L・十八日目の昼過ぎ
昼食を終えた俺たち。またブラブラと街中を歩いて、色々な店を見て回る。そこで、ふと思い出す。
ん? いやいや、違うぞ! 呑気に街ブラをしてる場合じゃない。俺は、彼女が何者なのかを教えてもらわないとイケないんだった!!
重要なことを思い出し、彼女に催促する。
「あのさぁ、そろそろ・・・」
「ん? あ、そうだね」
俺の顔を見た彼女はすぐに察してくれたらしく、スタスタと歩いていく。そんな彼女のあとを追った。すると一軒のカフェの前へ。
「喉、渇いたよね?」
いや、そうじゃないんだけど・・・。
しかしまぁ、ゆっくりと落ち着いて話をするのなら、カフェは好都合だ。それに彼女はオシャレなカフェに行きたがっていた。ということで、俺たちは中へと入る。
陽はまだ高く、暑さのピークを迎えている頃だったので、共に冷たい飲み物を注文。そして本題へと移ろうとした。
「えっと、そろそろキミのことを教えて欲しいんだけど」
すると彼女はニコリと微笑む。
「そんなにワタシのこと、知りたい?」
「うん。そのために来たんだし」
「そっか。じゃあ、なにが聞きたいの?」
「キミは、その・・・ 誰なんだ? 俺とはどういう関係なのかな?」
その直後、彼女は自分の名前を答えた。しかし、俺は聞き覚えも心当たりもない。初めて聞く名前だったのだ。
「それで、俺とはどういう関係・・・」
「それはまだダメ。後にして」
「え? でも、色々と教えてくれるって・・・」
「教えてはあげるけど、それはもう少しあとにしよ。他に聞きたいことは?」
最も重要なことをはぐらかした彼女。俺はなにを聞こうかと考える。すると彼女の方が口を開く。
「身長は一六二センチ。体重は内緒。スリーサイズは~・・・、これも秘密」
「いや、そういうことを聞きたいんじゃないんだけど・・・」
「そうなの? 体重はまだしも、スリーサイズにも興味 ない?」
ないことはないけど。でも、そうじゃなくて・・・。
「あ! 家はどこ?」
しかし俺が質問をした直後に店員さんが現れて、二つの飲み物を置いていった。そのため質問は一時中断。店員さんが去ると、彼女は一口飲んで、
「えと、なんだったっけ?」
と首を傾げた。
俺は彼女の家の場所を聞き直すと共に、自分の住所を大まかに教えた。すると彼女もまた、自分の住所を教えてくれた。しかしそれは、俺の家からは随分と離れた場所だった。
「え? その辺りって・・・。俺の家からは、だいぶ遠いよね? あれ? なんであの駅を使って・・・。いや、どうやって、あの駅に?」
頭に浮かんだ疑問をそのまま口に出していた。
「少し前に延伸した路線があるよね? それでワタシの家の近くに、新しく駅が出来たの」
あぁ、なるほど。たしかに彼女の住所は、延伸した路線が通るようになった辺りだ。
「あれ? もしかして・・・、乗り換え?」
「うん。あそこの駅で乗り換えてるの」
そうか、そうだったのか。どうりで駅の前で待ち伏せしても現れなかった訳だ。しかしそこで新たな疑問が。
「お互いの家がそんなに離れてたら、俺との接点なんてないよね?」
「その話はまだ。あとでちゃんとするから」
彼女は頑なに俺との関係性をひた隠しにする。だったら次はなにを聞こうか。
「ねぇ、他には? 他に聞きたいこと、ないの? すっごく気になってることがあると思うんだけど」
彼女に促されて俺は思い出す。
「あ、そうか! 高校! 高校はどこなの?」
その質問を聴くと、彼女はニタッと笑った。なんだろうか、彼女はとても楽しそうだ。俺で遊んで───、いや、俺を弄んで楽しんでいるのだろうか。
「高校は~・・・、衝羽根だよ」
「え? 衝羽根?」
「うん」
いやいや、そんな筈はないよな? 彼女の制服は、あの高校の制服とは違うぞ。
しかしそこで、以前俺の頭の中に浮かんだ一つの可能性が再浮上してきた。
「もしかして・・・、転校生?」
そう。彼女が転校生で三年生だとしたら、『本来の制服を新調することを免除された』という可能性がある。
「違うよ? ワタシ、入学式にも出席したし。っていうか、生まれてから、ずっと今の家に住んでるし」
・・・え? だったら、なんであんな見たこともないような制服を着てるんだ?
そこで俺は、今まで思い付かなかった新たな可能性を思い付く。
まさか・・・。本当は俺のこと、知らないんじゃないのか? 色々とウソをついてるんじゃないのか?
彼女は今、やたらと嬉しそうにしている。もしかしたら俺のことを騙しているのかもしれない。俺のことを弄んで楽しんでいるだけなのかもしれないのだ。『なにもかもがウソに違いない』と思った俺は、ある質問を投げ掛ける。
「あの、さぁ・・・。俺の名前、知ってる?」
「うん。もちろん」
その直後、彼女が口にした言葉は、間違いなく俺の名前だった。名字はおろか、下の名前まで合っていた。更には、それぞれの漢字まで言い当てた。
あれ? 俺のことを知ってる? どういうことだ?
話を聞くうちに、余計に訳が分からなくなっていた。ふと彼女の顔を見ると、相変わらず楽しそうに微笑んでいる。
「どうしたの? なんか、困った顔してるよ?」
「いや・・・、どんどん頭が混乱してきて・・・」
「そうなの? ワタシ、ちゃんと教えてあげてるのに」
「いや、ちょっと待って。衝羽根の生徒なら、あの制服はどういうこと?」
「あれはね・・・、お姉ちゃんの制服」
「・・・は? お姉ちゃん?」
「うん。ワタシのお姉ちゃん、今は大学生なの。スポーツ推薦で入学したんだよ。スゴいでしょ?」
「え、あ・・・。う、うん・・・」
話がよく見えない。大学生? スポーツ推薦? 一体、なんの話だ?
「お姉ちゃんは水泳が得意でね。高校も推薦で入って、すっっごく遠くの高校に行ってたの、県外のね。そのときの制服が、家に置いてあって───」
「あ! それを着てたんだ! だから見覚えがなかったのか!」
「そっ。この辺の制服じゃないからね」
「え? あれ? もしかして・・・、あの大きなバッグ・・・」
「うん。衝羽根の制服を入れてたの」
おいおい、なんなんだ? わざわざそんな制服を着て、身元を隠して、それでどこかで本来の制服に着替えて・・・。なんでそんなに大変なことをしてたんだ?
「じゃあ自分の家から、あの制服を着て、登校してたの?」
「違う、違う。家を出るときは普通の制服だよ。家の最寄り駅のトイレで着替えてるの」
は? じゃあ・・・、家を出てから二回も着替えてるのか? いや、待てよ。そういえば・・・。
「えっと、たしか・・・。衝羽根の最寄り駅には、『寄るところがある』って言ってたよね? それは?」
「駅のトイレ。元の制服に着替えないといけないから」
なんなんだ、彼女は・・・。
「ん~~~・・・。整理すると、キミは衝羽根の生徒で、『電車を利用してるときだけ、あの制服を着てる』って、こと?」
「そうだよ」
「・・・なんで?」
「その方が気になるでしょ? 普通に衝羽根の制服を着てても、別に気にならないよね?」
「それは、まあ・・・、そうだけど・・・。なにがしたいの?」
「だから、気にして欲しかったの。キミにね」
「・・・え?」
柔やかな笑顔で発せられた彼女の言葉は、まるで愛の告白のように聞こえた。




