表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/27

DAY1 「舞手と歌い手どっちがいい?」って聞かれたから、歌い手でって答えました

来ていただいてありがとうございます。





「うちは働かざる者食うべからずってね。で?歌と舞どっちやる?」

いきなりの二択。高校の友達とバンドやってて、ギターやってたんで

「楽器じゃ駄目ですか?」

って聞いたら、すげなく却下されたよ……。仕方がないから

「じゃ、歌の方で」

って答えた。舞って踊りだよね?できる気がしないもん。ちなみに裏方の仕事じゃ駄目ですか?って聞いたら

「うちは全員演者で全員裏方なんだよ」

だって。


「ああ、あんた名前は?」

普通そっちを先に聞くんじゃないかな……?

「栗原天音……あまねです」

「そうか!あまね、俺はアルスターだ。我がアルスター一座へようこそ!歓迎するぜ!」

「……よろしくお願いします」

今更だけど、言葉通じてる。何語話してるの?私。












いつも通り朝早く起きて、ギターの練習をするために学校へ行く途中だった。バスを降りて、この角を曲がれば学校が見えてくる。その時誰かにぶつかったんだよね。しりもちついて、顔を上げたら草原だったんだ。持ってた鞄もギターも無くなってた。


「え?え?どういうこと?なに?ここどこ?」

パニックだよね。深呼吸して周りを見渡してみた。遠くに山とか森が見える。右の方にはやっぱり遠くに街らしきものが見える。後は草原。空には、あ、船が浮いてる。これは決定かな。船は幻みたいな黒い帆船で小さく遠くへ飛んでいった。


「異世界転移……」

意外と冷静だな、私。でもしばらく途方に暮れて座り込んでたよ。とりあえず街の方へ向かおうかなって思って立ち上がろうとしたんだ。左の方から馬車の音らしきものが聞こえてきた。近づいてきた馬車の中から出てきた人達にいきなり剣を向けられて驚いたけど、私が無害っぽいって分かったみたいで話を聞いてくれた。


私の話を聞いて拾ってくれたのは、日に焼けた浅黒い肌に赤茶けた短い髪。同じ色の瞳の兄貴って感じの男の人。二十代前半って感じかな?旅の音楽一座のリーダーなんだって。みんなには親方とか、座長とかって呼ばれてる。




「違う国から来て行倒れてたんだって?大変だったね」

「……はい」

本当は異世界から来たんだけど、そう言ったんだけど、そう解釈されたみたい。

「この街道は盗賊が出るんだよ。時々魔物も出る。あんたよく無事だったなぁ」

「そ、そうなんですか?」

うわ、ほんと運が良かった……。

「うちらはみんな訳ありで、座長に拾われたんだよ。だからあまねも大丈夫だよ」

「はい。ありがとうございます」

面倒見の良い人なんだねアルスターさんは。

「どっちにしても、許可証が無いと街には入れないから、あまねは運が良かったねぇ」

「そうだったんですか……」

うん、本当に運が良かった……。


「明日から祭りがあってね。うちらは王宮で舞や歌なんかを披露するのさ」

「あまねは綺麗だから、舞台映えするよ。裏方だけなんてもったいない。上手くいけば貴族様に見初められるかもね!」

「ほら、衣装合わせしよう。黒い髪は珍しくていいけど、なんだってこんなに短いんだい?髪が結えないじゃないか」

一座の人達が代わる代わる声をかけてくれた。みんな年代も人種もバラバラみたい。尻尾や耳がある人もいた。それでも家族みたいに仲が良い。どうやら私は良い人達に拾われたみたい。今、私ちょっと笑えたような気がする。



私は衣装を着せてもらって、肩上で切りそろえてある髪を何とか花飾りでまとめてもらった。大体みんな白っぽい衣装で揃えてる。楽器隊の男の人達は濃い藍色の衣装だった。私もあっちが良いな……。白ってなんか目立つから。でも、みんな一緒だから大丈夫だよね。


これから明日のリハーサルをやるんだって。歌をみんなで歌ったり、みんなで舞を舞ったり、楽器や歌に合わせて、一座の舞姫が舞を披露するみたい。舞姫の女の子は私と同じくらいの歳でとっても美人で舞も上手だった。舞姫の衣装は薄いピンク色。歌姫の姉さんは薄い青い衣装だ。


私はギターみたいな楽器で音を聞かせてもらって、歌姫のコーラスのハモリパートを覚えて歌うことになった。いきなりほとんど練習無しで明日本番って……。しかも王宮で。いいんですか?って聞いたらアルスター座長はおおらかに笑って、

「お前は上手いから、大丈夫だ!」

だって。ほんとにいいの?知らないよ?

「駄目なら、次から呼ばれなくなるだけだ!」

豪快に笑ってる。……足を引っ張らないようにしなきゃ。頑張ろう。


リハーサルの後、私は制服を布袋にしまって、もらった古着に着替えた。歌姫の姉さんのお下がりなんだって。私、一人っ子だからお下がりって初めて。民族衣装の本でこんな感じの見たことあるなぁ。結構可愛い。


その夜は街の外で野営をした。祭りの朝にならないと街へは入れないんだって。一座のみんなと焚火を囲んでご飯を食べた。キャンプみたい。野菜や肉を煮込んだ赤いスープ。これに固めの目の詰まったフランスパンみたいなパンをひたして食べる。後は果物がいっぱい。見たことがないものばかりだ。当たり前だけど……。一応、料理や配膳を手伝った。これもそのうち覚えてもらうからねって、料理番のおばちゃんに言われて一緒に作ったスープはとても美味しかった。


この一座は世界のあちこちを回ってるから、色々なものを食べられるらしい。私も連れて行ってもらえるかな?聞いてみたら、俺達が連れて行くんじゃない。お前が一緒に来るか決めて良いって言われた。ちょっと嬉しかった。やっぱり心細かったから。家族みたいに接してくれるみんなが大好きになった。ご飯の後は誰かがギターみたいな楽器を奏でだして歌姫の姉さんが歌いだして、踊りだすおじいさんがいて、宴会みたいで楽しかった。


私は途中で眠ってしまって、目が覚めたらまだ夜で幌付きの馬車の中で寝かされてた。家に帰ってて自分の部屋なんじゃないかって、ちょっと思ったけどそんなことは無かった。まだ馬車の中で起きてお酒を飲んでいた舞手の姉さんが

「ああ、座長がここまで運んで来たんだよ。朝になったらお礼言っときな」

って小さな声で教えてくれた。他のみんなは寝てるから、声を出さずに大きく頷いた。うわ、恥ずかしい……でも、朝になったらお礼いわなきゃ。


星空が見える。ここにもたくさん星があるんだな……。この一座のみんなとこの世界を見て回るのは楽しそう。ちょっとだけわくわくしてきた。でも絶対、楽器隊の方に入れてもらおう。そんなことをこの時の私は考えながらまた眠りについたのだった。





ここまでお読みいただいてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