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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第5章 願い
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第69話 はじまり

「ワタシは多分、地球でいうところの宇宙人と呼ばれている存在が一番近いのだと思う」


 想像もしていなかった突拍子のない語り出しに、私は息を呑んだ。

 そして、その人はこの星を創ったきっかけを話しはじめた。


「ある時、この宇宙空間を移動している最中に地球を見かけたんだ。今から五千年以上前かな。ただ生物が存在する星を見つけただけなら気にも留めなかった。だけど地球には気になる現象があったんだ」

「気になる現象?」

「地球でいうところの『輪廻の輪』だよ」


 輪廻の輪の干渉を受けない距離から地球を観察していると、地球上の人間という生物に、もれなく『魂』が入っていることに気がついたのだという。

 その肉体が死を迎えると、『魂』は肉体から離れ、『輪廻の輪』に吸い込まれていく。

 そして、再び新たに生まれた人間に『魂』が入れられる。それを延々と繰り返していたのだと。


「輪廻転生と言われているものですね……」


 その話を聞いて、輪廻転生が実際にあることに驚いた。


「そこで気になったのは、人間としての死を迎えて肉体から離れたあと、アレから逃れようと抵抗している『魂』がいくつかあることだった」


 輪廻の輪を「アレ」と呼び、美しい形の眉をひそめてその人は続けた。


「ワタシは、その『魂』と交信してみた。すると、アレに吸い込まれると、この記憶さえ消され、再び無作為に割り当てられた人間の中で、その肉体が死ぬまで生きなければならない。その繰り返しが苦しいのだと」


 それを聞いて、私はその魂と自分を重ね合わせ、少し息苦しさをおぼえた。


「さらにいくつかの『魂』と交信し、同じように人間としての生まれ変わりを抵抗している『魂』があることを確認した。ワタシはその『魂』たちとアレから逃れられる方法がないか一緒に考えた」

「方法はあるんですか?」


 それができれば、人間として生きる苦悩から解放されるのではと私は期待して聞いた。


「残念ながら現時点では打開策は見つかっていない。アレを壊すことも検討したが、それも今のところは難しくて断念した」

「そうなんですか……」

「そこで一時凌ぎではあるが、それらの輪廻転生から逃れようとしている『魂』が避難できるように、ワタシはこの星を創ったんだ」


 話を聞きながら、今までバラバラだったパズルが少しづつ組み上がっていくのを感じた。


「しかし、ワタシの作った肉体に『魂』を定着させても、百五十年程経つとアレの引力によって引き剥がされてしまうんだ。どうやらアレに……」

「ちょっと待ってください」


 ふたつの疑問が頭に浮かんで、私は咄嗟にその人の言葉を遮ってしまった。

 しかしその人は、話の腰を折られたことを気にする様子もなく、穏やかに私を見て、「どうぞ」と質問を促した。


「もしかして、ここに暮らす全ての人たちは、ここで生まれる前は地球で生きていたんですか?」

「そうだよ」


 その返事に、私は思わず目を瞑った。


 ──みんな私と同じだったんだ……


 誕生の家のみんなも、今まで会ってきた人たちも、この星で暮らす全ての人たちは地球で死亡し、何らかの理由で人間に生まれ変わることを拒絶してこの星に転生してきた……。

 みんなの前世がどんなものだったのか……。

 それはきっと私の想像もつかないようなものだろう。

 だけど、その事実だけで私の胸は痛んだ。



 私は目を閉じたまましばらく深呼吸をした。

 そして気持ちを落ち着けてから、グッと顔を上げて、もうひとつの疑問をぶつけた。


「もうひとつ、この肉体の寿命は本来百五十歳だということでいいですか?」

「うん」

「でも今の寿命は三十歳に満たないのですが…」

「そう、まさにその謎はエルライのお陰でさっき分かったんだ」

「私の……?」

「さっき地球の人口を聞いたでしょ? あれで分かったんだ」


 地球の人口とこの肉体の寿命がどう関係あるのか、私はまったく想像できず、話の続きを聞いた。


「そもそもワタシがこの星を創った時は、地球上の人口は今と比べものにならないくらい少なかったんだよ。さらに輪廻転生に抵抗する『魂』の数は、数えられるくらいだったんだ」


 この星を創ったのが五千年以上前と言っていたから、それは紀元前の話だ。そんな大昔の人口なんて知らないが、当然少ないだろう。

 しかし、この話が短命の理由につながっているように思えなくて重ねて質問した。


「それと私たちの寿命とどういう関係があるんですか?」


 その人はどう説明しようか考えるように、少し沈黙してから口を開いた。


「地球における人間の寿命は生物としての肉体だから、文明が進めばその分寿命が延びる。だけど、この星の肉体はワタシが作った人間の形をした『器』で、そもそも生物じゃないんだ……」


 この星の人々が生物じゃないという言葉に、私は今までこの世界で見てきた、繭から生まれる性別のない体、手をかざすだけで治癒できる技術、死とともに消滅してしまう肉体、そして争いもなく穏やかな人々、そういった秘かに疑問に思っていたことが解消された気がした。


 私がひとりで納得していると、その人は話を続けた。


「ここでは、その器に入っている『魂』の大きさに寿命が左右されるようなんだ。昔はもっと『魂』が大きかったんだよ」


 その人は私を見て、「あ、ちなみに物理的な大きさではないよ」と、そう捕捉する。


「大きかった魂が、小さくなるなんてことがあるんですか?」


 魂に大小がある意味が分からなくて、私は首を傾げると


「普通はないのだけれど、ここではあるみたいだね。どうやら人口が増えるにつれ、アレは内包していた『魂』の数が足りなくなると、今度は『魂』の分割をはじめたようなんだ。新しく生まれた人間に『魂』を入れるためにね」


その人は眉をひそめて、少し嫌そうに答えた。


「そこまでして人間に魂を入れる理由は何なんですか?」


 どういう理由があって輪廻の輪がそんなことをしているのか、私は理解できずに疑問を口にした。

 するとその人は、お手上げだと言わんばかりに肩をすくめる。


「分からない。誰が何の目的でアレを作ったのか、いつ頃からあるのかも分からない。けれど、ワタシがこの星を創ってから一度もこちらに干渉がないところをみると、過去の遺物かもしれない。当初は何らかの意図があり設置したが、時間がたって放置され忘れ去られた、ね。もしかしたら設置したモノ達もアレを起動させた時に、アレに取り込まれてしまったのかもしれないし、アレに関しては何も分からない」


 その話を聞いて、そんなよく分からないものに延々と捕らえられている状況に怒りを覚えた。


 しかし、それよりも気になることがあった。


「そんなよく分からない状況なのに、どうしてあなたは私たちを助けてくれようとしているんですか?」

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