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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第1章 穏やかな暮らし
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第9話 アンバ

「あれが隣町のアンバだよ」

「バジの町と似た雰囲気ね」

「確かに川沿いにあるし、似てるね」


 ルクバトに教えてもらい、アルドラと話しながら歩いていると、うしろで荷物を押しているスハイルが


「ふたつの町は同じ時期にできたらしいから、似てるのかもね」


と教えてくれた。



 町の中心部に入ると、バジの町と同じような賑わいだが、並んでいる品物が違うのがわかった。

 バジは農業がメインの町なので、農作物やその加工品のお店が多くある。しかし、アンバはルクバトが言っていたように海産物のお店や、金属加工の工房が目につく。


 目新しいものがたくさんあるので見学したかったが、町に入ったのが夕方だったのですぐに宿に入った。そして明日は朝から得意先に行くからと、宿での食事を終えると、すぐに部屋に戻りベッドに入った。



 翌朝は朝食をとるとすぐに出発して、アルドラと私はルクバトとナシラの後をついてまわった。商品である砂糖や黒糖は、物々交換と硬貨での支払いが半々くらいで取引されていた。私たち子どもの姿を見ると、おまけだとドライフルーツや木の実をくれるところもあり、ちょっと得した気分で取引が終わった。



 午前中で取引を終えたので、昼食後は自由行動だと言われた。ルクバトはミラクとシェアトに頼まれたものを買いに出かけていき、アルドラも服屋や布屋を見てくると出ていった。

 私はナシラと一緒に、町の色々なお店や工房を見てまわることにした。


「ナシラはこの町には何度か来たことあるの?」

「うん。これで五回目」

「そんなに来てるんだ」


 慣れた様子で町を歩くナシラに納得していると


「実はこの町の工房で働きたいと思ってるんだ」

「え?」

「来年くらいに弟子入りできたらなって……」


ナシラは今七歳で、この世界ではそれくらいの年齢で進路先を決めると言われたことを思い出した。


「そうなんだ……。どこの工房か決まってるの?」

「まだ悩んでる。いくつか候補はあるんだけど……」


 そう言って、ジッとある建物を見つめた。


「行ってみる?」

「うん」


 建物へ向かって歩いていくと、外からでもソレとわかる金属音が聞こえてきた。外には鋤や鍬などが並べられている。


「ナシラは鍛治職人を目指してるんだね」

「んー、実は鍛治か鋳造で悩んでる」

「作れるものが全然違うけど、なにか作りたいものがあるんじゃないの?」

「農器具やナイフも作りたいけど、鍋とかフライパンも作ってみたいんだよね」


 話を聞くと、最初は鍛冶工房に行ってみたいと思っていたらしい。しかし、ミラクと料理方法の話をするようになり、色んな調理器具を作ってみたいという気持ちも出てきて悩んでるという。


「両方できる工房はないの?」

「探してみたけど、今のところはないみたい」

「そっか……」


 しばらく外から様子を眺めて、次の工房へ見学に向かった。いくつか工房を見たけど、確かに鍛治と鋳造の工房は別物のようで、ナシラの悩みが少し理解できた。


 工房の見学も終わったので、持ってきたゴムボールでジョクスでもしようと、夕食の時間まで町の広場でふたりで遊んだ。



 夕食はせっかくだからと、バジでは珍しい海産物を提供している食堂に連れていってくれた。

 海藻のスープや魚の干物を焼いたものが出てきて、私は少し懐かしさを感じながら、それらをじっくりと味わった。


「クラズが釣ってくる魚もこうやって食べられるといいわね」

「あの辺りの魚は干物に向かないからなぁ」

「そっか、それは残念ね……」

「でもこれとこれはミラクに頼まれて買ってあるから、家でも食べられるぞ」

「これは海藻といってね、乾かして持ち運ぶことができるから、アンバで買う人多いんだよ」

「このスープに入ってる、これかしら?」

「……そうそれ」


 みんなの会話を聞きながら、海藻の乾物にはワカメや海苔もあるのかなと、ふと思った。

 そしたらワカメご飯やおにぎりが食べられるかも?

 今でも美味しいものは食べられるし、食事に不満はないが、手に入るかもと思うと無性に食べたくなってくる。


 明日の朝には出発してしまうから、また今度来た時に探してみようと心に決めた。

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