を奴らが追い詰めているところだった。

 ジークは仲間達を振り返り、渾身の力を込めて呼びかける。


「くっ! こうなったら、こっちも魂のふんどしの舞を……」

「シナイネ」


 シャオロン、拒否! ジークは次のターゲットに移る。


「ハツ! 君なら……!」

「……」


 当然のように目を逸らすハツ、拒否! そんな事をしている間にも村長にファイヤーダンスの火の手が迫る……。


「さぁ、これでとどめだ……! お前もファイヤーダンスを踊れ!」


「くっ! ベレット村に伝わる伝統的な踊りを捨てるわけには……!」

 

 ファイヤーダンス集団に囲まれて悔し気に俯く村長。


「もうダメだ、絶体絶命なんだぞ……!」


 深い絶望にジークは地面に膝をつく。現実はいつだって残酷なのだ。


「なぜだ……なぜ、俺はこんなにも無力なんだ……! 村長、すみません!」

 

 ジークは己の無力さを呪い、魂から嘆き叫んだ。

 やはり、本物の火には情熱は敵わないのか! ジークがよくわからない戦いに勝手に心折れそうになっていたその時。

 

 混乱する空気を切り裂く、一発の銃声が鳴り響いた。


 放たれた弾丸が宙に赤い魔法陣を描き、空から炎の矢が降り注ぐ。

 村長もろとも、ならず者に向けた無差別の全体攻撃魔法。


 このカオスな状況を吹き飛ばすツッコミの再来。慌てて逃げ惑う彼らとは反対に、ジークの顔に明るさが戻る。


「……なんだ、思ったより早いじゃないか!」


 ジークは、手を上げて彼らに声をかける。考えなくても相手の予想はついていた。

 


 見覚えのある赤髪は、気だるげに舌打ちをする。


「……ったく、ダルいことやってんじゃねぇよ。クソ一般民!」

 

 魔銃を撃ち放った東の魔法使い――レイズは、顔がいい男にしか許されない悪役さながらの邪悪な笑顔で、左手中指を立てていた。


 といっても、彼は愛用の眼鏡をかけていないので、よく見えていないだけだが。


「レイズ! 帰って来たんだな? リズは……?」


 辺りを見渡したジークがそう訊ねた時、残りのならず者たちが一斉に甲高い悲鳴を上げる。

 振り返れば、見覚えのある瓶底ぐるぐるメガネが、戦場(笑)を駆け抜けていくのが見えた。


 はっきりとした明るい声は、空気を換えてくれる女神オタクのあの子だ。

 

小生(しょうせい)もいますぞ! ホレホレェ!」


 鋭い双剣を自在に振るい、次々とならず者たちの火が付いた棒を切り捨てていくのは、東の魔法使いの片割れ。

 ついでに、村長はふんどしを切られそうになっていた。

 

「女神様に代わって、悪党は成敗ですぞ!」

「や、やめろ! これは高かったんだ……! これがなければ俺達は商売が出来ねぇ!」


 大事な商売道具を次々と壊されてしまい、黄土色の悲鳴を上げながら、ならず者の男たちは逃げていく。


 ファイヤーダンスを広めるのが目的だったのか、野盗だったのかは、今となってはわからない。


「お……おお……」

 

 なんの茶番だったのかと思うほどアッサリとした引き際に、ジークは真顔のまま言葉を失う。

 

 あいつらは何だったというのだろうか……ともあれ、村長が無事だったので細かい事はいいとしよう。

 このままでは仕事が続けられない村長は、お礼を言って帰って行く。

 

「やはり、小生がいないといけませんなぁ!」

「眼鏡返せや。見えんわ」


 とてつもなく誇らしげな顔で高笑いをするネクラーノン。


 もといリズだが、レイズに眼鏡を取り上げられると、元の物静かな無表情に戻ってしまった。もはや一種の顔芸である。

 

「…………そう、リズも戻ってきた」

 

