表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記述主義者がペンを捨てるまで。  作者: ほんの未来
第7章:記述主義者と努力嫌いのための努力論。
37/562

16 外的欲求と向き合う~部屋の整理

 さて、続いて部屋の整理について考えてみよう。


 これはもう、筆者(わたし)の専門分野といってもいいね。

 自室の床面積の5割は本の山に占拠されている。積読(つんどく)の平均的標高は腰の高さほど、山頂に至っては横隔膜よりは上といったところだ。(もちろん、本棚は除外して、だ)

 そして、2割が諸事情(本の山)に囲まれた窮屈(きゅうくつ)めの寝床。

 更に1割がタンスや洋服掛けの類。

 もう1割が机と椅子。音楽CDやDVDにBD、他ゲーム類は本を詰め込んだ箱の上や机、棚に鎮座している感じですね。

 こんなところでしょうか。

 え? 残りの1割はどこにいったのかって?

 通路がなかったらその部屋入れないじゃないですか、何言ってるんですか?

 部屋の中に、通路という謎の概念が発生しているなんて、すこしふしぎ(SF)


 何故、本を読むのか? そこに本があるからだ。

 気軽に登山家気分を味わえるぜ! ひゃっほう。

 ……。大変失礼な発言があったことを、登山ガチ勢の皆々様に深くお詫び申し上げます。


 まぁ、片付けられない人間の心理(言い訳)は知り尽くしていると言っても過言ではない。

 それに、実を言うと、最近はほんの少しだけ片付けができている。

 この、ほんの少し、にきちんと注目し、記録に残し、ほんの未来の自分へと託したい。


 だって、考えてみてよ。

 既に片付けができている人、『余裕(スラック)』のある人の意見って本当に参考になると思う?

 それよりも、『余裕(スラック)』がほとんどない人が、どうやって現状を打開するのか?

 どのように『余裕(スラック)』を取り戻し、部屋の整理を実現するのか?

 その戦略の方が興味深く、意義深いものになるだろう。

 それに、部屋の整理が片付けてから、この話を書いてしまうと、この雑然とした部屋を前にした圧倒的絶望感や、無力感、敗北感、屈辱感、悲壮感、憂鬱(ゆううつ)感、挫折(ざせつ)感、諦観、ある種の達観、もうあかん。そんな初心を忘れて、結果的に上手くいっただけのやり方をドヤ顔上から目線で書き連ねただけの駄文になりかねない。

 どうせ駄文であるのなら、せめて圧倒的物量(げんじつ)と向き合う愚者(バカ)を写実に切り取っておくべきだろう。最悪でも指差して嘲笑(わら)えるものにはしてみせよう。

 いつもの悪い冗談、あるいは冗談みたいな現実について、考えていくことにしよう。


 この過剰社会、絶望郷(ディストピア)より(あい)を込めて。

 どうしてこんなことになってしまったのか。

 理由は明らかだ。部屋の整理を明日に回したからである。

 いや、これでは言葉不足だろう。今日やらなかった理由を補足せねばなるまい。


 今日やるより、明日まとめてやった方がお得だから。


 この言い訳が常態化した結果、かく有り様と成り果てた。

 これは、資本主義的な思考だ。

 片付ける時間、『余裕(スラック)』は限られているのだから、選択と集中を徹底し、明日に懸けたわけだ。それが合理的なやり方だと。


 うん、馬鹿(バカ)かな?


 その合理性の追求の結果として、24時間掛けても部屋の整理が終わらない部屋になってしまった。明日やっても終わらないんだ。

 筆者(わたし)も世捨て人というわけではない。

 平日は仕事があり、実務8時間、休憩1時間ほど、往復合計1時間強。体力勝負な部分を踏まえれば睡眠時間もさして削れない。7~8時間は欲しいところだ。ここまでで残り6時間と言ったところか?

 実際は朝1時間、夜5時間ぐらい? 平日にも食品の買い出しはあるし、食事や風呂の時間が挟まることを考えると、1時間の時間的『余裕(スラック)』が2回か3回と言ったところだろう。

 これは実に悩ましい。片付けの下準備、かえって散らかってしまった辺りで1時間が終わるからだ。2~3時間あったとしても似たようなものだろう。片付けの本編まで辿り着くことができない。

 休日はどうか? 確かにチャンスではある。早起きできれば午前と午後で、3~4時間のまとまった時間がそれぞれ用意できる。仕事疲れで午前中が台無しになったとて、午後までぶっ倒れてるということはないだろう。ただ、本の山に囲まれて、正確を期するなら読みたい本の山に囲まれて、3~4時間、本を読まずに片付けだけする自信は正直無い。つか、小説書く時間も普通に欲しい。

