11 余裕のための切り札
逆アイゼンハワーマトリクスって知ってるかな?
うん、知ってるはずないね、私が今作った言葉だからね!
君はそんなことはないだろうけど、心に『余裕』がないと、うんうん知ってるって言い切るからね、肩の力を抜いて気楽にやっていこうぜ。
さて、「逆」のない、普通のアイゼンハワーマトリクス、重要度・緊急度マトリクスで覚えてる人もいるかも? さらっと内容をさらっておく。
緊急で重要「やる」
重要なこと「予定に入れよう」
緊急なこと「誰かにやらせよう」
不要で不急「直ちに止めよう」
という作業の分類方法のことだね。
これをやれば上手くいく。本当にそうだろうか?
名の由来になった、ドワイト・D・アイゼンハワーは34代アメリカ大統領で、連合国遠征軍最高司令官、アメリカ陸軍参謀総長、NATO軍最高司令官などを勤めたガチ軍人な方です。
ここで、ちょっと考えてみて欲しい。
軍人ガチ勢しかいない世の中って、果たして生きやすいだろうか?
たぶん、世紀末な世界が思い浮かぶと思う。うん、全員がこれをやると、殺伐とした世の中になってしまう。
さて、ここで考えたいのは私たちが不要不急と捨て去ったもの、『余裕』の再評価だ。
緊急で重要「これしか目に入らないよ!」
重要なこと「いや、それどころじゃないんだって!」
緊急なこと「知らねぇよ、勝手にやっとけ」
不要で不急「※へんじがない。ただの(以下略)」
というのが私たちの現状かな? 本当に『余裕』がないね。
この現状を打破するにはどうすればいいか?
簡単だ、緊急で重要なことをぶっ壊せばそれで事足りる。
いやいやいやいや、そうは言っても緊急で重要で! って思うでしょ?
でも、ありえないんだよ。
緊急であることと、重要であることは相反する概念だ。両立することは極めて稀なこと。善良な一般市民が直面することなんてない、そう決めつけてしまった方が気楽になれるぐらいには珍しい出来事だ。
何故か? 時間を忘れちゃいけないよ?
重要というのは、未来への投資のこと。
緊急というのは、現在への投資、その場しのぎの対応のこと。
限られた『余裕』を、未来か現在か、どちらかに投資しているのであって、片方に多めに投資すれば、他方は少なめになる。原則的に当たり前だ。
緊急で重要なことは、例えば、巨大隕石が地球に迫っていて1ヶ月後に人類が滅亡しそうな状況であれば、まぁそうかな?
あるいは、未来と現在への投資を両立させる、革新的で天才的な一石二鳥のアイディア、何らかのイノベーションならありうるかも?
こういったことが日常的にあふれているというのは、ご都合主義的な物語の主人公であっても難しい。あまりにも現実離れした仮定が必要になってくる。
アイゼンハワーは第一次世界大戦の頃に士官学校を卒業し、一次大戦の従軍は叶わなかったものの二次大戦中に中佐から元帥まで上り詰めるというトンデモない御仁なので、凄すぎてちょっと参考にならない。
もし、普通のアイゼンハワーマトリクスに基づいて、上手くいっている、目立ったトラブルなんて起きようもない、自身は健康的で精力的で、天下太平、世は事も無しというなら、別にそのままでも良いかもしれない。
ただ、覚えておくべきは。
どうしようもない行き詰まりを感じたときは、逆張りを試してみるといいってこと。
この心に、『無責任』という切り札を隠し持つんだ。
それが心の『余裕』として機能する。
切り札を温存したままでも、別にいいでしょ?
でも、どうしても隠し持てなくなったら。
その誘惑が、心の『余裕』を削る音がしたのなら。
遠慮無く切り札を切ればいい。
緊急で重要に見えることを、心の焼却炉に放り込み、火を放つ。
それを捨てて何が遺せるって言うんだと、嘆く心があるだろう。
全部重荷だ、全部無駄だと、この為体を何とかしたいと、叫ぶ心もあるだろう。
怒りの炎は、憎しみの炎は、感情の炎は、決して美しいものではない。
けれど、とても綺麗で、役に立ちそうで、ぬくもりに満ちていて、不思議と目が離せないものができる。
久しく見ていなかった、君の『余裕』だ。
否、最早それは君だけの、『あそび』に他ならない。
何故なら、『あそび』とは感情を伴う『余裕』のことだからだ。
さて、行動ターンを無視して出せる『無責任』という最強カードを手に入れたところで、次は何故『余裕』を見落とすのかについて……、え? 待ってくれ? 『無責任』カードは使うのは正直怖い?
……。
ごめん、軍人由来のお話とかしちゃって、緊張しちゃったかな?
肩の力を抜いて、リラックス、リラックス。
ゆっくり息を吸って……、吐いて……。
そうだね、次はもうちょっとゆったりと、夢想的な話にしようか?
君と、星空を見に行こう。
†