不機嫌
瞼が朝日に照らされ眩しくて目を覚ました。頭上に置いてある時計を見ると、時刻は八時十五分を指していた。
「やばい!」
完全に寝坊した。いつもは海結が起こしてくれるからって油断した。急いで身支度を整える。寝癖を治す暇もなく髪の毛はボサボサだが家を出る。
「行ってきまーす!」
遠巻きに聞こえる紗季さんの行ってらっしゃいを聞きながら走り出した。十分程走ったところで校舎が見えてきた。なんとか遅刻はしないで済んだがとてつもなく疲れた。
そして案の定一から四時間目の授業で睡眠を決め込み英気を養った。
「翔太。飯食おうぜ。」
昼休みにどことなく元気の無い碧が現れたが、俺の髪を見て笑い転げた。
「お、お前なんだよその髪。」
「ただの寝癖だ。寝坊して治す時間が無かったんだよ。」
「なんでまた寝坊なんか。」
ひとしきり笑い終えたのか、今度は少し真剣な顔で問い掛けられた。
「寝坊しかけたら、紗季さんか海結が起こしてくれるんだけど、今日は起こしてくれなかったんだよ。」
「喧嘩でもしたか?」
「してない。心当たりもない。」
俺には全く心当たりが無い。昨日も別になにかあった訳でもない。
「そういえば、変な金髪?とどっちが上水流さんに相応しいか勝負したんだって?それでなんか言っちゃったんじゃねえの?」
「別に。大切な家族だから俺の方が相応しいって言っただけだ。」
この発言に対して海結の気が下がる反応がなかったから、なんともないはず。なんなら喜んでくれたと思う。
「あ、あー。なるほどね。」
「なにが分かったんだ?」
「これは教えられないな。自分で気づけ。」
教えられないってどういう事だ?考えても分からない。それなら後で考えるとして、
「お前はなんで元気がないんだ?」
「それは...鈴と喧嘩した。」
「ふーん。」
聞いておいてなんだが、あんまり興味がない。海結の話で割と頻繁に喧嘩してるみたいだし、心配するだけ無駄らしい。そのうち目の前でイチャイチャしだすんだろうな。
「なんだよ!その興味のなさそうな返事は!」
「だって興味無いしな。早く仲直りしろよ。」
碧が喧嘩したことよりも、俺の方が事態は深刻だ。このまま海結に嫌われてしまったら、家族として暮らしていくのに支障が出ることは容易に想像できる。一刻も早く解決しないといけない。