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いいかげんな方法

作者: 椎名正

 すまない。

 本当に申し訳ない。



 「刑事さん。すみません。本当にすみません」

 警察署の取調室。一人の青年が取り調べを受けている。

 「謝罪するってことは、警察にイタズラ電話をかけたことを認めるんだな」

 「確かに、警察に通報したのは僕です。でも、イタズラじゃない。嘘通報じゃないんだ」

 「あのな。アパート全体の住人が全員殺されたって、誰が信じるんだよ。三十二世帯もあるんだぞ」

 「二十八世帯」

 「ん?」

 「二十八世帯です。一階の住人だけは無事なので、殺されたのは二十八世帯です」

 「通報を受けたら、あきらかにイタズラでも警察は調べる規則だ。死体なんかどこにもなかったぞ」

 「二階から上の住民は、誰もいなかったでしょう」

 「出かけているんだろう」

 「全員がですか?百人以上はいますよ」

 「そんなこともあるだろ」

 「ありえません」

 「じゃあ、あれか?怪奇現象とやらで、住人全員が神隠しにあったとでも言いたいのか?」

 「違う。これは人間の仕業だ。人間の手で隠蔽工作がおこなわれたんだ」

 「それこそ、ありえないだろうが。そんなこと人間がするには、最低二十人は必要だ。二十人以上の殺人犯が、何の目的で?」

 「アパートのエレベーター内に、ある政治家の不正を告発する紙が張られていた。それを読んだ可能性がある住民が口封じされた。だから、エレベーターを使用しない一階の住民は無事だった」

 「あのな。政治家が殺し屋を使うなんてテレビドラマの中だけだ。そんなことしなくても、権力でマスコミを黙らせることができる」

 「不正隠蔽が目的じゃないんだ。これは僕への罰なんだ。不正を告発しようとした僕へのおしおきなんだ」

 「おまえが不正を告発しようとしたと言いたいのか?だったら、その悪徳政治家はお前を消すだけでいいはずだろう」

 「僕は消されない。なぜなら、僕はその悪徳政治家の息子だからだ。これは、息子へのおしおきなんだ。父の不正の証拠を新聞社に持ち込んだ。対応してくれた記者さんは一家心中をした。週刊誌の記者は強盗に殺された。友人に相談したら、その友人は三日後に犬に噛み殺された。不正を隠蔽するだけなら、もっと確実で効率のいい方法がいくらでもある。でも、父は雑な方法で僕の告発を潰していく。父は僕に宣言をしているんだ。殺人のようなふざけた手段でも、僕は父にかなわず、誰にも情報を伝えられないと。僕は告発方法を変えることにした。大勢に伝えるのではなく、父に知られないようにこっそりと。僕はアパートのエレベーターの中に張り紙をした」

 「ちょっと待て!仮に、いいか、仮にだ、お前の言っていることが本当だとして、お前は何が起こるか予想できていたはずだ」

 「そうです。僕は張り紙を見たアパートの住人が、どうなるかわかっていたのに、張り紙をするのを止められなかった。父に負けたくないのか、人間はしゃべらずにはいられないのか、僕にはわからない。理由はどうあれ、僕はもう止まれない。だから、刑事さん。すみません。本当にすみません」



 結論から言うと、刑事さんは翌日の警察内での火事に巻き込まれて死んだ。

 僕の方は父を出し抜く方法をようやく見付けた。

 小説家になろうと言うサイトがある。

 そう君がいま読んでいるこのサイトだ。ここに今までの情報を隠そうと思う。

 さすがの父も、この方法は見破れまい。

 だが、もしばれたときは、

 

 すまない。

 本当に申し訳ない。


                          おわり


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