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A・一日目

 五月も半分を過ぎた日の朝。この春から七駅先にある高校に進学した俺は、今日も今日とて駅のホームに立っている。この時間、ホームに立つ人の数は多くない。この後 左側から到着する四両編成の電車を待っているのは俺を含めて十人ちょっと。その程度の数だ。俺と同年代の人間はいないに等しい。


 俺が住んでいるのは人口一万人ほどの田舎町。各駅停車の電車に一時間ほど揺られれば、ある程度大きな地方都市に着くが、俺の住んでいるこの町はよく言えば『のどかな場所』、率直に言えば『なにもない場所』だ。


 二ヶ月ほど前に他の路線が延伸したことにより、二つの路線が交わるようになったこの駅。駅舎は改修されて、そこそこに立派な造りになったが未だ利用客は多くない。両親を含めた大人たちは今後の町の発展に期待しているようだが、本当に発展するのだろうか。


 この町になにもないように、俺の高校生活にもなにもないし、なにも起こらない。家から遠い高校には顔見知りは殆んどいない。新しい環境で新しい人間関係が構築されることを少しは期待していたが、特にそんな様子はない。入学した当初は色々な生徒と多少なりとも会話を交わしたりはしたが、それは自己紹介のようなモノで今ではあまり会話をすることはない。


 そういえば、やたら熱心に俺のことを聞いてきた女子が一人いたが、そのコとも、それっきり。友達を増やそうとしていたのか、彼氏候補を物色していたのかは分からないが、どうやらそのコの選考から俺は漏れたようだ。


 待機場所というか、並ぶべき場所というか、次に到着する四両編成の電車を待つために列を作る場所は八ヶ所。その一つに俺は一人で立っている。俺の前にも後ろにも人はいない。架線に停まる雀を見て、ふと思う。


 なんで感電しないんだ?


 音楽を聴くでもなく、教科書を開いて予習をするでもなく、そんなことをただ思いながら電車の到着を待っている。


「おはよ」


 不意に左耳の後ろから女性の声がした。俺は驚きつつも顔を向ける。しかし誰もいない。いや、正確にいえば人はいた。しかしそれは、『我、関せず』といった感じで隣の列で電車を待っている中年男性のサラリーマンが二人。彼らは声の主ではないだろう。


 空耳か? 気のせいか?


 と思いつつ、何気なく顔を逆に向けた。すると俺の目に一人の女子の姿が映った。俺から三メートルほど先にいるその女子は、次第にその距離を延ばしていく。


 あのコが声を掛けたのか?


 俺が並んでいる列には俺しかいない。俺の前にも後ろにも人はいない。俺しかいないのだから列と言って良いのかは分からないが、とにかくその女子が声を掛けた相手は俺なのだろう。遠ざかっていく彼女の後ろ姿を注視したが、誰だか全く分からない。


 右肩にはえらく大きなバッグを提げている。その肩まで伸びるほんのりと茶色掛かった黒髪をフワフワと揺らしながら歩いていく彼女は、制服を着ている。しかしそれは俺の高校のモノではない。それどころか見たこともない制服だ。


 どこの高校だ? いや、中学か? いやいや、この辺りの中学生は電車通学なんてしないよな。


 どこの誰だか分からない女子の背中を見ながら、俺は考えていた。すると彼女は歩を止めた。電車に乗るために列へと並んだのだ。正直そこも列と言えるほどのモノではないが、その女子のいる場所には既に大学生らしき背の高い女性が一人立っていた。その隣に並んだ彼女の横顔を俺は確認しようとしたが、いかんせん遠い。さらには俺と彼女との間には、こちらも列と言うにはおこがましいが、一応二つの列があって、人が立っている。そのせいで彼女の顔がよく見えない。


 ・・・誰?


 彼女の顔をハッキリと確認できた訳ではないが、どうやら見覚えはなさそうだ。更にまじまじと彼女の横顔を見る。すると手前の列に並んでいる若い男性が俺の視線に気付き、こちらを見た。慌てて前を向く俺。


 違う、違う! アンタを見てたんじゃないから!


 俺は少しドキドキしつつ、電車を待った。




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