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記述主義者がペンを捨てるまで。  作者: ほんの未来
第7章:記述主義者と努力嫌いのための努力論。
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20 前借り後払い<クレジット>2

 じゃあ、貧困が解決すればいいのか?

 と、思うと案外そうでもない。というか、もっとひどい話をしよう。


 こんな例え話はどうだろう?

 私が汗水垂らして働いて、1000万円貯めたとする。

 君も汗水垂らして働いて、1000万円貯めたとする。

 『余裕(スラック)』がある。結構ある。

 よし、人に雇われるのはやめて、自分で商売をしよう! と考えたとしよう。

 で、私は1000万で店を作り、君も1000万で店を作る。

 お隣同士のライバル店になってしまったとしよう。

 少しでも宣伝がしたい。設備投資がしたい。隣の店に負けたくない。

 そこに、最悪の魔王がやってくる。

 このお店を担保にすれば、1000万円貸してあげるぞ? どうかな? なあんて。

 それを、私と君、両方に言う。

 そうなれば、私も君も負けたくないから、借りざるを得ない。

 いつの間にか、負けたら全てを失う金融デスゲームに巻き込まれる。

 あんなにお金があったのに、何故か『余裕(スラック)』が見当たらない。

 ハイリスクで無謀な一発逆転の手段に目が眩む。『余裕(スラック)』がないから。

 結果、片方は潰れる。もう片方も死に体の店が残る。設備は立派だが借金が多く、いつ潰れてもおかしくない経営状態だ。

 どうしてこうなった?

 まず、お互い金を借りなければ『余裕(スラック)』のある適度な経営ができたはずだ。

 そもそも、店の規模が必要だったなら、私と君が手を組んで共同経営者になっても良かったはずだ。

 あるいは、経営が上手くいかなくなった辺りで店を売り払い、500万ぐらい手元に残すのも悪くない選択肢だ。目減りはしたが、出直すことができる。

余裕(スラック)』があれば簡単に思いつけるはずの選択肢が、何故か思いつかないんだ。

 金融の発達した社会では、こんな金融デスゲームがそこら中で開催されている。

 金を融通しあうシステムが、いつの間にか金を融かすシステムに変わってるんだ。不思議だよな。

 君や、君の身内、友人知人はどうだろう? 働いている会社は、無借金で経営できているだろうか? そうでなくても、『余裕(スラック)』のある正常な判断を欠いていないだろうか?


 さらに付け加えるなら、FX、外国為替証拠金取引。信用取引の一種だね。ドルやユーロなどを自国通貨(日本円)で売ったり買ったり、交換しまくって増やそうぜ、という博打(バクチ)だ。

 100万円を証拠金として、たとえば3倍、300万の売買取引を行う。100万円以上損するなんて滅多にないだろう? てこの原理、レバレッジという手法だ。

 全員がやる。売買が3倍に増える。3倍の勢いで通貨の値段が乱高下する。どんどん破滅する人間も増えるだろう。

 なお、FXの損失は自己破産でも帳消しにできないことは、よく知っておいた方がいい。

 ドル払いで買いたいものがあるからドルを手に入れる。あるいは資産の保存のために外国に預金する。これは問題ない。レバレッジをかけていないからだ。

 レバレッジは要するに、借りた金で博打をする行為だ。他人の名誉や努力を好き勝手に賭けて、負けてバレたら大騒ぎになるのは当然だ。

 勝てばいい? これはトーナメント方式の金融デスゲームだ。勝てば勝つほど、手元のお金が増えれば増えるほど、手強い相手(ダレカ)と戦う羽目になる。それでも勝ち続けて世界一になるだろ? すると、今度はラスボスが出てくる。世界が敵に回る。手加減してくれない相手だ。世界一になった程度では、世界の半分を手に入れたとは言えないだろう? やっぱり最後は負けちゃうんだよ。

 基本的な攻略法は、参加者同士で団結してグループを作り、世界の半分をまず押さえてしまうこと。そこに目が行かなくなった時点で、必敗の博打になっている。


 もうちょっと怖い話。日本の国債発行総額は1000兆円を超えている。

 これを日本の国民数、約1億2500万人で割ってみる。

 一人当たり、約800万円だ。

 国債は日本の借金ではある。が、国債を銀行が買う以上、日本人が日本人から金を借りてるってこと。だから、一見問題ないように見える。

 じゃ、考えてみよう。本当に問題はないだろうか?


「世の中その1」

 全員が100万円持っている世の中。


「世の中その2」

 全員が200万円を持っているが、100万円の借金も背負っている世の中。


「世の中その3」

 全員が900万円を持っているが、800万円の借金も背負っている世の中。


「世の中その4」

 全員が1億円を持っているが、9900万円の借金も背負っている世の中。


 さて、どうだろう?

 どの世の中でも、手持ちのお金で借金を返せば、差し引き100万円持っていることになる。だから、どの世の中も同じである。本当にそうなると思う?


 実態は大きく異なるだろう。

 まず、全員が同じだけのお金を持っているので、ひとりひとりの資源配分は同じになる。

「世の中その1」の100万円で買えるものと、「世の中その4」の1億で買えるものは、まったく同じだ。物価が違うというのがまずひとつ。

 物価が違うとなると、「世の中その1」ではありえない常識が、「世の中その4」では普通になっている。それはこんな常識だ。

『金を借りない奴は馬鹿(バカ)だ』

 どう、狂っていると思わないかな?

「世の中その4」では、皆が1億円を持っていることが普通だ。仮に借金を返してしまうと100万円しか手元に残らない。ものすごく貧しいってこと。100万円もあるのに、まともに生活ができなくなっている。たぶん、1~2週間の生活費で消えるんじゃないかな? もし金を返して貧乏になってしまうと、社会的信用の問題で改めて金を借りるのが難しくなる。こんな常識がまかり通っている時に、全員が同時に返済することはありえない。


 実際は全員の資産状況が全く同じであり続けることはないので、すぐに格差が生まれる。

『投資ができない奴は愚図(グズ)だ』

 そんな常識が当たり前になる。

 もちろん、政府も無策で手をこまねいたりしない。弱者救済に必死になる。税金で足りない分は、国債を発行してでも弱い人を助ける。

 結果、「世の中その1」が「世の中その2」になり、「その3」、「その4」、「その5」……とどんどん進んでいく。


 すると、『金を借りない奴は馬鹿だ』『投資ができない奴は愚図だ』という、傲慢(ごうまん)で狂った常識で私たちの頭の中、行動、生活様式、その全てを圧迫していく。

 つまり、『余裕(スラック)』がないということだ。全員が全員を追い詰めあう金融デスゲームだ。


 借金ってホント怖いね、というお話でした。

 このままだと救いがないので、フォローも入れておきます。

 まず、『余裕(スラック)』がないと言っても、あくまで財布に『余裕(スラック)』がないだけです。

 物々交換とか、個々人の助け合いについて、なんら制約になっていません。

 ちゃんと生きていくのはできるってこと。ただ、お金が当てにならないだけで。

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