15 内的欲求と向き合う~ダイエット
健康診断受けたら去年より7kg痩せてた! ――その程度の効果ということで。
さて、まずは内的欲求への向き合い方。
その代表例として、ダイエットについて考えてみよう。
まず、巷にあふれかえる食品名ダイエット。
あれを食べれば痩せる、これを食べれば痩せるの類。
申し訳ないけども、これらは全部却下します。
理由は明白で、何かを食べてしまっているから。食べるという行為を意識した時点で、戦略的に負けです。その食品に飽きた途端、リバウンドで元以上に体重が増える公算が高いです。そうなれば、また別の食品名ダイエットに手を出すことになり無限ループ。
栄養バランスを考える上でもある種の縛りプレイになり、一生続けられるようなものでもないでしょう。
ただ、私が考えてみた中でマシなものを挙げるなら、珈琲・紅茶・緑茶ダイエット。
苦味は元々、哺乳類が毒を判別するために発達した機能と言われています。特に植物毒は多様性があり、人間の味覚も哺乳類ではトップクラスに苦味を感じやすいようです。
苦味は食欲を増進しにくい。正確には味覚ではないにせよ、渋味も近い効果は狙えるでしょう。苦味・渋味のある嗜好品、珈琲・紅茶・緑茶の類であればダイエットに役立てられるのでは? という仮説を考えました。
まぁ、珈琲にはチョコレート、紅茶にはスコーン(&クロテッドクリーム)、緑茶にはおはぎとか……合いますよねぇ……ホント、人間って業の深い生き物ですよね……。
まぁ、それを我慢してもカフェイン依存・中毒リスクを抱えて睡眠不足って流れもありえるんで、別の内的欲求問題が浮上しかねません。
カフェインなしで苦味となると、口寂しさを煙草で満たす? これも健康的ではありませんね。
こんな思考の末、結局上手い方法は思いつきませんでした。
ちょっとした変化球として、置き換えダイエット。これも厳しい。
誰かが知らぬ間に気付かぬうちに置き換えてくれるならまだしも、自分で置き換えるとなると……つまり本物を偽物に入れ替える? というような印象を持ちませんか? 本物がいい! 本物が食べたい! って気持ちになっちゃいません? 本来、どっちが本物で偽物でなんてことはないはずなんですが、そう思ってしまうのも人情というもの。
また、置き換えの方法を調べるために、料理のレシピを調べ、写真を大量に見る? ダイエット中に辛くないですか?
気の利くシェフを雇えるならまだしも、あまり現実的ではないのでこれも却下。
では、運動はどうでしょうか?
筋肉を増やし、基礎代謝を上げる。これなら健康的でいいのでは?
実に素晴らしいですね。ただし、大変に禁欲的です。
体力・筋力トレーニングの類は、やらなければ衰えるのが非常に早い。つまり、長期的に時間の『余裕』を消費し続けなくてはなりません。食事メニューもタンパク質系に偏るのでしょうか? 心や金銭の『余裕』は充分にありますか?
もちろん、身体を動かすスポーツを趣味にします! というなら、運動はダイエットとして最高の方法です。心も身体も健康になれるでしょう。
ただ、それができるほどの『余裕』の持ち主は、恐らくダイエットに困ることがないのではないか?
例えば私の例でいくと、普通に仕事で身体を動かします。最近だと30キロぐらいの物は普通に持ち上げますし、足の裏にマメとか普通にできたりする訳です。
ストレッチや散歩ぐらいならまだしも、ガチな体力トレーニングができるかと言われると……正直休日は心身の回復に充てたいですね、というのが正直なところ。
元々運動不足だったなら運動もいいんでしょうけれど……運動不足の解消が目的になっていて、それもうダイエット関係ないし。
こんなところで、運動案は保留とします。悪くないけど、難しいから。
なので、戦略的な方法を考えましょう。
なけなしの『余裕』を、食べ物から距離を取ることに使います。
手の届く範囲におやつの類を置かない。食べながらの作業はダメ、絶対。
目の届く範囲に食べ物や、食べ物を連想させるものを置かない。
足の届く範囲に気を配ること。食べ物を買う量をちょっと減らす。冷蔵庫に食べ物を入れすぎない。外食で食べ放題系を避ける。コンビニやスーパーの割引時間に敢えて行かない。
舌に対する刺激を見直す。
激辛は止める。香辛料を減らす。
そもそも、食欲増進作用が必要ないと気付く。
食事の〆、最後の一口に気をつける。
舌に塩気や辛味、うま味が残っていないか? そういう余韻が残っていると、甘い物やスナック菓子についつい手が伸びてしまわないか? 買い置きはしてない? なら結構、でも大丈夫? 禁断症状みたいに、次見かけたら買い込まなきゃ! ってなってない?