 たっぷり沈黙したあと、リズはそれだけ言った。眼鏡がスイッチなのか? 効果音をつけるならそう「スン……」。


「ねぇ、今のドンな感情でやってたノ? ボケの火力強すぎなイ!?」


 あまりの豹変ぶりに、たまらずツッコミを入れてしまうシャオロンだった。


 

「レイズ、リズ! こんな早く帰って来てどうしたんだい? 帰りもミラノ領に寄ると思わなかったんだぞ!」


 早くに仲間と再会して嬉しいジークは、満面の笑みで彼らを迎える。

 よく見れば、二人とも自分のサイズに合ったスペルの制服を着ている。

 

 レイズは魔銃をしまうと、気まずさを誤魔化すように眼鏡の端を持ち上げて言う。


「どうしたもネェよ。仕事だ、仕事! お前らと違って大貴族は遊んでられねぇんだよ」

 

「ルーク、家燃えたし、当主変わったし忙しい。ようするにお金ない」


 荒っぽく話すレイズとは対照的にリズが冷静に説明する。

 確かに、あの日ルークの館は全焼してしまったので財産もろとも燃え尽きてしまったのだろうが、四大貴族の彼らも色々と事情がある様子だ。


「そうなのかい? どこの街に行ったとしても、何か手伝えることがあれば言ってくれよ!」


 なんとなく事情がわかってしまったジークは、力強く頷き彼らを励ます。

 まさかの態度にレイズは怪訝な顔をし、ハツとシャオロンに平静を装って訊ねた。


「……おい。コイツ、マジで隊長にして大丈夫かよ」

「大丈夫ジャないカラ、苦労してルヨ……」

 

 あからさまにジークに疑いの目を向けているレイズに、シャオロンは今日で何度目かの死んだ魚のような()で答える。

 

「あのバカが隊長……。だいたい、俺らが来るのは本部から手紙が行ってるはずなのに、何を驚いてんだ……」


「読んでねぇんさろ。ま、ジークはそんなヤツさ。だから組んでんさな」


 呆れたように、けれど安心したように笑うハツは、ジト目になっているレイズに続ける。

 

「オメェらもそう思うから、わざわざここに来たんさろ?」


 そう言って同意を求めるように首を傾げたハツ。

 レイズはハツに見抜かれていた事に驚き、複雑そうに口の端を吊り上げ鼻を鳴らした。


「……まぁな」


 本当は、四大貴族の二人には安全な地域が用意されていた。

 けれど、それを断ってわざわざ給料も安くて大変なAHOU隊に志願したのは、そうしたかったから。

 

 こっちの話を全く聞いていないジークは、リズと旅の話をして盛り上がっている。

 ジークは正直言って頼りない。けれど、何故か頼ってしまうのだ。


 苛立ちを噛み潰したレイズは不敵に笑うと、持っていた荷物の中から一通の手紙を取り出し、ジークや他二人に見えるように広げる。

 


「改めて、エリュシオン傭兵団、スペル部隊。レイズウェル・ルーク及び、リズウェル・ルーク。本日付でジーク・リトルヴィレッジ率いるAHOU隊に配属されました」


 堅苦しく丁寧に発語し、正式なレオンドール本部からの辞令を読み上げたレイズは、手紙を両手で握りつぶすと右手を胸の前にやり、貴族式の最敬礼をしてみせた。


「以後、よろしく!」

 

 炎の狼を象徴とするルークの血は衰えることなく、ギラギラと力強い夕空色の凛とした瞳していた。


「ん。リズも挨拶をしないといけない」


 みんなが何を言い出すのだろうかと思っていると、リズがぽつぽつと話し始めた。


「リズは、家の仕事が嫌いなのでやめた。でも、リズのしたことは消えない。だから、償っていく」


 ぼんやりとした話し方をするリズは、自分より背の低いシャオロンの前に立つと、彼を見下ろしながら変わらずの無表情で言う。


「シャオロン、仕事とはいえ殺そうとしてごめんなさい。本音を言うと、実力差がありすぎて手が出せなかった。あと、エダの花の時はありがとう」


「え、い、いま言うノ……?」


「ん。レイに、勝てない戦いはするなって言われていたから。どうしようか考えていた」


 無表情で淡々と言いたいコトを一気に言うリズは、空気が読めない。読もうとも思っていない。

 タイミングも、何もない唐突な話に若干引いていたシャオロンだが、気を取り直し年長者らしく穏やかに微笑み返す。

 

