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記述主義者がペンを捨てるまで。  作者: ほんの未来
第7章:記述主義者と努力嫌いのための努力論。
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08 空理空論<スラックマネジメント>

余裕(スラック)』は自然界ではとても珍しい。

 食料や生活領域に『余裕(スラック)』があれば、あっという間に繁殖して『余裕(スラック)』を消費し尽くすからだ。自然界に『余裕(スラック)』はないし、あってもすぐ埋まってしまう。

余裕(スラック)』は希少性があり、しかもその時々で消費しないとすぐ消えてしまう!

 それをあろうことか人間は、『余裕(スラック)』を余剰に換え、物々交換を経ることで『余裕(スラック)』を擬似的に保存する方法を見つけてしまったのだ。だからこそ、人間は人間に成れた!


 余談ではあるが、こうして考えてみると、黄金が「何千年と続く人類史上最長のバブル」なんて揶揄(やゆ)される理由も分かってくる。

 必要最低限満たされていれば、どうしても『余裕(スラック)』が必要ってわけじゃない。だけど悔しいほどに魅力的で希少なもの。でもこの『余裕(スラック)』ってやつは、とても(もろ)(はかな)い。

 金貨(カネ)とは、『余裕(スラック)』の代替品だ。壊れやすく喪われやすい『余裕(スラック)』を、希少なだけで役に立たない、必要はないが、しかし永続性のある金塊に置き換えた。それは役立たずだけど長持ちする余剰として最適だったからだ。

 不換紙幣(現代のお金)だってそうだろう。もはや黄金ですらないけれど、『余裕(スラック)』を数値化することで代替品にしたのだ。価値の裏付けなんて『なにもない』のに?

『なにもない』が確かにあるのだ――この『余裕(スラック)』こそが価値の根源だ!


 例えば、帝国が奴隷制で『余裕(スラック)』を掻き集めて栄華を誇った時代があった。

 例えば、海を渡り、植民地を拡大し、『余裕(スラック)』を(さら)っていく時代があった。

 例えば、集めすぎた『余裕(スラック)』が腐敗を生み、革命へと至った時代があった。

 例えば、市民や労働者、農民や女性が『余裕(スラック)』に手を伸ばす時代があった。


余裕(スラック)』で私たちの世界を作った。それに知恵と名を付けた。

余裕(スラック)』で私たちの住処を作った。それに自由と名を付けた。

余裕(スラック)』で私たちの武器を作った。それに権利と名を付けた。


余裕(スラック)』を譲り合い、育み、殖やし、奪い、奪われては取り返してきた。

 文明も、文化も、人間性も、『余裕(スラック)』から生まれたものだ。

 私たちと、私たちが作り上げてきた全ては『余裕(スラック)』からできている。


 で、あるのなら。


余裕(スラック)』をもっと直接的に、手品の種や仕掛けにしてしまえばどうか?


 虚空(なにもない)からどんなものでも取り出す……には技量が足りないけれど。

 でも、その技量さえ『余裕(スラック)』の産物なのだから、問題はないね。


 なにもない、と向き合ってみるとしよう。

 それぐらい、「なんでもない」ことなんだから。


   †

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