食後は舌を洗い流そう。麦茶でも水でもいい。歯磨きも歯の健康にいいし、手軽に液体歯磨きでゆすぐだけ、でも余韻は消え去る。刺激が強すぎるとかえって逆効果になるかもなので、体質・味覚に合わせること。余韻を綺麗に消し去ることが大事。
口寂しさを対策する。
味が残っていなくても。舌先を転がる唾液の感触や、ごくりと鳴る喉。意識すればするほど、お腹が空いてくる、ような気がしてしまう。
まやかしですね。嘘っぱちです。
本当にお腹が空いていたら、お腹が鳴るので大丈夫です。
そうでないなら、気のせいです。気が迷ってるんです。
なら、別の北極星に目を向けることで、悪魔の星から目を逸らしましょう。
日々の仕事があるならそちらに集中する。
聴覚を刺激する。音楽を聴く。
視覚は普段から一杯一杯になりがちなので、新しく刺激はしない。
聴覚・視覚に関しては、飯テロに注意する。広告の類も、半数は食事に関するもの、というのは明らかに大げさだが。実際はそんなに多くはないはずだが、主観的に、こう、生理的欲求にダイレクトアタックをかましてくるので。半分以上飯テロに思えてくるんだ、広告って。だから、そもそも見ない方がいい。広告はスキップするんじゃなくて、そもそも見ないよう素通りするのが心穏やかに生きるコツだ。
嗅覚も飯テロに要注意。通勤・通学路や日々の買い出し経路、誘惑ポイントが多くないですか? ちょっと道順を見直すのも手かもしれませんよ。
アロマオイルも種類によっては効果があるかもしれません。ペパーミントのアロマオイルのように、交感神経を刺激して脂肪燃焼効果を高めるとか、鎮静作用、集中力を高める作用などはダイエットに向いています。ただ、刺激が強さから乳幼児に向かないのと、血行促進もするので高血圧の人には向いていないこと。妊婦さんの使用にも賛否あります。念を入れるなら香りを嗅ぐだけで塗布はしない、といったところでしょうか。
まぁ、アロマ関係は奥深い世界なので、興味が湧いたら各自で調べるのがいいんじゃないでしょうか。感じ方も人それぞれ、ペパーミントの香りでモヒートやチョコミントアイスを連想するとか言われたら手に負えません。
触覚は、温感に注意すること。肌寒いと温かいものが食べたくなったり、暑すぎると冷たいものが欲しくなったりします。空調や衣服を調節し、快適に過ごせるようにしましょう。
別解として、食欲に睡眠欲をぶつけてみる、というアイディアはどうでしょう?
空腹感にも波があります。まだ強い空腹感が来てないなぁ……というタイミングで早々に寝てしまう。辛い空腹感を寝てやり過ごす作戦ですね。睡眠不足になりがちな私たちですので、心の『余裕』を取り戻すのにも役立ちます。疲れてストレスを溜め込むのも過食の元です。しっかり休息を取りましょう。
食品ダイエットの視点を変えて、缶詰保存食ダイエットというのはどうでしょうか?
