J・十八日目の午前中
それから二十分と少し。ようやく到着した電車に乗り込んだ俺たち。車内で色々と話をしたが、彼女は肝心なことは、なにも教えてくれなかった。そして約一時間ののち、街へと着き、大きな駅から出る。
「わ~。やっぱりこの辺は都会だね~」
「うん。そうだね」
しみじみと言った彼女に素直に同意した。ここの駅前は、それなりの高さのビルが建ち並び、行き交う人の数も結構なモノだ。本当の都会に住んでいる人間からすれば『しがない地方都市』にしか見えないだろうが、田舎に住んでいる俺からすれば、ここは立派な都会だ。
ん? 彼女が住んでる場所も田舎なのか?
平日は毎日同じ電車に乗っているのだから、彼女は俺の家の近くに住んでいるのだろうけど、彼女に関しての手掛かりは皆無に近い。だから俺は、ちょっとした彼女の言動がすぐ気になってしまう。
「八時半過ぎかぁ。お腹空いたし、なにか食べようよ」
キョロキョロと辺りを窺う彼女。この時間だと開いている店はまだ少ない。飲食店となると、ファストフード店やコーヒーショップくらいだろう。しかし、そんなことよりも・・・。
「え? 俺、食べてきたけど?」
「なんで!?」
目を見開いた彼女の様子に、少し驚く。どうして食べて来なかったのだろうか、と。
「いや、いつも食べてるし。今日も普通に食べたんだけど・・・」
「そりゃあ、学校があるときは食べるだろうけど。こんな早くにお出掛けするのに、なんで食べてくるの?」
眉間に皺を寄せて唇を尖らせた彼女。どうやら少し怒っているようだ。すると、
『ググゥ~~~・・・』
と、彼女の腹の虫も怒り始めた。
「・・・・・・・」
体内に棲むペットの鳴き声を聞き、顔を少し赤らめて俯いた彼女。なんだか可愛らしい姿に笑い声が漏れる。
「プッ・・・。とにかく、どこか入ろうか。俺は飲み物でも注文するよ」
「・・・うん」
そうして俺たちは歩き出した。
駅から程近い大手チェーン店のドーナツ屋へと入り、軽い朝食を済ませた彼女。俺はそのあいだ、カフェオレをチビチビと飲みながら、その姿を見ていた。
「・・・あんまり、見ないでよね」
と言ったときの彼女の顔はそれなりに照れ臭そうで、これまた可愛く感じた。
ドーナツ屋をあとにすると、彼女からの質問が。
「・・・今日のカッコ、どう? 変かな?」
未だに謎な存在ではある彼女だが、その問いは、よくあるモノだった。
「いや、変じゃないよ?」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・え? それだけ? 他になにかないの?」
「へ? え~っと~・・・」
「はぁぁ~~~・・・」
なんとも深く長い溜息と、残念そうな表情。そして、そのあとには少し怒ったような顔つき。
「もうイイ。会った瞬間になにか言ってくれると思ったんだけど、それもなかったし」
「いやいや! に、似合ってるよ うん、似合ってる!」
可愛いと思ってはいたが、そんなことを口にするのは、なんだか恥ずかしい。だけど正直に言うべきだったようだ。彼女はその後、不機嫌になってしまった。
午前十時過ぎ。この時間になると、商業施設も随分と開き始めた。そして、ヘソを曲げていた彼女の顔も晴れてきた。俺たちは色々な店を見て回り、他愛もない会話に勤しんだ。ペチャクチャとよく喋り、よく笑った。そして正午近くになると、二人で昼食選びを始めた。片手にスマホを携えてブラブラと歩き、あれこれと意見を交換した。




