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E・七日目

 翌日、俺はまた実験をしていた。今日は二両目の前側の停止位置で電車を待っていた。ここは彼女がいつも並ぶ場所だ。俺がここにいたら、彼女はどうするだろうか。挨拶をしてから他の場所に移動するのか、ここに居続けるのか。


 今日はたまに見掛ける背の高い大学生っぽい女性はいない。その女性も、いつもこの場所に立っている。しかし今のところ、ここにいるのは俺だけだ。そうして彼女が来る方向に体を向けて待っていた。


 やがて彼女が現れる。今日も西側の階段から降りてきたようだ。そして何事もない様子で俺のいる場所、つまりは彼女がいつもいる場所に来て、


「おはよ」


 と笑顔を向けてきた。その後、俺の横に立った。いや違う、俺の前に立った。と言っても、別に割り込まれた訳ではない。


 俺は彼女を待ち構えるようにして、立っていた。不自然に左を向いていた。だから本来なら俺の隣になる場所は、今は俺の正面になっている。そこに彼女は立っていて、普通に電車を待っている。つまり俺の目には彼女の右半身が映っている。そこには、いつものように大きなバッグもある。


 彼女はそんな不自然な俺には目もくれず、立ち続けている。別になにをする訳でもなく、立っている。音楽は聴いていないし、本も読んでいない。なにもしないで、ただ電車を待っている。それもまた不自然だ。彼女の横顔は、笑うでもなく、怒るでもなく、戸惑うでもなく、ましてや悲しむでもない。若干口角は上がっているものの、無表情に近い。


『なに?』とか『どうしたの?』とか聞かないのか?


 挨拶はしてくるのに会話をしようとはしない彼女。一体どういうことなのか。


 ・・・あれ? この後、俺はどうしたらイイんだ?


 俺肝心なことを忘れていた。『彼女がどうするか』よりも、『俺はどうするか』を考えておくべきだった。


 このまま同じ車両に乗るのか? 何か会話をするべきか? しかし俺は彼女のことを知らないぞ?


 ちょっとしたパニックに陥っていた。いやしかし、その前にやるべきことがある。


 俺は本来向くべき方向に体をゆっくりと向けた。


 今日、彼女はいつも俺が立っている場所───つまり三両目の後ろ側の停止位置の辺りを素通りした。俺がいないことに対して全く反応しなかった。昨日のように立ち止まったり、首を振らなかった。なんの躊躇も見せずに、この二両目の前側の停止位置まで来た。


 もしかして予想されてたのか?


 俺は一歩下がり、横目で彼女を見た。




 身長は俺よりも少し低い。一六〇センチ前後といったところか。見覚えのないブレザーの制服に身を包み、大きなバッグを右肩から提げている。そのバッグはパンパンだ。そんなに入れる物があるのだろうか。




 その後、彼女と同じ車両に乗った。しかし座席は別々だ。そこそこに乗客はいるが、混んではいない。そんな状況で知らない女子の隣に座るなんてことはしない。いや、できない。そして彼女の方も俺の隣に座ろうとはしなかった。


 そこから四駅先で彼女は下車した。そこには高校がある。それは知っているが、その高校の制服は彼女の着ている制服とは違う。


 一体、何者だ?


 俺の頭の中には、彼女への疑問が溢れていた。




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