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ELYSION  作者: 秋風スノン
第2章 フェアリーテイルの雫
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第25話『ともだち』

ベレット村のAHOU隊の宿舎に到着する頃には、陽はすっかり高くなっていた。


 亜人荷馬車に驚いた村の人が集まってきたが、ジークは演習の帰りだから、と適当に誤魔化し、ピートと協力して怪我人を寝室へ運んだ。

 もともとそんなに広くはないボロ家だが、寝室のベッドを全て横に並べて繋げると、それなりの大きさにはなった。


 そこに、ジゼルさんやオルムさん、子供達を慎重にゆっくり寝かせる。

 どういう奇跡なのかはわからないが、一度は亡くしたと絶望した家族の、規則正しく動く胸の動きにピートはまた泣き出してしまう。


 戻る途中で意識を取り戻したハツは、部屋の隅に雑に積み重ねられた干し草の上に深く腰掛け、自分で調合した痛み止めの水薬を一気飲みした。

大きなげっぷをしていたので大丈夫だろう。

 シャオロンもドナの森に張られていた魔法の結界を抜けた事で意識が戻り、同じく干し草の上に転がっている。


 ひとまず、仲間の二人も命の危機は脱したというところだ。

 

 そのまま家族のそばに居たいと言い出したピートを寝室に置いて、ジークはダイニングテーブルに着く、赤髪の少年の正面に座った。

 まずは、助けてもらったお礼を言おうとした所で少年は足を組みなおし、先に口を開いた。

 

「俺の名は、レイズウェル・ルーク。単刀直入に言う、俺の片割れを探す協力をしろ」


 あまりにも人を使う事に慣れたような不遜な態度。ジークは思わず椅子から転げ落ちそうになってしまうが、今はボケている場合じゃない。



「ちょっと待ってくれよ! いきなり協力って、しかもその名前……」

「四大貴族のひとつ、東のルークだが?」


 だから何だ?と、レイズウェルは胸の前で両腕を組む。

 堂々とした振る舞いや所作のひとつとってもそうだが、意志の強そうな整った顔立ちも相まって、一般民のジークとは育ちの違いを感じてしまう。

 

 無意識なのかわざとなのか……他人を見下すような態度も、世界をまとめる四大貴族の一つだから、と言われたら危うく納得してしまいそうになる。


「俺は、エリュシオン傭兵団のミラナ領、AHOU隊のジーク。助けてもらっておいてなんだけど、まずは君は何でドナの森へ来たんだい? 偶然にしてはタイミングが不自然なんだぞ!」

 

 ジークは動揺を抑え、椅子に座りなおすと話を続ける。

 四大貴族、それも悪名高い東のルークとこんな所で会うとは思わなかった……。

 

 最初に船で会った時に逆らってしまった事を思い出す。

 だから、ルークに命を狙われているとしても、思い当たる事がありすぎて気が気じゃないが、ジークは怯まなかった。


「君の片割れ? が誰なのかも含め、事情を説明してもらえないと協力は出来ない」


 はっきりとそう告げた。レイズウェルは、自分の素性を知っても怯えず言い返してくるジークを品定めするように見ると、不敵に笑い返した。


「俺は、ドナの森には仕事で立ち寄っただけだ。そこにいる、ロディオールの死体を回収する為のな」

「ロディオール? そんな名前の人はいないぞ」


 訝し気に眉を顰めるジークに、レイズウェルは目を剥き、信じられないというような顔をした。


「なんか、誰かそんな名前だったような気がするけど、わざわざ亜人の王の名前なんか使わないと思うんだぞ。でも聞いたことあるし、誰だったか……」


 のんびりとした口調でぶつぶつと呟くジーク。

 

「お前、マジで言ってんのかよ……」

「本気も本気だぞ。もうちょっとで思い出せそうな気がする……ハゲはハツだったか?」

 

 そう言ったジークは大まじめに頷く。思い出せそうで、思い出せない。

 ついでに、ハツはハゲではなく『ハーヴェン』だ。

 

