20 前借り後払い<クレジット>2
じゃあ、貧困が解決すればいいのか?
と、思うと案外そうでもない。というか、もっとひどい話をしよう。
こんな例え話はどうだろう?
私が汗水垂らして働いて、1000万円貯めたとする。
君も汗水垂らして働いて、1000万円貯めたとする。
『余裕』がある。結構ある。
よし、人に雇われるのはやめて、自分で商売をしよう! と考えたとしよう。
で、私は1000万で店を作り、君も1000万で店を作る。
お隣同士のライバル店になってしまったとしよう。
少しでも宣伝がしたい。設備投資がしたい。隣の店に負けたくない。
そこに、最悪の魔王がやってくる。
このお店を担保にすれば、1000万円貸してあげるぞ? どうかな? なあんて。
それを、私と君、両方に言う。
そうなれば、私も君も負けたくないから、借りざるを得ない。
いつの間にか、負けたら全てを失う金融デスゲームに巻き込まれる。
あんなにお金があったのに、何故か『余裕』が見当たらない。
ハイリスクで無謀な一発逆転の手段に目が眩む。『余裕』がないから。
結果、片方は潰れる。もう片方も死に体の店が残る。設備は立派だが借金が多く、いつ潰れてもおかしくない経営状態だ。
どうしてこうなった?
まず、お互い金を借りなければ『余裕』のある適度な経営ができたはずだ。
そもそも、店の規模が必要だったなら、私と君が手を組んで共同経営者になっても良かったはずだ。
あるいは、経営が上手くいかなくなった辺りで店を売り払い、500万ぐらい手元に残すのも悪くない選択肢だ。目減りはしたが、出直すことができる。
『余裕』があれば簡単に思いつけるはずの選択肢が、何故か思いつかないんだ。
金融の発達した社会では、こんな金融デスゲームがそこら中で開催されている。
金を融通しあうシステムが、いつの間にか金を融かすシステムに変わってるんだ。不思議だよな。
君や、君の身内、友人知人はどうだろう? 働いている会社は、無借金で経営できているだろうか? そうでなくても、『余裕』のある正常な判断を欠いていないだろうか?
さらに付け加えるなら、FX、外国為替証拠金取引。信用取引の一種だね。ドルやユーロなどを自国通貨で売ったり買ったり、交換しまくって増やそうぜ、という博打だ。
100万円を証拠金として、たとえば3倍、300万の売買取引を行う。100万円以上損するなんて滅多にないだろう? てこの原理、レバレッジという手法だ。
全員がやる。売買が3倍に増える。3倍の勢いで通貨の値段が乱高下する。どんどん破滅する人間も増えるだろう。
なお、FXの損失は自己破産でも帳消しにできないことは、よく知っておいた方がいい。
ドル払いで買いたいものがあるからドルを手に入れる。あるいは資産の保存のために外国に預金する。これは問題ない。レバレッジをかけていないからだ。
レバレッジは要するに、借りた金で博打をする行為だ。他人の名誉や努力を好き勝手に賭けて、負けてバレたら大騒ぎになるのは当然だ。
勝てばいい? これはトーナメント方式の金融デスゲームだ。勝てば勝つほど、手元のお金が増えれば増えるほど、手強い相手と戦う羽目になる。それでも勝ち続けて世界一になるだろ? すると、今度はラスボスが出てくる。世界が敵に回る。手加減してくれない相手だ。世界一になった程度では、世界の半分を手に入れたとは言えないだろう? やっぱり最後は負けちゃうんだよ。
基本的な攻略法は、参加者同士で団結してグループを作り、世界の半分をまず押さえてしまうこと。そこに目が行かなくなった時点で、必敗の博打になっている。
もうちょっと怖い話。日本の国債発行総額は1000兆円を超えている。
これを日本の国民数、約1億2500万人で割ってみる。
一人当たり、約800万円だ。
国債は日本の借金ではある。が、国債を銀行が買う以上、日本人が日本人から金を借りてるってこと。だから、一見問題ないように見える。
じゃ、考えてみよう。本当に問題はないだろうか?
「世の中その1」
全員が100万円持っている世の中。
「世の中その2」
全員が200万円を持っているが、100万円の借金も背負っている世の中。
「世の中その3」
全員が900万円を持っているが、800万円の借金も背負っている世の中。
「世の中その4」
全員が1億円を持っているが、9900万円の借金も背負っている世の中。
さて、どうだろう?
どの世の中でも、手持ちのお金で借金を返せば、差し引き100万円持っていることになる。だから、どの世の中も同じである。本当にそうなると思う?
実態は大きく異なるだろう。
まず、全員が同じだけのお金を持っているので、ひとりひとりの資源配分は同じになる。
「世の中その1」の100万円で買えるものと、「世の中その4」の1億で買えるものは、まったく同じだ。物価が違うというのがまずひとつ。
物価が違うとなると、「世の中その1」ではありえない常識が、「世の中その4」では普通になっている。それはこんな常識だ。
『金を借りない奴は馬鹿だ』
どう、狂っていると思わないかな?
「世の中その4」では、皆が1億円を持っていることが普通だ。仮に借金を返してしまうと100万円しか手元に残らない。ものすごく貧しいってこと。100万円もあるのに、まともに生活ができなくなっている。たぶん、1~2週間の生活費で消えるんじゃないかな? もし金を返して貧乏になってしまうと、社会的信用の問題で改めて金を借りるのが難しくなる。こんな常識がまかり通っている時に、全員が同時に返済することはありえない。
実際は全員の資産状況が全く同じであり続けることはないので、すぐに格差が生まれる。
『投資ができない奴は愚図だ』
そんな常識が当たり前になる。
もちろん、政府も無策で手をこまねいたりしない。弱者救済に必死になる。税金で足りない分は、国債を発行してでも弱い人を助ける。
結果、「世の中その1」が「世の中その2」になり、「その3」、「その4」、「その5」……とどんどん進んでいく。
すると、『金を借りない奴は馬鹿だ』『投資ができない奴は愚図だ』という、傲慢で狂った常識で私たちの頭の中、行動、生活様式、その全てを圧迫していく。
つまり、『余裕』がないということだ。全員が全員を追い詰めあう金融デスゲームだ。
借金ってホント怖いね、というお話でした。
このままだと救いがないので、フォローも入れておきます。
まず、『余裕』がないと言っても、あくまで財布に『余裕』がないだけです。
物々交換とか、個々人の助け合いについて、なんら制約になっていません。
ちゃんと生きていくのはできるってこと。ただ、お金が当てにならないだけで。