聖女と乙女ゲーム
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わたし渡辺茉莉花がこの世界へ来たのは十七歳の時だったわ。ある朝学校へ行く途中で忘れ物に気が付いて、引き返したら誰かとぶつかった気がする。気が付いたら光のあふれる聖堂のような場所にいたの。何か見たことあるような神官服の人達に囲まれて、大喜びされた。予言の通りだって。
パニックだったけど、髭の王様の後ろに大好きなゲームの攻略対象者がいた!間違い無い!ここはゲーム『精霊の歌』の舞台クォーツ王国だ。これはゲームのスタートのシーン。わたしは聖女としてこの世界に転移したのだった。
それからは、あっという間だった。ゲームの内容は完璧に把握してたから間違えるはず無い。だって何度もやり込んだお気に入りのゲームだったから。一番好きだった第一王子ルートを選んだ。
もちろん他の攻略対象者の好感度上げもやったわ。このゲームは、みんなで協力して魔の船になった死者の船から降りてくる魔物達を倒さないと、国が滅びちゃうから。
このゲームが好きだったのは、攻略対象のキャラがかっこ良かったのもあるけど、主人公が歌で魔法を使うところなの。そう、聖女は歌で邪霊や悪霊を鎮めたり、魔物を倒したりするのよ。
わたしは歌を歌うのが大好き!「スピカ」っていうバンドのボーカルもやってた。知り合いの先輩達から誘われてバンドに入ったんだけど、いまいち人気が出なかったのよね。わたしは歌が上手いって小さい頃からお母さんに言われてたから、たぶん人気が出なかったのは作詞作曲担当の人のせい。そう、あのギターの栗原天音。
あの人を思い出すと、嫌な気持ちになる。この世界に召喚された次の日、大きなお祭りがあった。ゲームのシナリオ通り、わたしが紛れ込んできた邪霊を覚えてた「精霊の歌」で倒したんだけど、シナリオとちょっと変わってるところがあった。
それは降りてきた邪霊の数。最初のイベントでは一体だけのはずだったのに、五体も降りてきたの!まだ範囲攻撃のサポートしてくれるキャラが出てきていなかったから凄く焦った。聖神官達と協力して一体ずつ倒した。イベント失敗すると王子様の好感度が上がらなくなるところだった。
すっごくイライラしたから、音楽一座のあの黒髪の娘のせいだって言ってやった。だって、王子様があの娘の事を綺麗だって凄く誉めてたし、何より大っ嫌いな栗原天音に似てたから!
天音が一人で歌ってるところ、聞いたことがあるの。すっごく上手かった……。もしかしたらわたしよりも……。ううん、そんなはずはないと思うけど!でもあんなに上手いのにメインで歌うのは嫌だって……。一緒に歌えば盛り上がるのに、何かカッコつけてる感じが嫌だった。
ちょっと嫌がらせのつもりで困らせてやろうって、軽い気持ちだったのに……。まさかいきなり殺そうとするなんて思わなくて。よくわからないけど結晶化って現象が起きて本当に良かった……。間違いでしたって必死に訴えたら、結晶化が解けるまでお城で保護するって言ってた。本気でよかったと思った。
後で不確かなことを口に出さないようにって、大聖神官様に注意されちゃうし。ちなみに大聖神官様も対象者だから、挽回するの大変だった……。王子様が間違うこともあるって庇ってくれたから良かったけど。
ああ、もうホント天音と関わるとなんか嫌!似てるってだけでこれだもん。…………本物じゃないわよね……?よく似てた気がするけど。まあいいわ。とっくに結晶化が解けて、お城から出ていったって聞いてるし、こっちはゲーム進めるので大変だったし。わたしが頑張らないとこの国滅びちゃうところだったから。
とにかくわたしは、ゲームのイベントをクリアしてシナリオを進めて、攻略対象者の好感度を上げて、想定より早く起こる魔の船化からクォーツ王国を守った。そして第一王子様と結婚して王子妃になったの。やったわ!ハッピーエンド!
…………って思ってたんだけど。
異変は二、三年くらい経ってから起こった。各地に邪気の森が出現し始めた。なにこれ?こんなの知らないわ……。もしかしてこのゲーム、続編があったりするの?わたしそんなの知らない……。どうしたらいいの?……。
今はとっても仲良しの大聖神官様が、再び予言した。邪気の森を浄化しないと、魔物がこの世界にあふれてこの国は死者の国になってしまうって。だからわたしは森の浄化を始めたわ。でも、わたしの力だけじゃ今度は追い付かなかった……。だから伝えてもらったの。みんなに手伝って欲しいって。
この国大丈夫よね?滅びたりしないわよね?せっかく大好きな人と結婚できて幸せになったのにどうしてこうなるの?ゲームの続編があるなら、誰か情報を教えてよ!
え?聖女が三人いる?何よそれ?また予言が降りたの?ちょっと待って。聖女が三人って………。私の頭に天音に似たあの歌い手の女の子が浮かんだ。もしかしてあの子って天音だったんじゃ……。それで、聖女の一人だったんじゃないの?もしそうだったとして、あともう一人って誰なの?とにかく、天音かもしれないあの娘を探してもらおう!会ってみれば何か分かるかもしれないから!
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