DAY3? 目が覚めたら元王子様の腕の中でした
来ていただいてありがとうございます。
鳥の声が聞こえる……。風が吹いて涼しい……。あ、眩しい。あれ?私どうしたんだっけ?肩とかがあったかい。目がぼやけてよく見えない。誰か見てる。誰?誰だっけ?
「綺麗……。青空と朝焼けの空の色……。私の好きな……」
「あまねっ!」
綺麗な男の人だ。目の色が左右で違う、オッドアイ?ああ、あの時も泣いてたね、小さな王子様が……。ん?あの子と同じ目の色?私を抱きかかえてるのは誰?
「……あなたは誰?どうして……私の名前を知ってるの?」
私は起き上がった。うん、だんだん頭がスッキリしてきた。
「私、生きてる?殺されたんじゃなかったの?それとも死んじゃってて、逆行?ループ?」
私は自分の手を見た。
「大丈夫か?混乱してるのか?」
オッドアイの男の人が私の頬をさすりながら、心配そうに問いかける。いえいえ、頭はスッキリしてきたってば。あの、顔が近いんですけど……。
起き上がった私の肩を抱いているプラチナブロンドの男の人の説明によると、私は殺されそうになった瞬間に透き通った結晶に閉じ込められたんだって。剣もどんな魔術もその結晶を壊すことが出来なくて、結局私は殺されなかった。処理に困ったクオーツ王国は私をある場所に放置することにした。それがここ、「邪気の森」。この世界に複数確認されてる森で、死の船に乗れなかった邪な魂が集まって、魔物や悪い空気を生み出す死の森。生きてる人間がずっとそこにいるといつしか魔物になってしまう恐ろしい森なんだそうだ。
「そんな怖いところに見えない……」
ここでは鳥がさえずってる。空気も美味しい。森の木々は生き生きしてる。私達がいるところは木に囲まれてて、草が生えてて、ぽっかり開けた広場みたいな場所で、お日様が射してて、青空が見えてる。普通の森っぽい。
「ああ、だから私達も入れた。すまない。君を見つけ出すまで十年もかかってしまった」
立ち上がろうとした私を手伝って手を貸してくれたその男の人は、そのまま手を握り続けてる。ちょっと恥ずかしいから離してほしい……。え?今、なんて言った?
「十年?じゃあ、私、知らない間に二十七歳になっちゃったの?」
思わず顔を押さえた。さりげなく手を離してみた。
「いや、あまねはあの時のままだよ。結晶は君の時を止めていたようだ。私は十八歳になってしまったけれど」
じゃあ、やっぱり……。
「……あなたはあの時の小さな王子様なの?」
「そう。私はクオーツ王国元第四王子、クリストフェル」
「元?」
「ああ。私は、いや、俺は王籍を抜けたから。今はただの冒険者クリスだ」
「ええ?」
王子様をやめちゃったの?!そんなことできるの?さっきより混乱してるんだけど、どうしたらいい?あと、さりげなく距離を開けたのに、また詰めてくるのは止めて欲しい。恥ずかしいんだってば!
「あ、あの大丈夫ですから、王子様。私自分で歩けます」
森で再会した大人になった王子様は、私を抱き上げて森を出ようとした。ので拒否した。だって自分で歩けるから。
「でも、その姿じゃ……」
確かに、舞台衣装のままだった……。でも靴は結構丈夫そう。
「大丈夫です。お気遣いなく」
「…………」
何だかすごく悲しそうな顔をする王子様。何か考え込んでる。その表情は小さい時とおんなじだ……。
「俺はもう王子じゃない。だからクリスって呼んで欲しい。それから普通に話して欲しいんだ」
ずっと背が高くなった王子様が私の両肩に手を置いて、泣きそうな顔をして私を見て来る。一歩下がったら、また悲しそうな顔をしてる。困った私はクリスの要求をのむことにした。
「わかりま、ううん。わかった。クリス」
王子様、じゃなかった、クリスはホッとしたように微笑んだ。
それからはこれといった会話もなく二人で森の中を歩いた。聞きたいこと、聞かなきゃならないこと、ぐるぐる考え込んでてちょっと余裕が無かった。
「大丈夫?どこか具合が悪い?」
クリスが心配そうに尋ねて来る。
「ううん。大丈夫」
慌てて答える。
「……小さい頃みたいに話してくれないんだね。やっぱり俺の事、気味が悪い?」
「え?何で?」
驚いてクリスを見た。
「その、俺の目の事……」
クリスは俯いて片目を隠した。
「え?ううん。全然。綺麗だと思う。違うの。ごめんね。ちょっと色々考えちゃってて……」
私は空を見上げた。あ、あの時の鳥かな?綺麗な色の鳥が木の枝にとまってる。
「これから、どうしようとか、私、どうなっちゃうんだろうとか……」
ここでどうしたらいいんだろう?
クリスが私の前に立った。
「なら俺と一緒に行こう」
「え?」
クリスはまっすぐ私を見て、私の両手を握った。
「言っただろう?俺は冒険者をやってるって。一緒に世界を見て回ろう。俺はあの時よりずっと強くなった。あまね、ずっと君を守るよ」
「クリス……」
「とか何とか言って、最初からそのおつもりのくせに……」
ため息をついて言ったのは茶髪の背の高い男の人だ。
「そうそう。あまねの為に死に物狂いで強くなったんだしなぁ」
ニヤニヤと、からかうように言ったのは赤茶色の髪の浅黒い肌の筋肉質の男の人。
「トールさんとアルスター座長?!」
私の声に合わせるように、森の木々が風に梢を揺らし、木の上にいた鳥が高い声で鳴いた。
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