 では長期休み、年末年始や、ゴールデンウィーク、お盆休みなどにやればいいじゃないか、何故できない? これも簡単な話だ。仮に休みが1週間、7日あるとしよう。ここで、父母の実家に行ったり、家族をロングドライブ、小旅行に連れて行ったりする。するとどうなるか? 長期休みのど真ん中でその予定が入る。もしも自分1人であったなら、長期休みの初日に予定を入れてぎゅうぎゅうに詰め込むところだ。自分以外が絡むと、『余裕(スラック)』を求める。お出かけ前の準備、終わった後は休息が欲しい、諸々だ。結果、休みのど真ん中に予定が入る。

 7日の休みが、3日の休暇と1日の予定と3日の休暇になる。この繰り返しだ。

 3日の休暇が、1日の休暇と1日の予定と1日の休暇に化ける。

 1日の休暇が、8時間の睡眠と8時間の予定と8時間の休暇に変わる。

 8時間の休暇が、2時間の小休止と3時間の予定と2時間の小休止に成り果てる。

 するとどうしたことか、あれだけあったはずの長期休みが、あっという間に終わっている! なんてこった! 部屋の片付けがしたかったのに!


 うん、阿呆(アホ)かな?


 さて、ここら辺で星空のバイアスに想いを馳せてみよう。

 読書好きにとって、ここはある種の理想郷(ユートピア)だ。

 でも、満天の星空、本々(ほしぼし)に目を奪われて、その背景(やみ)を見落としている。

 認知的背理法(ツンデレごっこ)を試してみようか。


「ほ、本なんて読みたくないんだからねっ」

「いや、読みたくてしょうがないな」


 本を読みたい動機を再確認しただけで終わった。

 リトライ。


「私、本なんて読んでいないんだからっ」

「いや、本をよく読んでいる……うん? 本当にそうか?」

「読む本をどれにしようか悩んでいる時間、私は本を読んでいないぞ?」

「本を読んでいるつもりでも、他の本が気になって集中できていないんじゃないか?」


 良い気付きが得られましたね。

 星空のバイアス。

 悩んでいるとき、悩みの種に意識が向いてしまい、どれだけ悩んでいたか分からない。

 集中できていないとき、集中できないことに意識が向いてしまい、集中できなかった時間がどれぐらいなのか分からない。

 悩んでいる時間や、集中できていない時間は自分では把握しづらい。時間を忘れてしまって、知らず人生終了(タイムアップ)なんて笑えない冗談だ。


「くっ……。わ、私は本を読めていない」

「いや、読めてい……無理だな。もうフォローできない。全く読めていない!」

「これでは一端(いっぱし)の読書家とは言えない。むしろ本好きにも失礼だ。本下手(ほんべた)の横好き程度にしかなれていないってことだ!」


 称号「本下手の横好き」を獲得しました。

 いつもの悪い冗談はさておき。

 まずは心の整理。部屋の整理をするのは誰かのためじゃなく、自分のためです。私が私の目的を果たすために、その下準備として部屋の整理について策を練り、実行する。


 さて。何より時間がありません。小説書いてる時間だけ、部屋の整理が遅れます。既にここまででも過去最長短編を更に4割増しにしたぐらいの文章量です。どうしてこうなった。部屋の整理同様、終わりが見えない。下手すると半分いってないかもしれないなんてどういうことなのホント。

 ※さらにこの後、どうにもならなくなって長編化を果たしました。あしからず。


 まず、業者を呼ぶ類は却下します。

 ここにあるのは、ラノベはもとより、漫画、自己啓発やビジネス書、哲学書、数学書、経済学書、珈琲や紅茶が趣味のひとつなので喫茶店の紹介本なんかも。高校時代の教科書もいくらかは残してあります。時代も様々、岩波文庫も好きなので(レーベル萌えって理解できる?)、古典名著もちらほらと。流行の少年漫画の下に太宰治の人間失格、その下に経済教養本(マルクスの資本論の解説本)、その下にラノベで狼と香辛料シリーズの新刊、ヴィトゲンシュタインの要約書、エトセトラが並びます。いい加減にしろというぐらい節操ないラインナップですね。

 さらっとサイン本や稀覯(きこう)本のたぐいが混じっていたりするので油断ならない。

 逆にないものを挙げるなら、和書と邦訳本ばかりで洋書がないこと(あれば今頃、本の地層で化石になってる)、ジャンルならホラーはかなり少なめですね。怖がりですね。

 雑誌類もあまりない感じです。週刊誌とか物理的に無理、月刊誌でもきつい。

 更に言えば、既読と未読と読みかけが入り交じっている。


 というわけで、どう扱うにせよ順番なり手順なりが大事になってきます。他人の手を借りて粗雑に扱われるわけにいきません。ラノベの類も種類が多いだけに揃えづらく、学術書系は値段が高い。サイン本・稀覯本はもう言わずもがな。


 頭がくらくらしてくるような状態。そりゃあ整理も(はかど)らないな。

 さて、時間が足りない中、どうすればいいか?