 何か言いたげなレイズウェルは、ジークと干し草の上で寝ている残り二人のAHOU隊を交互に見ていたが、流れをぶった切るようにシャオロンが話に割り込んできた。


「そうそう! それはイイとして! 僕も、キミたちルークのヒトに聞きたいコトがあったんだヨネー。あ、お茶出してなかったネ! オカマイもなく、スミマセン‼」


 くつろぎモードから一変、干し草を蹴って飛び出してきたシャオロンは、流れるような速さでキッチンに置いてあるポットの中身をカップに注ぐ。

 隣のおばさん特製どろっどろの薬草スープを、ダァン!と木製のカップが割れんばかりの勢いでレイズウェルの前に置いた。


「鼻がもげる!」

 

 飛び散った呪いの液体が顔にかかってしまい、あまりの刺激臭に悶絶するジーク。

 

「どうも、僕のコトは、シャオロンって呼んでネ!」

 

 シャオロンは周りの被害など微塵も気にすることなく、愛嬌たっぷりの黒い笑顔で、レイズウェルの前へと呪いのスープカップをスライドさせた。


 強烈な臭いを放つ薬草スープ。


「くっせぇ! このクソ亜人、俺に毒を盛ろうとしやがったな! お前が飲んで今死ね‼」

「キミの片割れの子は、オイシイって言ってたヨ? 名前の事はもうイイかラ、話を進めてヨ!」


 お互い初対面のはずなのにこの仲の悪さ……もとい、普段は温厚なのに突然喧嘩を売るシャオロンには困ったものだ……ジークは布で顔を拭いながら内心溜息をついた。

 

 といっても、レイズウェルの態度もどうかと思うが。

 

「やめるんだぞ、俺は何も知らないんだ。順番に話をしてくれよ」


 ジークが脱線してしまった話を戻そうとすると、シャオロンもそれ以上は噛みつかず、大人しくテーブルに着いた。何だったというのか。


 苛立ちを抑えるように息を吐き出したレイズウェルは、ゆっくりと内容を選ぶように話す。


「……まずひとつ。お前らがレイズウェル・ネクラーノンだと思っていたアイツは、ある仕事の為に名前と身分を偽って試験に潜入していた東のルークの一員だ」

 

 木製のカップをテーブルの端に寄せたレイズウェルは、自身の髪を縛っていたリボンを解き、ジーク達に見えるように差し出す。

 

「俺達は、お互いの魔力を感じられるようにこれを持っている。ドナの森に行ったのも、アイツの魔力が強く反応したので、仕事を終わらせたのだと思ったからだ」

「これって……あの子と同じものかい?」


 思わず声に出てしまったジーク。朝は余裕がなくてよく見ていなかったが、大貴族の彼が使うには皺が寄り、くたびれて薄汚れた青いリボンは、ネクラーノンだったあの子が持っていたものと同じモノに見えた。レイズウェルは頷く。

 

「アイツの名は、リズウェル・ルーク。俺の片割れだ」


 そう話すレイズウェルは、静かに話を聞いているジーク達の反応を伺うように間を置いた。

 ジークは黙りこくって考えていた。

 

 昨日の夜の別れ際、あの子に誰なんだと訊ねても返事が戻ってくることはなかった。それを、こうして他人の口から真実を聞かされるのはつらいというものだ。

 友達だ、仲間だとこちらが思っていても、一方通行の友情だったということか。


「……やっぱり、ネクラーノンなんて最初からいなかったんだな」


 寂しさと諦め、落胆が混じったように、曖昧に笑うジーク。

 レイズウェルは、壁に掛けてある壊れかけの時計に視線をやると、話を進めていく。


「二つ目。俺達ルークは本来、そこにいる亜人を殺す依頼を受けていたが、見ての通り生きている。つまり仕事に失敗した、もしくは()()()()()()があって殺せなかった後に逃亡したという事だ」


