I・十五、十六、十七日目と十八日目の朝
そこからの三日間は、ハッキリ言って苦痛だった。気が気でなかった。モヤモヤとして、悶々とした。
彼女は一体誰なのか、なぜ土曜日まで教えてくれないのか、なぜそれまで口を聞いたらダメなのか。
そういう疑問を抱えているのに彼女には聞けない状況に、俺は苦しんだ。
『彼女の姿を見たら、思わず声を掛けてしまうだろう』と考えた俺は、その三日間、ただただ正面を向き続けて電車を待っていた。その期間、彼女からの挨拶はなかった。まぁ、それはそうだろう。彼女が言い出したことなのだから。
そしてようやくの土曜日。俺はいつもより少し早めに駅のホームに到着し、彼女が現れるのを待っていた。改札口で待とうかとも思ったが、指定されたのは、いつもの場所。だから俺は大人しくホームで待っていた。
いや、決して大人しくはない。ホーム上をウロウロとしていた。単にソワソワしていた訳ではなく、いつも俺が並ぶ場所にすれば良いのか、彼女が並ぶ場所にすれば良いのかを迷っていたのだ。
ウロウロと、そしてキョロキョロとする俺。しかしまだ彼女は現れない。すると突然の挨拶。
「おはよっ!」
振り返った俺の視線の先には、一人の女性が立っていた。
丸縁の小さなメガネと少し編んだ髪。首元には控えめなネックレスが飾られていて、左肩には小さいポーチが提げられている。そして薄い灰色のTシャツと真っ白な半袖の服。ボタンが留められていないその服の裾は腰の辺りで結ばれていて、これまた真っ白なロングスカートがヒラヒラと風に靡いている。
清楚な雰囲気を醸し出しつつ、爽やかさを纏っている目の前の女性。一瞬、誰だか分からなかった。しかしその顔をよく見ると、彼女のモノだった。
いつもとは違い、私服姿。だから俺は彼女が近付いて来ていても、全く気付かなかったのだ。俺は駆け寄り、二人のあいだの僅かな距離を埋めた。そして自分のスマホの画面を彼女に見せる。
『もう喋ってもいい?』
約束では会話禁止は土曜日まで。もう喋っても大丈夫な筈だが、念のために文字で確認をした。やっとここまで辿り着いたのだから、どんなに小さなミスすらも今更 犯す訳にはいかない。あらかじめ打ち込んでおいたその文章を読んだ彼女は、
「アハッ、警戒し過ぎ! もう喋ってもイイよ」
と、軽く笑った。
「じゃ、じゃあ教えて! キミは・・・」
「もう、焦らないの。時間はあるよね? ちょっと遠出しない?」
「え? 遠出?」
「街まで行こうよ。それで、オシャレなカフェとか行きたいな」
『オシャレな』という言葉に引っ掛かった。彼女の格好は確かにオシャレだ。しかし俺はというと、白いTシャツにGパン。髪だってセットしていない。つまり、決してオシャレとは言えない。そのため躊躇する。
「オシャレな、カフェ・・・? いや、ま、街まで、って・・・、一時間は掛かるよ?」
その距離もまた、俺が躊躇した要因だ。
「今日は一日空いてるんだよね? だったら、イイでしょ?」
「うん。まぁ・・・」
そうして俺たち二人は街まで出ることになった。しかし、
「あれ? いつもの電車、ないみたい・・・」
との彼女の言葉を受けて、電光掲示板を見る。そこには、いつも俺たちが乗っている電車についての表示がなかった。
「あ~。平日とはダイヤが違うんだよ」
「あ、そっか。アハッ! ゴメン、ゴメン。そこまで考えてなかった」
なんとも楽しそうに謝罪した彼女。その顔はこれまで見たことがないくらいに、とても輝いていた。




