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浄霊①

来ていただいてありがとうございます。

本日二話目の投稿となります。



私達はひとまずアルスター座長の家に向かうことになった。今いる町から結構近いらしく、馬車で半日もかからないらしい。

「俺の服をずっと着ててもらってもいいんだけど、こっちのほうが似合うから」

クリスが買ってきてくれた服はこの辺りの町娘さん達が着ているような服で、動きやすいけど冒険者って感じの服じゃ無かった。ハーフテールにした髪に綺麗な羽根の形の髪留めまでつけてくれた。可愛いのは嬉しいんだけど、クリスは私が冒険者として働くのは本当に嫌みたい。困ったな。どうしたらわかってもらえるんだろう?


馬車に揺られながら考えてたら、急にガタンと揺れて馬車が止まった。

「うわあ!」

御者さんの声がしたから外を見てみると、黒い影が!四体ほどの邪霊が現れた!ちょっと薄暗い森の中なんだけど、ここは邪気の森じゃなくて普通の森なのに。

「あまねは中にいて!」

クリスとトールさん、アルスター座長が飛び出していく。あっという間に邪霊を倒してしまった。やっぱり三人ともすごいなぁ。窓から見てると、近くの石の上に座ってる男の人がいた。途方に暮れたように。年齢は二十代前半くらい。明るい茶色の髪に同じ色の瞳、そばかすと眼鏡が印象的だった。そして気になったのが左手の薬指の指輪。普通に婚約か結婚の指輪なんだろうけど、奇妙なことに光る糸が付いてた。

「何の糸だろ?」


「どうしたの?あまね」

反対側のドアからクリスが帰って来た。

「あそこの男の人が困ってるみたいで……」

私が指さした先には、もうあの男の人はいなかった。

「あれ?さっきまでいたのにな。もう行っちゃったのかな?」

私は狐につままれたように思った。

「男の人?どこ?」

「ううん。もういなくなっちゃった。ごめんね。邪霊を倒してくれてありがとう」

私達はあと少しに迫ったアルスター座長の家がある街へ急いだ。






「豪邸です。ありがとうございます」

「何言ってんだ?あまね」

アルスター座長は変なものを見るような目で私を見てきた。思わず声が出ちゃったんだよ!到着したアルスター座長のお家はすっごい大きなお屋敷だった。最初は隣の厩舎の方がお家かと思っちゃった。


「何で?何で旅の音楽一座なんてやってるんですか?アルスター座長の家ってすっごい資産家なんでしょう?それとも貴族?」

「両方だな。うちは商人上がりの貴族だから。もちろん俺も多少商売はやってるぞ。音楽一座は趣味だ!冒険者の方は実益を兼ねた趣味ってとこだな」

アルスター座長は豪快に笑った。絶対「多少」じゃないと思う。私、本当にすごい人に拾われたんだな……。ちなみにここはクオーツ王国じゃない。その隣のガーネット王国だ。小国ながらも商業が盛んで大陸有数の貿易港を持っているそうだ。自由な国風で、アルスター座長のお家のように商人から貴族になった家も多いらしい。


「ああ、似合うね。そういうのも」

クリスが嬉しそうに言った。私はアルスター座長のお家でお風呂に入らせてもらって、用意されていたドレスに着替えさせてもらった。髪留めはそのまま。さっきまで着てた服よりも装飾が多くて動きづらい。可愛いんだけど。バンドの時の衣装に似てる。茉莉花の趣味がこんな感じ。このドレスの丈を短くしてさらに派手にしたような感じだったなぁ……。

「俺が稼いでくるからさ、今はここでそうしてゆっくりすごしているといいよ」

クリスが笑う。

「でも、何から何までお世話になる訳には……」


やっぱり、それって何か違うと思うんだ。アルスター座長、クリス、トールさんとお茶を飲みながら、今後の事を話し合う。

「うーん、あまねはしっかりしてるなぁ。つまり自分の食い扶持は自分で稼ぎたいってことだな?偉いぞ!そういう考え方は俺は好きだな!」

アルスター座長は歯を見せて笑って、お茶を一気に飲んだ。プハァッって、そのカップ、お酒が入ってたんじゃないよね?私も一口飲んだけど普通の美味しい紅茶だった。ああ、この世界にも紅茶ってあるんだな。いい香り。