「あの子はシャオロンを狙ってたのかい⁉ 誰に……どうして!」


 反射的に立ち上がり、レイズウェルを問い詰めるジークのマフラーの先を、薄い肌色の手が掴んだ。


「ぐぇっ……」


「特に珍しくもない亜人狩りダヨ。街の中を一人でいる亜人はほとんどいないカラ、人間と似た姿をしていても、逃亡奴隷と勘違いされテ通報されたのかもネ」


 『大したことじゃないヨ』と、シャオロンは首が締まる勢いでジークのマフラーを引き、強引に椅子に座らせた。


「でも、そんな様子は何もなかったじゃないか。話してくれてもよかったんだぞ!」

「野良の亜人は珍しいからネ。僕もこうしテ生きてるから、追及するとキリがないヨ。それより、リズウェルは家に帰ったんじゃないノ?」


 まだ続けようとするジークを遮ったシャオロンは、のらりくらりと自分の話を切り上げたがっているようだ。

 ジークは彼が何かを隠しているような気がしているが、今はレイズウェルの話が先なのもわかっているので口を閉じた。


「アイツは、お前らを仕留め損ねた昨日の夜から行方不明になっている。魔力も感じない」


 レイズウェルは、また時計の針を気にし、少し早口になりながら話す。


「仕事を投げ出して逃げた事が父や兄に知られたら、相方の俺も無事じゃすまない。だから、助けてやった代わりにリズを連れ戻す手伝いを頼んでいる」


「ぬぅ……全然、人にものを頼む態度じゃないんだぞ……」

「バチクソに、これぞ貴族って感じダネ……」


 どこまで偉そうなんだ……とジークとシャオロンは彼をジト目で見る。

 あくまでレイズウェル自身は下手したてに出ているつもりのようだが、育ちの違いか、どう見ても上から目線の物言いなのだ。


「だいたい、家族を探すのなら、まずは自分の家で協力した方が早く見つかると思うんだぞ」

「それは無理だ。俺の管理が悪くて逃がした以上、俺も無事ではすまない」


 ジークの提案に即答したレイズウェルは、これ以上は聞かないで欲しいというように軽く唇を噛んだ。

 

「……なんか、家族じゃなくて、物を扱うみたいな言い方だネ」


 皮肉を混ぜてそう言ったシャオロンを、レイズウェルは鋭く睨み返す。

 

「所有者は俺だ。モノを物扱いして何が悪い?」

「……別に」

「また! やめろよ」


 互いに威圧する二人の間に割り込んだジークは、溜息をつくと頭を抱えた。

 こんな時に限って、貴族嫌いなハツが助けてくれる訳もなく。

 黙々と自分の傷口を医療用の針と糸で縫い合わせている。


「リズウェルは、ジゼルさんやオルムさんと子供達を刺して喜んでいたようなヤツだったんだ。俺の話も聞いていないみたいだったし……裏切ってからどこに行ったかなんて……」


 そこまで言った所で、ジークは思いついたというように椅子を蹴った。

 静かに寝室のドアを開けると、部屋の隅に寄せ集められたAHOU隊の私物を漁り、服や本の中から一冊のノートを取り出した。


 四隅はボロボロになり、何度も読み返したように曲がったページには、色紙の付箋が挟まれている。


 ジークは、リズウェルがネクラーノンと名乗っていた時にこのノートをよく持ち歩いていたのを覚えていた。

 いつも、日常のちょっとしたことを書いては、満足そうにしていたのが印象的だった。

 

 ここで中身を見ようと思ったが、さすがにやめておく。足音を立てずに寝室を後にし、ダイニングテーブルのあるリビングまで戻る。


「このノートはよく持っていたものだから、何か手がかりがあるかもしれないぞ」

 

 バサリ、と放るようにテーブルの上に置くと、レイズウェルは手を伸ばしページを開いた。

 持ち主により何度も開かれたノートは、所々が痛み変色して破れている。

 

 最初こそ、他愛のない事が書いてある事務的な日記だったが、ページをめくるうちにジークはある事に気付く。


「……なんで、毎回俺達の名前が書いてあるんだい?」


 きれいに均整がとれた文字で綴られていたのは、ジーク、シャオロン、ハツの名前と呼び方。

 内容とはまた別に、単語としてメモされている。

 

 おおよそ、日記には似つかわしくない三行の文字が、毎日のように書かれていた。

 

 似顔絵のつもりなのか、名前の横にはそれぞれの顔の絵が描いてあった。こちらはお世辞にもうまいとは言えなかったが、ハツの飛び出た髪束やジークの前髪など特徴を捉えていて笑ってしまう。