「う、うん。僕は命が狙われるのはもう慣れてるし、イイよ。でもキミ自身の気持ちは、もう忘れちゃダメだヨ」


 年下の子に接するように優しいシャオロンは、そう言ってリズの頭を撫でてあげたのだった。


 

「さぁ! という事は、これから一緒に仕事が出来るんだな? 嬉しいんだぞ!」

 

 ジークは、そんな彼らを歓迎するように手を合わせ、全身で喜びを表現する。

 飛び跳ねた勢いあまって、足を捻ってしまいゾンビのように「ア……アァ……ッ」と呻きながら悶絶することになるが……。

 

 この一人コントのような展開には、誰もつっこんでくれなかったという……。


 ――――――


 その日の夜、ジーク達が暮らすボロい宿舎では歓迎会が開かれていた。

 

 ジゼルが綺麗に掃除してくれていたはずの室内は、すでにハツの持ち帰った薬草臭が充満しており、さらにジークが集めて来た本が積み重ねられていて足の踏み場がない。

 それらを強引に部屋の隅に寄せるところから始めていた。


 宿舎の裏では亜人の彼らとウシが仲良く一緒に寝ている。


 長く人に飼われていた彼らは、今さら自由に放しても生きてはいけない事がわかっているので、このまま一緒に暮らす。


 シャオロンが見よう見まねで作った料理がテーブルに並び、さりげなく呪いの薬草スープも鎮座している。

 

 仕事はこなせど、給料は低いのでごちそうは作れないが、野菜がたっぷり入ったクリームスープに焼きたての大きなパン、ハツが集めて来た茶葉を煮出した紅茶、デザートは果物と、意外にもしっかりしたメニューが輝く。


 乾杯をして食事を始めたところで、ジークが話を振る。


「ああ。そういえば、どうしてリズは初めて会った時にレイズの名前を名乗っていたんだい?」

「ブフォッ!」


 思わぬところへの直球な質問に、レイズは飲んでいた紅茶を噴き出してしまった。

 汚いな、と睨んだジークは、布巾を彼に渡しながら続ける。


「君は、自分の評価の為にリズといたんじゃないんだろう? 変じゃないかい?」


「ほーん、確かに、オメェらは俺様が知ってるお貴族サマとは違うさなぁ」


 確かに、とハツは果物の木の実を皮ごと頬張る。


「リズは、わからないけど、レイがそうしろってずっと言ってた。レイの言う事をきいてた」


 もくもくとパンを食べていたリズは、口いっぱいに頬張っていたものを飲み込むとそう答えた。


 目線は野菜がいっぱい入ったスープにいっているので、次はあれを食べるつもりなのだろう。

 

 こぼれた紅茶を拭いているレイズの前に、切ったパンを乗せた籠が置かれる。


「そんなノ、ちょっと考えたらわかルことだネ!」と、シャオロンが、さらりと話を進めていく。

 

「レイズの名前を使っテ仕事をしていれば、万が一失敗しても報復されるのはレイズだカラ。きっと、わざと冷たくした理由も情を持たせない為とかだったりするんじゃないノ? よくあるコトだヨ」

 

 からかうように目を細め、ニヨリと笑うシャオロンは、空になったリズの皿にパンを乗せてあげた。

 