「勝手なことを言わないでください、師匠。救い出したらあまねに危険なことをさせるつもりは無かったでしょう?」

「しかしなあ、本人の意思も大事にしてやらないと。締め付けすぎると小鳥が逃げ出すぞ?坊や」

「坊やは止めてください……」

噛みつくクリスになだめるアルスター座長。この二人とっても仲が良いみたい。


「では、やはりさほど危険ではない依頼を受けて、私達の誰かが付き添うという形で最初はどうでしょうか?」

トールさんが提案する。

「まあ、そこが落としどころだろうな」

アルスター座長が腕を組む。控えてたメイドさんがお茶のおかわりを入れてくれた。

「付き添いは俺がやります」

お茶を飲みながら、クリスが手を挙げた。

「すみません。それでお願いします」

私は頭を下げた。


ホッとした。何とか働くことは出来そう。あとはこの街で働けそうな場所を探すか、アルスター座長の一座で雇ってもらうか……。色々やってみよう。正直バイトもしたことないし自信がない。アルスター座長の一座は今は他の国で興行してるそうだ。副座長が率いてるんだって。大丈夫なんですかって聞いたら、アルスター座長いわく「副座長は俺より有能だ」なんだって。一月程で戻って来るから、その時までに一座に戻るかどうか決めればいいって言ってもらえた。


用意してもらったお部屋に戻ろうとしたら、クリスに話しかけられた。

「あまね、今ちょっと話せない?疲れてる?」

「ううん、大丈夫だよ」

私とクリスは庭に出た。風が爽やかで気持ちが良かった。アルスター座長のお屋敷のお庭は整然としては無かったけど、植えられている植物は生き生きしてて、森の中みたいに心地いい空間になってる。今は夏の終わりらしいんだけど、日本の夏とは違ってあまり暑くなくて過ごしやすい。


「どうしても自分で働くの?ミルドレットに何か言われた?」

うわ、クリス鋭い……。ミルドレットさんとの会話は聞かれてないはずなのに……。

「ううん、違うよ!私のいた世界ではみんな働くのは当たり前だから。よっぽど裕福な人は分からないけど……」

「そうなんだ。でも、ここは君のいた世界とは違うだろう?無理はしないでね」

「うん、ありがとう、クリス。あ、それと、もう一つありがとうね」

「?」


「私の事探してくれて。助けてくれて、本当にありがとう」

クリスが私の方へ手を伸ばす。そっと頭を撫でて髪に触れた。

「君を探したのは、自分の為だから。あの時は嫌になるくらい非力で何もできなかった……ごめんね。こんな目に合わせて」

クリスは苦しそうに私を見つめてる。

「そんなの、クリスのせいじゃないよ?」

クリスは私の言葉を遮るように近づいて私の髪を一房取って口づけた。顔に熱が上がって言葉が出ない。クリスが優しく微笑む。あ、この笑顔好きだなぁ。とっても綺麗……。ずっとそんな風に笑ってたらいいのに。クリスは真面目な顔っていうか、無表情なことが多いんだよね……。やっぱり目の事があるからなのかな?今も左の薄紫色の目を眼帯で隠してる。



「あまね、明日、街を一緒に歩いてみない?」

「え?街を?」

わあ、異世界の街かぁ。クオーツ王国でお祭りの街を見られるかなってちょっと期待してたんだよね。あんな事になっちゃったけど。

「嬉しい!行きたい!いいの?」

「うん。じゃあ、明日二人で出かけよう。トールと師匠には話しておくから」

「ありがとう!」

私はついでに求人広告が出てる店とかもあるかな、なんて考えてわくわくしてた。








あれ?もしかしなくてもこれって人生初のデートなんじゃ……。



なんで夜眠る前に気が付くかなぁ、私……。眠れないよ……。どうしよ……。





ここまでお読みいただいてありがとうございます。

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