 気付けば、ジークは夢中でノートをめくっていた。


 初めて出会った入団試験で、夜中に女神像を磨いていた事も書いてある。あの時は本当にみんな会ったばかりでギスギスしていて、ほんの少し前の事なのに懐かしかった。

 

 ネクラーノンは、どこからどう見ても不審者でしかなかったのに、連れて行ってくれと付いてきたのも面白かった。初めは同情だったけれど、いつしかあの明るさに助けられていたからだ。

 

 ふと、脳裏に昨日の光景が鮮明に浮かぶ。

 ジークは、ネクラーノンが嘘で作られていたものだとしても、本当に仲間だと思っていたのだ。

 だからこそ、あんなにも容易く裏切り、躊躇いもなく刃を向けられた事が悲しくて、悔しかった。

 信頼していた仲間が、理由もなく人を殺める姿を見たくなかったのだ。


 他にもノートに書かれているのは、隣のおばさんのスープの味がしない事や、仕事中に見つけた虫や花の絵。

 ウシの絵と一緒にジークの話も書かれている。あの時、このウシをいつ食べるのかと聞いてきたことが、今は遠い昔のように感じる。


 だが、ある日付から筆跡が乱れ、書いてある内容もうまく読めなくなっていた。

 ちょうどこの日は、ゲルダさんの護衛任務を終えた時だ。子供が覚えたての字で書くように線と線を繋いだだけのような文字で、一言。


 かあさまにあいたい。


 それだけが書かれていた。同時に、毎日書いてあった三行の名前の横には、このページだけおぼつかない文字で、『ずっと ともだち わすれたくない』と。


 ただ一文、そう書かれていた。


 それ以降は、ノートはまっさらの状態で放置されている。ジークは、最後のページの文字を指でなぞると、拳を握った。

 


「なんだよ、これ……どうして星送りの前日からおかしくなってるんだ? 明らかに普通じゃないんだぞ」


 悲しみと困惑の感情が混ざり、言葉が考え付かない。けれど、このノートに込められた想いは痛いほどに感じられる。

 もう一度、最初から読み直そうとした所でノートは閉じられてしまった。

 

 日記とも、あの子の心の声とも呼べる文章が書かれたノートを手に取ったレイズウェルは、何かを考えるように眉を寄せる。

 そして、もう一度時計を見ると、今度はまっすぐにジーク達を見た。

 

「時間がない。兄や姉がアイツを見つける前に……協力してくれ」

「時間って、結局ほとんど説明してくれてないじゃないか……」


 瞳の底で懇願するようなレイズウェルに、ジークは言葉を濁す。

 胸の中で色んな感情が混ざり合い、うまく整理がつかない。けれどただひとつ、気になる事があった。

 

 その答えさえわかれば、踏み出せる。

 自分の気持ちは、きっと最初から決まっていたのだ。

 目を逸らすことなく、レイズウェルを見つめ返したジークは口を開く。


「お願いだ。嘘偽りなく教えてくれ……」


 静かにそう言ったジークは、今度は勢いよくテーブルを叩いた。


「なぜ、毎日ノートに俺達の名前を書く必要があったのか、何故! あの夜に仕事を邪魔した俺達を殺さずに逃げたのか……!!」

 

 頭の中で疑問に思えば思うほど、最後の日記に書かれていたあの文字が胸を締め付ける。

 

 全ての疑問が繋がっていく。本当は答えはわかっている。

 それでもジークは、はっきりと知りたかった。


 そうだとしたら、そうでなければ、全部が嘘だと思いたくない自分が声を上げられないのだ。


「……やっぱり、お前が原因なんだな」


 近付いたら聞こえるかどうかの声でそう呟いたレイズウェルは、椅子から立ち上がる。

 詰め寄るジークを邪魔だと言うように手で払う。


「アイツは、ワケあって直近の記憶が二日しかもたない。今日の夜になれば、お前らのことも俺の事も忘れる」

「……!」

「それに、アイツがお前らを友達だと思ってるなんざ、本気で信じてんのか?」

 

 憎しみを込めて、答えを吐き出したレイズウェル。

 ジークは、信じられないというように目を見開く。それでも歯を食いしばり、喉の奥から言葉を引きずり上げる。

 

