K・十八日目の昼
思いのほか盛り上がり、長引いた意見交換会。俺たちが選択したのは、結局ファミレスだった。午後一時前に入店。即座にピザとパスタを一つずつ、そしてドリンクバー二人分を頼み、飲み物を入れに行く。
「好きな組み合わせとか、ある?」
彼女が訊いてきたのは、複数の飲み物を混ぜる手法の、その組み合わせ。しかし俺はそういうことはしないので、『好きな組み合わせ』なんていうモノはない。それを知った彼女は顔を曇らせる。
「え? 結構つまんないね・・・」
何気なく放たれたであろうその一言に、なぜかそれなりのショックを受けて、これまた、なぜかそれなりにムキになる俺。
「いやいや、そのまま飲むのが一番イイに決まってるだろ。飲料メーカーの企業努力を甘く見るなよ」
俺は飲料メーカーについて特に詳しい訳ではないが、したり顔でそう言った。
「人の敷いたレールの上しか歩けないようじゃ、『まだまだ』だよね」
彼女もまた、したり顔で述べた。少し険悪になった俺たちだったが、席に戻り、料理が到着すると、下らない蟠りは消えた。
「はい。あ~ん」
自分のパスタを食べ進めていた彼女が、フォークを差し出してきた。
「えっ!? な、なにっ!?」
突然のことに戸惑ってしまった。まさか、こんなことをされるなんて思ってもみなかった。
「パスタも食べるでしょ? はい。あ~ん」
「いやいや、自分で取るから! フォークなら、まだあるから!」
「一人前のパスタでフォークを二本も使うの? 地球に優しくないね」
「は? どういうこと?」
俺がフォークを使うと地球に厳しいのだろうか。意味が分からない。どう考えても厳しいのは、今の状況だ。『あ~ん』なんて、できる筈がない。俺たちは付き合っている訳ではないし、周りには多くの人がいる。
「洗い物が増えたら、洗剤とか水とか、たくさん使うよね? それは地球に優しくないんだよ」
いや、果たして そうなのか? こういう店って、食洗機で一気に洗うんじゃないのか? だったらフォーク一本くらい増えても、変わらないんじゃないのか? それに、その・・・、同じフォークを使うとか・・・ 、間接キスに・・・。
そんな俺の考えを察したのか、フォークを差し出したままの彼女は続ける。
「たとえフォーク一本でも、積み重ねが大事なんだよ。それともイイ歳して、間接キスとか気にしてるの? 下らない。はい、あ~ん」
「・・・・・・・」
「ほらほら。あ~ん」
俺は観念して口を開けた、視線を宙に向けて。すると地球に優しいらしい彼女は、優しくパスタを送り込んできた。
う~ん、恥ずかしい・・・。
俺は人生初の『あ~ん』に照れながらも、この恥ずかしさがどれ程のモノかを彼女にも味わわせようとピザ一切れを手に取った。
「は、はい・・・。あ~ん」
しかし慣れないことはするモノではない。俺の右手はプルプルと小刻みに震えていた。これは、する方もまた恥ずかしくなる行為のようだ。
「プフッ! 震えてるよ? 恥ずかしいの?」
「べ、別に・・・」
「じゃ、いただきます」
彼女は特に恥ずかしがる様子もなく、俺からのピザに噛り付いた。こういうことに慣れているのだろうか。しかしその直後、彼女は赤面することになる。
「んっ!? んん~~~っ!」
なんと、チーズがビヨ~ンと伸びてしまったのだ。その状況に対して、彼女はどうすることもできずに唸り声を上げるのみ。そして俺の手にあるピザと彼女の口との架け橋となったチーズは、徐々に垂れ下がっていく。
「ん~っ! んん~~っ!」
彼女は変わらず唸りながら、ピザの皿を俺の前から奪い、チーズを受け止める。
「あ~、もう! 危なかったぁ!」
顔を赤くした彼女。それは、『チーズをテーブルに落としてはイケない』という焦りからか、身動きの取れない状態になってしまったことによる苦しさからか、なんだか滑稽な絵面になってしまったことへの恥ずかしさからか、どういう理由でそうなったのかは分からない。しかしまぁ、一つ教訓にはなった。『あ~ん』は、ピザではやらない方が良いみたいだ。




