F・八日目、九日目、十日目
翌日の朝、俺はホームにいなかった。別に高校を休んだ訳ではない。駅の前で彼女を待ち伏せしていたのだ。
同じ駅から乗ってるなら、この辺りに住んでるってことだよな?
彼女が来る方向が分かれば、彼女の家の見当が付くかもしれない。そこから彼女が何者なのかが分かるかもしれない。そんな極めて低い可能性に、俺はすがっていた。
時折スマホで時刻を確認しながら、常に左右に首を振って彼女の姿を探した。電車の到着時刻になるギリギリまでだ。しかし、その姿を見ることは叶わなかった。諦めてダッシュで駅の中に入る。そして跨線橋の西側の階段を降りて、いつもの場所へ。すると俺の視線の先には彼女がいた。二両目の前側、彼女のいつもの場所。その先頭に彼女がいる。
は? なんで?
驚きつつも、すでに二人の男性が作っている列に並ぶ。じきに電車がホームへと入ってきた。
「おはよ」
不意に声が聞こえた。俺の右耳にあの声が。
その瞬間、顔を向ける。すると彼女の後ろ姿が。俺に挨拶をして、いつもの列の最後尾に並んだ彼女。
なんで、そこまでする?
頭の中に、今日も色々な疑問が湧いた。
そして翌日、俺はまた駅の前にいた。と言っても昨日の場所とは違う。昨日は南口、今日は北口だ。この駅は改修されてから出入り口が二つになった。俺は今日、新しく出来た方の入り口で彼女を待ち伏せしている。
彼女は北口から来てたんだな。
しかし残念、そんな予想は外れた。この日もまた、昨日と同じ結果となった。その後、電車の中で考える。
もしかして彼女の方が先に俺を見つけて、反対側の入り口から駅に入っているのか? だったら、この作戦は意味がないな・・・。
そうして、次に何をしようかと思案していた。体を揺られながら。
翌日の金曜日、俺はいつもの場所にいた。あれこれと考えたが、なにをするでもなく、ただ普通に電車を待っていた。いや、反省しながら待っていた。まずなによりもしなければイケないことを忘れていたのだ。今日の今日まで失念していたのだ。
「おはよ」
いつものように左耳の後ろから、彼女の声がした。俺はすぐに右を向いて、
「おはよう」
と返事をした。
彼女のことは知らない。だけど彼女は俺のことを知っているようだ。そして挨拶をしてくれる。だったら俺も挨拶をしよう。まずはそこからだ。
しかし、そんな俺の想いは彼女には届かない。彼女は振り返りも立ち止まりもせずに、いつものようにフワフワと髪を揺らしながら、いつもの場所へと歩いていった。