「ともだちだって……思ってくれてたんだ……! 忘れたくないって、思ってくれていたんだ!」

 

 ノートに、悲しいほど掠れた文字で書かれていたのだ。

 震える喉が、体が、全身が熱くなる。

 あの子は、毎日薄れていく記憶を頼りに何を思っていたのだろう。

 どれほど、大切な記憶を失くして生きてきたのだろう。


 どれほど、孤独だったのだろうか。


「例え、リズウェルのした行いが許されない事だとしても、その存在が嘘だったとしても……俺達を忘れてしまうのだとしても!」

 

 目頭が熱くなってしまう。滲む視界の先を見据え、ジークは言葉を絞り出した。


「一緒にいたことは、嘘じゃない……!」

 

 ジーク・リトルヴィレッジは、信じることを諦めない。

 信じる限り、心は折れない。


「物じゃない。友達を……仲間を、迎えに行くんだ。だから……!」


 ジークは、レイズウェルの手元からノートを奪い取ると、大切にそっとテーブルの上に置いた。

 さっきまで淀んでいた心は、青空のように晴れている。

 だから、迷わない。

 

「俺は、君に協力する! 会って、今度こそ話をするんだ!」

「俺様も連れてけ!」

 

 そう言って力強く笑うジークに続き、自分の治療を終えて予備のトリートの制服を着たハツが声を上げた。


「話は聞いたさ。貴族は嫌いさが、俺様もあの瓶底メガネにやられたままじゃ気がすまんさ。俺様の方が強いって事を証明するさ!」


 仏頂面でそう言ったハツは、気が済んだというように宿舎奥の薬草庫に頭を突っ込み、出発の準備を始める。この様子だと、傷の具合はいいのだろう。


「決まりだな! さっそく準備するんだぞ。ジゼルさんやピートは今のところ落ち着いているから、隣のおばさんに看病をお願いするとして……」


 早速、出発の準備を始めるジークは、いそいそと隣のおばさんに事情を説明しに出て行った。

 なんだかんだ言って、おばさんには助けられているのだ。


「みんな張り切ってるネェ」

「ロディオール」


 ダイニングテーブルに残ったレイズウェルは、のんびりと片づけをするシャオロンに問いかけた。


「お前は、人間に紛れて何をするつもりだ?」

「……その時が来たら、ちゃんと伝えるヨ。それまでは役割を果たしてもらうだけダネ」

 

 シャオロンは、おばさん特製のスープを一杯分、小さなポットに入れ蓋を閉めると、意味深な笑みを浮かべていた。

 そうして、改めて椅子に腰かけると、疑念を抱くレイズウェルへ人懐っこい笑みを向ける。

 

「キミの、()()()()()()()を助ける手伝いをしてあげるカラ、先に僕の質問に答えて欲しいナ」

「わざわざ亜人の王が、人間に取引を持ち掛ける気か?」

「小さな情報でも集めるのは基本デショ? 僕の暗殺をキミ達に依頼したフェイロンの情報、持ってるだけでいいから話してヨ」


 はい、と右手を差し出すシャオロンは、笑っているはずなのに目元だけは感情がない作り物のようで、何かが腹の底で蠢いているようだった。


 


 その頃、隣のおばさんの家に向かったジークはというと……。


「……何でだい⁉」


 薬草スープが入った木製の水筒を渡されていた。ついでに、刺激臭たっぷりの呪いのお弁当も。

 事情を説明して、快く引き受けてもらったはいいのだが、餞別にともらったのだ。

 

 もっとも、東のルークが関わっている事や、ジゼルさんの件など本当のことは言えないので、演習という事にしてある程度は伏せているのだが。

 親切なおばさんは、愛嬌たっぷりにこれらの危険物を寄越してきた。


「アァッス……これはきついんだぞ……!」


 薬草の独特のえぐい臭いが鼻の粘膜を刺し、永続的な状態異常攻撃を受けているかのよう。

 

 やっとの思いで宿舎に帰ってきたジークは、準備を済ませて待っていたハツとシャオロンに、流れるような速さで蹴られ、追い出されるように出発したのだった。


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