買う食品を全て、缶詰に置き換える。
特に、缶切り必須の開けるのが大変なもの、保存期間が長いものは素晴らしい。
戦闘糧食のように、無骨なパッケージデザイン、これも最高ですね。
食べるのに多少の手間が掛かる。
透明パックに入った惣菜などと違い、保存が利くから食品ロスを意識せずに済む。不必要に食欲を煽らずに済む。
きちんとお腹が空いたときだけ、食べる。極めて健康的だ。
災害大国に住む日本人にとってはありがたいことに、非常時への備えになる。ちょっとした安心感が心の『余裕』にもなります。
何ならプラスチックの消費も減らせそうじゃないですか? マイクロプラスチック問題が叫ばれる昨今、これも嬉しいポイント。
味も悪くない、どころか、きちんと美味い。これはもう食への執念が良い方向に機能した実例でしょう。
食べることが手軽すぎる環境、これを避けることでダイエットに役立てるというのも面白いのではないでしょうか?
さらに、ヤケ食いについても対策しましょう。
ヤケ食いに走るということは、なにか強いストレスを感じたということ。
事後でいいから、何にストレスを受けたのか、メモを取りましょう。下手に後悔に沈み込むと、何にストレスを感じてたのか忘れちゃうから。記録を取りましょう。
しちゃった事はどうでもいいです。目を向けるべきは背景の方。
そして、ストレスに打ち勝とうとか考えない。それ自体がストレスだから本末転倒。
逃げる、避ける、距離を取る。
最悪なのはヤケ食いしちゃったストレスでヤケ食いする、無限ループは絶対に避けること。そうなっていたらもう素直に病院に、肥満外来に行きましょう。
ダイエットの目的は、痩せることではないし、健康になることでさえありません。
健康診断を乗り切ろうとか、食の愉しみを死に物狂いで我慢することでもありません。
ダイエットの真の目的は、心身ともに健康的な人生を送ること。
その方法として、戦略的な自制心を学べたなら一生モノの財産です。
目先の問題に逐一対処していくのは本当に面倒くさくて、疲れて、なんかもうダイエットとかどうでもいいや……ってのはもう止めましょう。
取り組むべきは、重要なことだけ。
結果は後からついてくる。
もういっそ、結果を周回遅れにしてやろう、という気概。結果に先んじようという、心の『余裕』がある方がかえって上手くいくでしょう。
『余裕』の考えを広げて、ダイエットに応用してみました。
挙げてみた数々のやり方も、その全てが必ずできるというものでもないでしょう。
それで大丈夫です。肩肘張って全力でダイエットしようとするからリスキーになる。何もかもをやり尽くそうとするから、上手くいかない。99%の日常に振り回されながら、自分自身に1%の配慮をしよう。きめ細やかな、とっておきの思いやりを自分に向けよう。
食べるということに、1日1%だけ距離を取ろう。取り続けよう。二ヶ月少々、70日後には2倍の距離になっている。複利効果だね。
そうしているうちに、自分にとって健康的な丁度良い距離感を見つけられるのではないでしょうか?
そして自分を思いやった結果、とびっきりのアイディアを思いついたら、どんどんやってみたらいいんじゃないでしょうか。
上手くいったら続ければいい。ダメだと思ったら素直にやめればいいし、そうすると次のアイディアが自然と浮かんでくるでしょう。
心に『余裕』がきちんとあれば、それができる。
初めはゆっくりと、自分のペースを探るように。
慌てて転んで大泣きして嫌になるなんて、本当にもったいない。
結果とはオアシスのようなもの。渇きに負け、始めから気が急いてしまっていたら、蜃気楼のように逃げていく。あまりの辿り着けなさに膝を折る。
けれど、人に尋ね地図を求め、確かな足取りで向かったのなら、かえって素早く確実に辿り着ける。何度も繰り返せば、急いでも簡単に辿り着けるようになるから安心していい。
心に『余裕』がなかったなら、何度も最初を間違える。
そのうち欲することさえ嫌になって、心が軋みを上げるんだ。
そうなってしまう前に、自分の血潮の満ち引きを、その胸の鼓動を聞いて、自身のペースを思い出せばいい。それが君の最速、君のためだけの近道だ。
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