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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第5章 願い
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第67話 入口

 翌朝、みんなが帰る準備をする中、私はここまで案内をしてくれた人に声をかけた。


「私はもう少し調べてみたいので、ここに残ろうと思います」


 そう告げると、その人は少し驚いていたが、調査隊の肩書きの効果か、納得するまで調べるといいよと笑顔で了解してくれた。


「帰り道はこの子が知っているから安心してね」


 そう言うとソリの連結部分を解いて、ソリ一台と犬を一匹、私に託してくれた。



 雪原が眩しい青空の下、犬ぞりで北の大都市へ帰っていくみんなを見送った。

 そして、その姿が完全に見えなくなったのを確認してから、私は再びランプを手に遺跡へ向かった。


 長い階段を降りて、私の足音だけが響く廊下をひたすらまっすぐ歩き、再び階段を上がった。

 昨日と全く同じ道のりを進んでから突き当たりの左手の部屋を見ると、そこからわずかに明かりが漏れているのが見えた。


 私はそれを見て、ゴクリと唾を呑んだ。

 そして部屋の前まで忍び足で進み、そっと中の様子を窺った。昨日は真っ暗だったその部屋が、なぜか部屋の隅まではっきりと見える明るさになっている。ただ、どこにも光源はない。


 そして、昨日は何も無かった部屋の真ん中に、台座のようなものが立っているのが見えた。それは鋭利な刃物で切り出されたような人工的な素材で出来ており、私の胸くらいの高さがある。


「やっぱり……」


 昨日とは異なる様子に息を呑んだ。

 実は北の遺跡で発見された石板の中に『最北の地の遺跡は単身で向き合うことが求められる』という記述があったのだ。

 昨日、部屋に最後まで残ってひとりになってみたが何も起きなかったので、部屋でひとりになるだけではダメなのかもしれないと考えた。


 何もかもが思いつきなので、みんなを巻き込むのも申し訳ないと思い、まずはひとり残って実験をすることにしたのだ。

 どの範囲からひとりでいる必要があったのかは不明だが、少なくとも遺跡の入り口からひとりでいなければならないのは確実なようだ。

 そして記述どおり、たったひとりでこの遺跡に立ち入ることで変化が起きた。



 私は恐る恐る地面から突き出た台座のようなものに近づいた。

 触れないように覗き込むと、上部はディスプレイのように暗い画面になっていて、そこに白く発光した『Language』の文字が浮かんでいた。


 その文字を見て、私はハッとした。

 なぜ北の遺跡であの石板が気になったのか、やっとわかった。

 模様と勘違いするほど文字としての形がほとんど崩れてしまっていたので、あの時は気がつかなかったのだが、『Language』という文字が彫られていたのだ。


 ──なぜこんなところに地球の言葉が存在するのだろうか?


 私はこの世界で見たことのない、人工的な光を発している画面をしばらく見つめた。

 様々な可能性が頭をよぎるが、どれも想像の域を出ないものばかりで、結局この先に進むにはこの画面に従うしかなさそうだ。


 私はタッチパネルを操作するように、その文字を触った。すると画面上に口の形のマークが出てきた。それを見て、これは声を出すという意味だろうかと、しばらく悩んだあと


「日本語」


と、発声をしてみた。


 すると今度は画面の真ん中に映像が映り、上部に『これは何か日本語で答えてください』と日本語で質問が浮かび上がった。

 映像は暗い宇宙に浮かぶ青い星。それは教科書やテレビなどで何度も目にしたことがある。


「地球」


 一体これは何なのか、私は不安と恐れに足がすくみそうになりながらも日本語で答えた。


 すると、再び画面が切り替わり、画面には『あなたのこの世界での名前と出身地を日本語で教えてください』と浮かび上がった。


「わ、私はエルライです。バジで生まれました」


 そう答えると、微かに音がしたような気がして、私は顔をあげてぐるりと部屋を見渡した。

 すると入り口が消えていて、完全にこの部屋に閉じ込められたことに気がついた。


 ──これからどうなってしまうんだろう……


 もしかして、この世界の異物としてこの世界から追い出されてしまうのだろうか……?

 不安な気持ちで画面に目を戻した。

 次に文字が浮かび上がるのを待ったが、画面は暗いまま何も表示されない。

 その代わりに、今度は音もなく正面の壁が自動ドアのように左右に開き、そこから差し込む柔らかな光に思わず目を細めた。


 そこには青い空と広い草原が広がっていた。

 これもディスプレイに映し出された映像なのだろうかと台座から離れて、開いた壁のほうへ近寄ってみる。

 そろそろと手を差し出してみると、そこにはぶつかるものは何も無く空を切った。そして草原からそよ風に運ばれてきたであろう草の匂いを感じた。


 部屋の中からしばらくその風景を眺めていたけれど、何が起こるわけでもなく、ただ穏やかな風が頬を撫でるだけだった。


 このままここでぼんやりとしていても、恐らく何も起きない気がした。

 しかも入り口から出ることも出来ない。

 それなら前に進むしかないと勇気を出して一歩足を踏み入れると、草の柔らかさが足に伝わり、空に小さな鳥が鳴きながら飛んでいるのを見つけた。


 ──これからどうすれば良いんだろう?


 立ち止まっていても仕方がないので、ここが何の場所なのか知るために、慎重に辺りを見回しながらゆっくりと部屋から離れていった。

 最初こそ腰を落として警戒して進んでいたが、そんなことをするのが馬鹿らしくなるくらい、どこまでも穏やかな景色が広がっているので、私は開き直って普通に歩いた。


 部屋から真っ直ぐに歩いていくと、少し丘になっている場所があり、ひとまずそこを目指すことにした。


 丘まではそれほど距離もなく、すぐに辿り着いた。

 そこから周囲を見渡すと、丘を少しくだった先に、白い衣装をまとった長い銀髪の人物がひとり、椅子に座っているのが見えた。


 そして、座っている正面にもう一つ椅子があり、そこは空席だった。


 ──あの人は一体……?


 それ以外は相変わらず草原が広がっているばかりで、手がかりになりそうなものは他に見当たらない。

 少し悩んで、やはりあの人に聞くのがいいのだろうと気持ちを奮い立たせ、椅子に座る人物のほうへ歩いていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] あっという間に読んで最新話に追いついてしまいました。 こんなところで暮らしたい、というような争いのない優しい世界だけれど、謎は多いので続きを楽しみにしています!
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