「な……! うるせぇ、何か悪いのかよ!」


 本当にその通りで、図星を突かれたレイズは恥ずかしさで顔を真っ赤にして怒っている。

 感情まかせに、飲みかけのカップをソーサーに叩きつけた。


「別に? いい兄さんだネ!」


 嫌味を言うでもなく、シャオロンは笑う。


「おお! そんな考え方もあるんだな、すごいぞ!」


 そんな会話を聞いて素直に驚いていたジークは、片割れを守り切ったレイズが、なんだかちょっとだけ羨ましく見えた。


「君は、リズが大好きなんだな!」


 そう言うと、てっきり怒鳴られると思っていたジークだが、レイズの反応は意外なものだった。


「当たり前だ。コイツは、薬を初めて飲んだ日から精神が止まっている。そのうち追い付くだろうが、まだガキなんだよ」


 レイズは、紅茶に大量の砂糖を入れるリズに優しい眼差しを向けて言う。


「リズは、世界中の美味しいを知りたい。美味しいは、幸せなんだって本で読んだから」


 もはや砂糖の味しかしない液体を口に運ぶリズは、呪いの薬草スープを美味しいと嘘を言ったり、人に合わせることをやめて自分自身で感覚を知ろうとしている。

 


「だからって、味音痴すぎさ……」


 ハツは、砂糖茶を満足そうに飲んでいる姿に顔を引きつらせている。


「それが君の夢なんだな! 亜人差別がなくなれば、きっともっと美味しいが知れるぞ!」

 

 ジークは、自分らしく生きようとする姿に胸が暖かくなって頷いた。


「ま、そういうことだ。くれぐれも、変な気を起こすなよ。あと、俺らは便宜上、双子って事になってるから頼むわ」


 レイズは、お決まりの眼鏡の端を触ると、ついでだから、と続ける。


「まぁ任せろよ。魔法はほとんど使えねぇが、首から上には自信があるのさ!」


 そう言って、彼は誇らしげに笑う。


「リズは水と氷の魔法を使う。癒しの魔力もあるから、怪我をしたら助ける」


 砂糖茶を味わいながら、リズも得意げな無表情を向ける。


「スゴいヨネ! 助かルヨー!」


 喜ぶシャオロンとは反対に、貴族を嫌うハツは「くだらんさ」と鼻で笑った。

 

「レイズ坊ちゃんはともかく。魔法なんて、結局はお貴族サマの権力を見せるだけのもんさな」


「リズは、お前を助けない」

 

「は! なんなんさ、コイツは!」


 即答するリズは、ハツに見せつけるようにデザートナイフをリンゴに突き刺す。


「だーっ! やめるんだぞ!」


 再び喧嘩の火種が生まれてしまい、ジークは慌てて止めに入る。


「人間っておもしろ!」

「ぶははっ! やれ、リズ!」


 シャオロンはニマニマしており、レイズは腹を抱えて笑う。

 どうにも、ハツとリズの相性は悪いようだ。

 ため息をついたジークは、思い出したように席を立つ。


「そういえば、レイズとリズには紹介してなかったな!」

 

 壁に立てかけていた相棒の大鎌を手に取る。鋭い刃で手を切らないよう、革製のカバーを付けているのだ。


「剣から鎌に変わっちゃったけど、俺の相棒のフィアだ! 良い匂いで優しくて、何度も助けてくれた最高の女の子なんだぞ!」


 優しく柄を撫でながら、ジークは満面の笑みを浮かべてフィアを紹介した。


 その瞬間、和やかだった食卓に吹雪が吹いた……。


「は、武器に好きな女の名をつける奴はいるが……ヤツは正気か?」


 思いもよらないことに、半笑いになってしまったレイズに残りの三人は頷き返す。

 

「正気ダヨ。なんなら、見えない女の子を紹介されたネ」

「イマジナリー彼女さ。優しくしてやろうさな」

「よろしく、フィア。リズです」


 

 ジークは、知らないうちに『見えないガールフレンドに惚れている男』に加えて、『武器そのものを女と認識している思い込みの激しい男』の称号を手に入れてしまったのだった。

 

 そんなこんなで盛り上がった楽しい宴は翌朝まで続き、仕事に支障をきたすこととなるが、これはまた別のお話で。


 雨が上がり、大地に新しい命が芽吹くように。

 今、五人になったAHOU隊の新しい物語は、まだまだ続くのだった。


 『ELYSION』第二章 fin.

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