 最初に取るべき最善手は、机の上の整理である。

 何故か? 椅子に座る私、これは私のいつもの身の置き場だ。その目の前にあるのが机だからだ。私が部屋で一番見る光景は、机の上、小説を書くパソコンの前だ。

 そこにある物の数を減らす。いらなくなったメモは捨てる。大事なものは軽く分類だけしてどける。大事なものを部屋の外に出さなくて良い。ぱっと目に入らない場所にどかす、それだけだ。

 空間的な『余裕(スラック)』を確保する。『なにもない』を意識する。収集が得意だというのなら、『なにもない』を掻き集める! 背中に目なんて付いていない。だったら、目の前だけを片付ける! 馬鹿にしか見えない(モノ)を眼前に並べる! 大切なのは、『余裕(スラック)』、『余裕(スラック)』、『余裕(スラック)』だ!

 自分の見る光景を、シンプルにする。本々(ほしぼし)に目が(くら)んでどうするんだ!

 私の思考を、心の拠り所を、身の振り方を、この場所に用意する。

 拠点なくして戦略なし。場当たり戦術に頼るな、追い詰められて当然だ! まずは一本杭を打つ。物語の始まり、掴みの一言(ひとこと)。作者がどれだけ悩み苦しもうが、たったひとつの言の葉から全てが始まるんだ! 理由なんてのは後からいくらでも湧いて出てくる、最初っからごちゃごちゃ並べたって仕方ないだろ! だったら、書き出しはこうしてやろう。


余裕(スラック)』だ。私は、私たちは、『余裕(スラック)』を求めている!

 生まれた時からそうだった。親の見栄が、先生の監視が、他人(ひと)の見る目が嫌だった。

 餓鬼(ガキ)なりに背伸びしてみりゃあ、世界はいつも狂っていた。

 化石燃料はいつか尽きるんだって。環境問題はひどくなるばかりなんだって。

 居場所がないんだってさ。

 世界にも、未来にも。

 人類は宇宙に飛び出すなんて格好つけて、その実、逃げ出す算段かい?

 逃げ出す先は妄想ばかりだ。現実からも、自分からも逃げ出してさ。

 明るいニュースなんてどこにもない。

 誰かを責め立てる声が響くばかり、何故こんなにもうるさいの?

 漂白された夜空が堕ちてきて、幾たびも網膜に突き刺さる。

 お願いだよ、あの日見た星空を、あの、憧憬を返してくれ。

 ひとり静かに静寂(しじま)の中で、君を想っていたいだけなのに。

 何もかもが過剰なこの社会で、『余裕(スラック)』だけがどこにも見当たらない。

 ギスギスと生まれる軋轢(あつれき)の音が、また耳障りな怒号を増やしていく。

 鼓膜だってもう疲れちゃってさ、不快も過ぎて不感症。

 君の姿はもう見えないね。

 君の声はもう聞こえないね。

 時の洪水がすべてを(さら)ってしまう前に、できることはあるの?

 じっとしていても救いはなくて、あるのは半身()かるまで動けない愚かさがひとつ。


 いつかの言葉が胸を刺す。

 人生はいつだって、(みち)(なか)ば、(ゆめ)(なか)ば。

 ここから始めちゃっていいのだと。

 中途な現実(チュートリアル)は終わりにして、さぁ本番を始めようか。

 いつもの悪い冗談を『余裕(スラック)』に換えて、ほんの未来を書き(つづ)ろうか。


 心だって、世界だって、整理整頓してみせるよ。

 部屋の整理なんて簡単さ、こんなのはただの拠点作りにすぎないし。

 プロローグ、あるいは掴みの一言ぐらいで悩んでられないから。

 君が主役(ここ)に来ても良いように。

 私が物語(そこ)にいるってケラケラ笑えるように。


 まずは、自分の定位置、目の前だけを片付ける。

 少し『余裕(スラック)』を取り戻したら、周りを切り崩していく。

 片付けている合間にも、モノは増え続けるだろう。

 でも、『余裕(スラック)』も増え続ける。ぶつかって、拮抗させる。

 一押し。少しずつ、白を黒へとひっくり返していく。

 世界は手加減してくれない。

 だから、こちらも手加減なんて要らないね。

 ひとたび押し返したら、反攻作戦の狼煙(のろし)を上げよう。

 なんでもないこと。『余裕(スラック)』をきちんと認識し、増やしていく。

 片付けや整理整頓が習慣化され、居心地のいい拠点ができる。


余裕(スラック)』を応用して、部屋の整理と向きあってみました。

 心の整理が大事だよっていう話ね。部屋が散らかってるってのは比喩(メタファー)なんで誤解なきよう申し上げ……なんか申し訳ありませんでした。か、片付けやってくよ……。


   †

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