M・十八日目の夕方前
愛の告白にも聞こえた彼女の言葉。
それは気のせいだろうか、勘違いだろうか・・・。俺には、よく分からない。しかし彼女が俺の気を引こうとしていたのは間違いないようだ。
「気にして欲しい、って・・・。えっと・・・、な、なんで?」
「さぁ。なんででしょうか?」
おどけた表情をする彼女。それは照れ臭さの表れか、それとも俺をからかっているだけなのか。
「いや、俺に訊かれても・・・」
「気にはなったでしょ? 色々と」
「そりゃあ、まぁ・・・」
たしかに気になった。それは間違いない。なぜ毎日挨拶をしてくるのか、どこの制服なのか、彼女は何者なのか・・・。
「ワタシね・・・。キミに助けられたの」
「え? 助け・・・?」
「小五のとき、塾に通ってなかった?」
「小五? あ~・・・。小三から小五まで行ってたけど・・・」
俺はその期間、家から少し離れた場所にある塾に自転車で通っていた。しかし、あまりにも成績に変化がないので小六になる前に、親にやめさせられたのだ。
「ワタシも、その塾に通ってたの。キミとはクラスが違ったけど」
「え!? そうなの!?」
「うん。小五から」
「え? あれ? ・・・キミ、いくつ?」
「十五だよ。九月で十六になる」
俺と同い年だ。
「あ、そうなんだ・・・。ん? ちょっと待って。あの塾、キミの家からは遠いんじゃない?」
「うん。だからお母さんに、車で送り迎えをしてもらってた」
「あ~、そういうことか・・・。えっと、それで? 『助けられた』って、どういうこと?」
「小五の四月から塾に通ってたんだけど、全然知ってるコがいなくて・・・。ワタシ、苛められてた───っていうか、からかわれたりしてたの。半年くらい、ずっとそんな状態で・・・。そんなとき、キミが助けてくれたんだよ。覚えてない?」
「・・・全然覚えてない」
「ま、そうだよね。そういうのって、助けられた方はずっと覚えてても、助けた方は覚えてなかったりするんだよね」
「・・・本当に、俺なの?」
「うん。そのあと、塾の先生からキミの名前、教えてもらったから」
おい、個人情報・・・。
「あのときワタシ、すごく感動したの。王子さまが現れた、って」
「いや、そんな大層な・・・」
「そんなことないよ! すっっっごく、カッコ良かったんだから! 『そんな大勢で女子一人を囲んで、恥ずかしくないのか? 情けないな、オマエら』って、言ってくれたんだよ?」
え? 小五の俺、そんなこと言ったの? なに? なんか俺のキャラじゃないんだけど・・・?
「でもワタシ、そのときにお礼を言えなくて・・・。『ちゃんと、お礼を言わないとイケない』って、ずっと思ってたんだけど、なんか恥ずかしくて、なかなか言い出せなかったの。そしたらキミが、塾に来なくなっちゃって・・・」
「・・・・・・・」
「それからは、ずっとキミのことが忘れられなくてね・・・。友達とかにキミの名前を教えて、知ってるコがいないか尋ね回って・・・。それをこの前まで、続けてたの」
「え? 尋ね回ったの? つい最近まで?」
「うん」
おいおい、個人情報・・・。それにしても、なんという執念だ・・・。
「そしたら先月、キミと同じ高校に行ってる友達から、『見つけたよ』って連絡が来て・・・。それで、あの駅に会いに行ったの」
「え!? その友達って、俺のクラスメイトなの!?」
「ううん、違う。でも、入学式のクラス分けの貼り紙に、キミの名前があったみたいで・・・」
あ~、なるほど、なるほど。たしかに入学してすぐに、やたらと俺のことを聞いてきた女子がいたけど、多分あのコがそうなんだろうな。
「でも、『ただ会いに行っただけじゃ、それで終わりだ』って思ったから。キミの気を引くために、色々と考えたんだよ」
「それが、『挨拶とか制服だった』って、こと?」
「うん」
「そっか・・・。そうだったんだ・・・」
それなりの期間に亘って抱えていた俺の疑問は、一通り、答えを得た。
それにしても、意外なことが多かった。制服の正体、彼女の住所、そして彼女と俺の接点。
だいぶ小さくなった氷が浮かぶ飲み物を一口飲み、俺はようやく一息ついた。




